第4話―エピローグ
「それじゃあみんな、撤収準備」弥幸が控えめな声量で号令をかける。「別にどうってことないんだけど、一応なんの痕跡も残さないようにね」
まだいろんな意味でダメージの深い凛子以外でテキパキと片付けた。といっても別にたいして散らかしたわけでもない。ほんの数分で元通りだ。
「あれ?そういえば⋯⋯」円はふと思いついて尋ねた。「ここから出たあと鍵ってどうするんですか?まさか開けっ放しとか」
「さすがにそれはないよ」弥幸が笑いながら言う。「戸締まりちゃんとしとかないと問題になっちゃう」
「え、でも、じゃあどうするんです?」
「じゃ~ん」英依がらしからぬおどけた雰囲気で、その手に持った物を誇示した。「これなんでしょう?」
その手にある物は、鍵?
「え?まさか、ここの?」円はポカンと口を開けて驚いた。「なんでそんな物があるんですか?」
「まあいろいろルートがあるのよ、大学って」英依はイタズラっぽい様子でニヤニヤしている。
そういうものなのか?と円はほとんど納得しかけていた。そんなことが許されるなら相当ヤバいような気もするのだが。セキュリティとか。でもここまで人付き合いを回避して生きてきた円は、自分の常識とか社会性みたいなものに自信がなかった。こんな人生経験豊富そうな人が堂々としているなら大丈夫か⋯⋯
「ん?」またも円は思いつく。「それならわざわざ隠れて守衛さんやり過ごさなくても、あとで鍵開けて入ればよくないですか?」
「ああ、それはダメよ」英依は掌を左右に振りながら言った。「そんなことしたら不法侵入でしょ」
(なんか違うのか?)円は首をひねって考えるがよくわからなかった。
「ほら、元から中にいればさ、ついうっかり時間を忘れて閉じ込められちゃったバカな学生でしょ」弥幸が補足する。
ああ、なるほど、そういう理屈か。でもそれは――
「通りますか?そんな言い訳」省吾が横から口を挟んだ。
「なにか被害を出したわけでもないしね」弥幸はのほほんとした感じで言った。
「大学ってのはやりすぎなければ学生にはわりと寛大なのよ」と英依。
これはまあ――やり過ぎってわけではないのかな?円は腑に落ちたような落ちないような、なんとも微妙な気持ちで一応は納得した。
「ハッ、そうだ」円はそんなことよりも聞かなければならないことを思い出した。ぶっちゃけ鍵なんてどうでもよかったんだ。「さっきのアレ、なんですかあの気持ち悪い、首にかけたやつ」
終わったあと、英依がすぐにコンビニ袋みたいなのに入れて、荷物のなかへ戻したので観察する暇がなかったが、なんかあれは人毛?のようなもので出来ていたような⋯⋯
「なに?円、ちょっと質問多いわねぇ」呆れた様子で英依が応える。「アレはほら、なんていうか、呪いのアイテム的な?」
「えっ?」「えっ?」円と同時に、ずっとおとなしかった凛子が素っ頓狂な声を出す。
「ちょっとツテがあって手に入れたのよ。使い方よくわかんなかったんだけど、まあなんとかうまくいったわね」
「えぇ⋯⋯」円は再びドン引いた。
凛子は驚きのあまり言葉もないらしい。だがその表情がなにも言わずとも多くを物語っていた。円は思った――そりゃそうだ、私だってあんなもの首にかけられたくはない。
「だいじょうぶ⋯⋯なんですよね、それ?」円が凛子の代わりに問う。
英依は少し考える素振りを見せたあと、「さあ?」とだけ言い、会話を打ち切った。
ああ、省吾の言う通りだった。もちろん省吾が感じ取った ”恐怖“ というやつは円にはわからないが、たしかに、間違いなく、この人はヤベえ人だ。
英依先輩だけは、絶対に怒らせるようなことはするまいと、円はその心に深く刻みつけたのだった。
第4話 了
あとがき
ここまで読んでいただきまして本当にありがとうございます。
今回新キャラとして芦原英依先輩が登場しました。これで大学の仲間たちは一応打ち止めですかね。行き当たりばったりの思いつきで書いていますので、もしかしたらひょっこり新人が出てくるかもしれませんが。
英依さんは作中最強キャラです。わかる人はおわかりだろうと思います。主に名前で。そんな彼女ですので、いっしょに冒険はめったにしません。この人、心霊スポット嫌いなんで。いると省吾が要らない子になってしまいますし。
最後にちょっと言い訳を。今回英依先輩がやっちまった解決法は露骨に他作品からのオマージュです。まあその手のオマージュいっぱい仕込んでいたりもするんですが、これについては同じホラージャンルでもありますし、明確にしておこうと思います。
実はあれ、白石晃士監督のモキュメンタリーシリーズ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズからお借りしました。いろんな意味で非常に私好みの面白い作品です。観よう!コワすぎ!観よう!白石晃士監督作品!
それでは今回はこのへんで。コメント、フォローにポイント評価など、多大なご支援、誠にありがとうございます。これを励みに、日々いろんなのを書いています。今後ともよろしくお願いします。
AKTY




