第5話―11 廃村にやってきた
「わぁ、すご〜い」凛子が歓声をあげる。「なんか映画のセットみた〜い」
峠を慎重に降ると道の脇にポツポツと建物が見えた。小さな、昔は農機具かなにかを収納していたであろう、トタン屋根の納屋。斜めに傾いでいるそれは、ずいぶん長いこと放置されたままであることを物語っていた。
それを入口に、建物と建物の距離が縮んでいく。弥幸は車をゆっくり走らせて、それらを見物していく。
円もさっきからジンバルに装着したスマホで撮影していた。以前顔を映すなと凛子に注意されたので、いまはあえて凛子の顔越しに風景を撮影している。
「たしかに⋯⋯これはいい風景ですね」円は感嘆する。
古びて朽ちかけてはいるが、まだ在りし日の名残りを思わせる家々。当然人影はない。道も両脇から植物の侵食を受けてはいても、意外としっかりしている。有名心霊スポットにありがちな、心ない侵入者による破壊の痕も見受けられなかった。
そもそもの地理的なアクセスのしにくさもあるだろうが、一時話題になった怪談ネタがすぐに作り話とバレたことで、探索者の "行く気" が削がれたのがよかったのだろう。円はスマホの画面越しに見ながら、そう分析した。
車は家の垣根と垣根に挟まれた隘路をゆっくりと進んでいく。家を覗き込むと、どこも崩壊とまではいかないまでも、人の手が入っていないことがうかがえた。円はあとでゆっくり探検しようとワクワクしていた。隣では省吾も食い入るように村の様子を観察している。
「すごいですね」率直な感想が省吾の口から漏れる。
「有明くん、前から思ってたけどこういうの好きだよね。ホテルとかトンネルでも感動してたもんね」
「はい、こうやっていろいろ回るようになって、自分でも初めて気が付きました」
この空手バカに空手以外の興味を引き出せたのなら意味があったな、と円は思った。趣味は多い方がいいだろう。片方で行き詰まっても別のはけ口を用意できる。まあこいつが空手で行き詰まったりするのかは知らないが。
「ああ、あったあった。たぶんあれだ」と弥幸。先の方に家々の間を抜けて、少し開けた空間が見えた。「あそこが分校だったって場所じゃないかな」
入り口の門らしき石柱が二本、苔に覆われて立っている。その間を抜けると広いスペースを挟んで、横に長い平屋の建物。あれが校舎ならこの空間は校庭だったのだろう。いまは長く伸びた雑草や苔、枯れ葉や小石などに覆われていて、とてもじゃないがここで走り回って遊んだりはできそうになかった。
弥幸は入り口を入ってすぐの場所で車を停めた。全員がホッと一息ついた。各々車から降り、背筋を伸ばす。とりわけずっと運転してきた弥幸は念入りに身体の各部を伸ばしていた。
円は意識しないまま大きく深呼吸した。ニオイが違うなと思った。夏の日差しもあり、草いきれが周囲に漂っている。その密度が濃いような気がした。人間のいた痕跡はあるものの、いまやほとんど山の中みたいなものだ。街なかでは味わえない感覚だった。
「とりあえずこの辺りに拠点を設置しようか」弥幸が声を掛ける。「そのあとじっくり探索するとしよう」




