第5話―7 夏の幻想と白い現実
爽やか夏オーラ全開の超絶イケメンに続いてキラキラ☆ギャルが降りてきた。完全に気分はエンジョイサマーバケーション、ウェ~イ、ブチ上げて行こうぜ。円には縁遠かった夏のイメージが次々に浮かんできた。まさか自分がこんな浮かれポンチな夏のご一行に加わることになろうとは⋯⋯向かう先は海か?浜辺でBBQか?
しかし最後に降りてきた白い空手着姿の男を見て、円は一瞬で正気に返った。儚い夢だった。
そうだ、これは心霊スポット探索、現界と異界の狭間で起こる不可思議な現象を検証するための旅だった。そんな真夏のJamboreeみたいなものではないのだ。ジャンボリーってなんだ?まあいい。円は気を引き締めなおす。ぬるい覚悟で手を出せば、本当に深淵に引きずり込まれてイッちゃてしまわないとも限らない。
よく見てみるとキラキラ☆ギャルもそんなにキラキラした表情でもない。どこか恨みがましい目で、省吾のことを睨みつけていた。そうか、と円は理解した。こいつもさっきの自分と同じで、夢から強制的に醒めさせられたのだろう。
実際、凛子は弥幸の車の助手席に座って甘い夢を見ていた。向かう先が廃村の心霊スポットだということも忘れてうっとりと隣の弥幸を見つめた。夏の恋がいま、ここから始まるのだと胸をトキメかせていた。待ち合わせ場所で省吾と合流するまでは⋯⋯
「あ、いたいた」という弥幸の声に反応して前を見ると、そこには夏の日差しに照らされて、白く輝く空手バカが立っていた。もう全部台無しである。理想の夏のイメージに、省吾はあまりにも異物だった。
夢から醒めてからずっと、あんな顔をしていたのだろうかと円は想像し、思わずプッと吹き出した。それに気がついた凛子が鬼の形相で見つめてくる。円は省吾に向かってサムズアップした。いいぞ、グッジョブだ。省吾はそれを受けて、意味がわからないのか首を傾げた。
「お待たせ〜」弥幸はいつにもまして朗らかに声を掛ける。この人もまた、まったくブレない。
「あ、ども」と円は軽く会釈を返した。そして省吾に話しかける。「有明くんは泊まりでもその恰好なんだね。まさか着替えがないとか、そんなことはないよね」
「ああ、はい。着替えはありますよ。道着ももう一組用意してあります」
「ふ~ん。じゃあ準備万端だね。ボディガード頼んだよ」円は軽い気持ちで言ったのだが、省吾はやけに嬉しそうな顔をした。
「いや、おかしいでしょ」凛子はそんなふたりのやり取りに口を挟む。「これからあと何時間も移動するんだよ?そんな格好、絶対おかしいでしょ。せめて現地に着いてからにしてよ」
「どうする?なんか怒ってるみたいだよ」円は凛子を見てニヤニヤ笑いながら省吾に問いかけた。
「着替えたほうがいいでしょうか?」
「まあまあ、コリンちゃんもそう怒らないで。有明くんはこれが正装なんだし」弥幸がとりなすが、どうも凛子はこれに関しては引く気がないようだ。
「だって、せんぱ〜い」凛子は甘えた声で言い募る。「正装ならなおさら移動の段階で着てちゃダメじゃないですか〜?TPOって大事ですよ〜」
おお、たしかに、と円は思わず納得してしまう。正装で日常を送ったら、それはもう普段着ってことだ。コリンのくせになかなかまともなことを言う。オンとオフを明確にするためにもあの格好になるタイミングは考えたほうがいいかもしれない。
弥幸も説得されてしまったのか、困った顔をして省吾の様子をうかがっていた。
そして省吾はというと、なんだろう、なにも響かなかったのか、特に表面に変化は表れていない。これぞ不動心。何事にも動じず、揺れ動くことのない強靭な心。凛子の言葉などどこ吹く風である。
「だってさ、車で着替えてきなよ」円がサラッと促した。
「ああ、はい」省吾は返事をするといそいそと車へ戻っていった。




