第5話―12 ここをキャンプ地とする!
全員で車から荷物を降ろしたあと、主に弥幸と省吾でテントを2張設営した。場所は入り口を入ってすぐの校庭の端のあたり。弥幸がその場所がいいと主張した。
「ほら、鳥居が見えるでしょ」と弥幸は指で示す。校門のほぼ正面の小さな橋を渡った先にたしかにくすんだ赤の鳥居が見えた。そこから階段が上へ続いている。
「ああ、あれが話に出てきた神社に通じる鳥居ですか」円が受ける。
「そうそう、ここからならすぐそこに見えるから、なにかあった時すぐに動けるね」
「女の幽霊って⋯⋯言ってましたよね?」円は慎重に尋ねた。
「って話だけど、どうだろね?」弥幸もその点は懐疑的なようだ。「はっきり見てないっていうし、その辺は微妙なとこだよね。英依さんは "神さま" とか言ってたしさ。そういえば山の神は女だって話もあるよね。だから女が近づくと嫉妬するとかね。なら女に見えたってのもアリっちゃアリか⋯⋯」
「山ってほど奥深い場所でもない気がしますけどね」
「いやいや、それはさ、僕たちが舗装された道路を車でやってきたからそう感じるんだよ。あの道がなくて、歩きでここまで来るとなれば、なかなかの山行だろうと思うよ。そもそもこの村のかつての主要産業は林業だったそうだからね。山と切り離せない土地ではあるんだよ」
なるほど、たしかに弥幸の言うとおりかもしれない。それなら英依の "神さま" も文字通りの意味ってことか。それはそれでものすごくマズい気がするな、と円は考えた。神様とやり合うような事態になったとしたら、自分たちでなんとかできるものなのだろうか。
せめて英依先輩がいたらなあ、と円は思った。まだ出会ってからそれほど経っていないが、なぜか絶大な信頼感があった。あの人がいればなにか起こってもうまいこと対処するだろう。ビンタくらいは張られるかもしれないが。
円があれこれ考えている間にも拠点の設置は滞りなく進んでいた。弥幸が指示を出し、省吾がそれに応える。テントも手早く立てられた。弥幸が慣れているだろうことはわかっていたが、意外にも省吾の手際もよかった。
「有明くんもけっこう手慣れてるね。アウトドアとかやるんだ?」円が問いかける。
「はい、山籠りした時に覚えました」省吾が快活に答えた。
「そっかぁ」円は納得しかけたが⋯⋯ん?山籠り?山籠りってなんだ?いま時の、という言葉を省吾に使うのはためらわれるが、それにしてもいま時の若者がそんなことするのか?漫画のキャラだってもう修行とかしない時代だぞ。籠ってなにするんだ?
様々な疑問が円の頭のなかに浮かんできた。これは直接尋ねてみるべきだろうか?しばらく省吾の顔を見つめながら考えた。するとストンと腑に落ちた。
⋯⋯うん、するな。こいつはそういうことする。なにするって、いつも通りのことをやるんだ。あれをもっと山仕様にしたようなのを。そういえば前にもそういうこと言っていたような気がする。深く考えるだけムダだった。
弥幸はもうカメラなどの機材の準備を始めていた。ご丁寧にテント周りに定点カメラまで設置するらしい。どうせなら神社に設置したほうがいいような気もするが、やはり英依の勘の通り、凛子になにかが起きることを想定しているのかもしれない。
とりあえずは探索してみてからだな。いまの段階であれこれ考えても仕方がない。もう来てしまったのだ。なにが起こるかは知らないが、起こったことに対処するしかない。
そう気持ちを切り替えた円は、自分もいそいそと出発の準備を始めるのだった。




