第5話―8 MAYOI先生の車
「それにしてもいつもとクルマ違うんですね」後部座席に省吾と並んで腰かけた円が、右斜め前の運転席へ向かって話しかけた。
「ああ、これね。叔母さんに借りたんだよ。さすがにこの人数で長距離ドライブは僕のじゃ辛いからね」弥幸が答える。
おお、これはMAYOI先生の車か、と円は車内を見回した。それからあちこちベタベタ触って、鼻をクンクン利かせた。完全にファンとしての振る舞いだった。
「まあ、叔母さんあんまり乗らないんだけどね。基本インドアな人だから。ほら、税金対策ってやつ?」
それを聞いて急速に熱が冷める円。なんだ、それじゃあ普通の車だな。人気ホラー作家の持ち物ならもっといわくでもあれば面白いのに。これまでオーナーを数人ヤッちまってるとか、後部座席が濡れているとか、異世界に突入できるとか、スピード狂の妖怪が取り憑いているとか。
円はしょうもないことを思って、勝手に失望していたが、乗り心地はかなり快適だった。広々とした室内はいろんな用途に対応できそうだ。隣の省吾はさっそく自分の身体の位置をあれこれ調整して、車内トレーニングの可能性を模索している。車高が高いせいか、窓から見える視界が広いのも気分がよかった。
「叔母さんもね〜、こんなSUVなんて選ぶくらいだから、少しは外に出る気があったんだと思うけどね〜」弥幸は話を続ける。「でも結局忙しいみたいで、僕が心霊スポット巡りで使うのが主だね〜」
「その心霊スポットの映像を撮りに行くのって、先輩しかやってないんですか?なんかお知り合いもそういうことされてるみたいなこと言ってましたけど」円は自分にもその仕事を回せと、暗にそのような色気を出して尋ねた。
「叔母さんが言うにはね、そんな危険なこと他所様にやらせるわけにはいかない、だそうだよ。僕はいいのかよって話だよね〜」弥幸はそう言ってハハハハと笑った。
「えっ、でもそれってなんか〜みゆき先輩に冷たくないですか〜?」凛子が口を挟んだ。口調の割には真剣に心配そうな顔をしている。
「それがね、あなたは絶対大丈夫だからって言うんだよね。行き帰りの事故とかそういうのだけ気をつけなさいって」
なるほど、ということはMAYOI先生は弥幸の体質を知っているわけか、と円は考えた。これまで見てきた弥幸の ”霊(無)能力“ というか、 ”0能力“ というか、があれば、霊障などの危険は回避できるだろう。なにせそれを受信する能力がないのだから。撮影だけを目的とするならば、これ以上の人材もないのかもしれない。
心霊との関係は一方的なだけでは繋がらないような気がしていた。働きかけてくる側と、それを受け取る側、その相互の組み合わせがピタリとハマった時にはじめて、なにかしらの現象が観測されるのではないか。
円は隣の空手バカを見る。こいつみたいに受信はしてもそれを跳ね除けて、逆に自分の意志を押しつけにいくようなのもいる。省吾の空手がなぜか通用するのも、その強い意志を拳に乗せて無理矢理叩き込んでいるからかもしれない。
まあ暑苦しいよな、こんな生命エネルギーの塊みたいなのが突っ込んできたら。自分がオバケだったら絶対に避けるわ。
隣に座る者のそんな思いも知らず、省吾は空気椅子状態でバランスを維持するという、円からすると謎のトレーニングに熱中していた。




