第5話―3 部室でおしゃべり
3限目が終わると、円は待ち合わせていた省吾と落ち合ってオカ研の部室へ向かった。ドアの前に立ち深呼吸をする。ドアを開ける前はやはりまだ緊張してしまう。ふと気づくと脇に立つ省吾もスーっと深く息を吸っていた。どうしたのだろうか?とにかく意を決して円はドアをノックした。
「は~い」という軽い声が聞こえてきた。円は思い切ってドアを開く。中には弥幸とマスクド凛子のふたりだけ。後ろからハァーと息をつくのが聞こえた。なるほど、省吾はあの人を警戒していたんだな、と納得した。
「チッス」と小声で言って、円は首を竦めた。そしてうつむきがちに進んでいって、前の時と同じ椅子にかけた。一方省吾は「こんにちは」と丁寧に礼をして、円の隣に座った。
弥幸はいそいそとお茶の支度をしている。凛子が手伝おうとするが、いいからいいからと言って全部自分で準備を整えた。
「有明くんがカフェインだめだっていうから、今日はルイボスティーを用意してみたよ」言いながら弥幸はポットにお湯を入れる。数分待つ間にお茶の効用についてあれこれ説明を加えた。その後全員のカップに丁寧に茶を注いでいく。独特のフルーティな香りが部屋に満ちた。
このお茶へのこだわりといい、やっぱこいつ育ちがよさそうだな、と円は考えた。だいたいこんな空手バカに飲ませるものにまで気を遣うとは、よっぽど人生に余裕があるに違いない。普通はできないことだ。
それで省吾はというと、特別な反応は示さなかった。お茶を渡され、「わざわざすいません」といつものように丁寧に礼を言ったが、それ以上はなにもない。ただ静かにカップに口をつけている。プロテインでも入れてやれば喜ぶだろうか?
円の目の前に座っている凛子はカップを手に持ちながら、うっとりとした眼で弥幸を見つめている。いまこのギャルの脳内ではどんなストーリーが展開しているのだろう?イケメン執事に茶を振る舞われるお嬢様か?いやコリンだから悪役令嬢だな。そう思いついて円はフッと鼻で笑った。
「いやあしかし、昨日はすごかったね」弥幸は唐突に話し始める。この話題についてしゃべりたくて仕方がなかったといった様子。「ビデオにもバッチリ映ってたよ。足というよりも、また黒いモヤモヤって感じだけど」
「へえ、映ってたんですね。私の目には割とくっきり足に見えたんですけど、やっぱりカメラだと違うんだな⋯⋯」最後は自分の中で考え込むみたいに、円はボソリと言った。
「私も足が見えました」省吾が同意する。
「そうだってね、ビデオではこの黒いモヤモヤがコリンちゃんの後ろで消えていくんだけどね⋯⋯」
言われて凛子の身体がビクンと跳ねる。昨日一番ひどい目に遭ったのは彼女だ。マスクのせいで表情のすべてはうかがえないが、かなり動揺しているように見えた。
「英依先輩がすごいことやってましたね」円は言いながら少し寒気がした。軽く部屋を見回す。たしかにこの場にはいないはずだが、なぜか彼女の話題を出すときに緊張感があった。「あの、今日って英依先輩は⋯⋯」
「ああ、英依さんは来ないらしいよ。彼女気まぐれだからね。ビデオ映像だけ送ってくれって連絡が来てたよ」弥幸がそう言うと、なんとなく部室内の雰囲気が軽くなったような気がした。




