第5話―10 山道をゆく
目的地に近づくにつれて、だんだん建物の数も減っていき、交通量も減っていた。郊外を突き抜けて、幹線道路を外れ、峠を奥の方へ奥の方へと向かっていく。周囲は緑が深くなり、道も狭くなっていった。
いまは昼間だからいいが、夜にここを通ったならば月明かりだけが頼りとなるだろう。道路が敷いてあること以外は、人の管理下の外側にあるように感じられた。実際その道路すら、整備がおぼつかなくなっていた。時折通行の邪魔になる位置に石や木の枝などが落ちていた。
「うわ~やっぱ道幅ギリギリだなあ」弥幸が嘆き声をあげる。「自分の車で来たほうがよかったかも」
道はたしかに狭く、走りづらそうだ。道を外れたら谷底へ真っ逆さま、というほどではないが、このSUVではかなり慎重を期さねばなるまい。
実はそんな道の様子を見ながら、円は少しだけウズウズしていた。ちょっとこの道走らせてみたいなあなんて思っていた。というかこの車を見てからずっと運転してみたい気持ちを抑えていたのでもあった。
円が自信を持っているもの――オカルトと車の運転。実は車の運転に関してはせいぜい普通か、それよりまあ少し上手かな程度ではあるのだが、自動車学校の褒めて伸ばすタイプの教官や、家族からもうまいうまいとおだてられ、いい感じに天狗になっていた。
「運転代わりましょうか?」円はボソッと声をかけた。この山道を巧みにスイスイ運転していって、またうまいうまいと褒められる。そんな光景を頭に浮かべていた。
「はぁ?あんたなに言ってんの」凛子が噛みついてくる。
「いや、私、車の運転得意だから」円は自信たっぷりに返す。
「そんなの嘘でしょ、どうせあれでしょ?ゲームとかで得意なだけなんでしょ」
「フッ」円は鼻で笑う。あ~あ、こいつなにも知らねえからなあ、と哀れみを込めた目で凛子を見た。そして、お前は知ってるもんなと、凛子を指差しながら省吾を見た。省吾は気付いてくれなかった。
「ムリムリ、絶対ムリ」凛子は強く拒絶する。「あんたの運転に身を任せるとか、怖すぎ」
怖いとかこいつ、さっきはあんなに命知らずな態度で英依先輩の制止を振り切ったくせに、と円は苦々しく思った。知らないとはいえ失礼なやつだ。たぶん霊障だな、脳にキテるんだ、呪いのアイテム借りてくればよかった。
「まあまあ。ほら、あともう少しだからさ」弥幸が間を取り持ちながら、進行方向へ注意を促す。
そこは峠の頂点の、少し開けて見晴らしのよい地点だった。道を降った先に、いくつかの建物が固まっているのが見えた。目的地がいよいよ近づいてきたのだ。
まだここからはあの集落が人のいない廃村であるというのは判別できないが、円の気持ちは俄然高まってきた。もともと心霊スポットとしては弥幸の話を聞いてもまだ眉唾に思っていたが、英依の思わぬお墨付きも得た。またなにかが起こる、と――この瞬間確信していた。
前の席を覗き込み、凛子の様子をうかがう。なにか変化はあるだろうか?英依は "相性がよすぎる" と言っていた。しかもその相手は "神さま" だと。いや、"みたいな" だったか。ならいろんなのが考えられるな。土地によっては妖怪だって神様だ。ご先祖様が神様になってたりもするかもしれない。
円の頭のなかを思考が駆け巡った。それらはさまざまな可能性を想起させたが、結局最後には英依から受けた "守れ" という指示へと行きついた。
守らないとな、と円は思った。これは最低限、自分とそして隣の空手バカに課せられた使命なのだと、柄にもなく覚悟を決めた。




