第18話―6 空手部屋台メシ
再び文化祭を歩く。
前を行くのは英依と、当たり前のようについてきた村上。村上は空手着のまま、マスクだけ脱いでいる。その後ろを円と省吾が続いた。省吾の方はちゃんと着替えて、朝に見た私服に戻っていた。
「練習?はもうよかったの?」と円は隣に並んだ省吾に尋ねた。英依の指示に文句も言わずに従ったわけだが、本当にそれでよかったのか少し心配ではあった。
「ええ、大丈夫です」省吾は頷いた。「もうすぐ試合が始まりますから。本当は今日出る人たちのリングチェックの時間なんですよ。私が明日、急に出ることになったのでそこに混ぜてもらったんです」
「ああそう、ならよかった」予定通りならそれでいい。なにかあって練習を邪魔した責任とか取らされないならそれでいいんだ、と円は納得した。
前方では村上がなにやら熱心に英依を口説いている。もう見るからに暑苦しい雰囲気なのだが、いまは冬だ。今日は日差しが暖かくはあるが、時折冷たい風がピュウと吹いてくる。村上は空手着だけで寒くないのだろうか?中にはTシャツすら着ていないみたいだが。
「どこ行きましょか、英依さん?」村上は胸元から厚い胸板を覗かせながら問いかける。
「どこに行くという目的もないけどね。あなた自分のとこの出し物とかはいいの?」英依は村上の方には目も向けないで逆に聞き返した。
「ああ、ウチはいま屋台でソバメシを売っとります。どうです?行ってみませんか?もうすぐお昼やし、ごちそうしますわ」
「だって。どうする?」英依は円に振り向いた。
フム⋯⋯ソバメシか⋯⋯悪くない。円は真剣に検討した。まださっき食べたスイーツが腹に残っている気もするが、甘い物は別腹とも言う。別腹に入っていると考えれば通常の食事はいけるはずだ。空手部の出店というのが少し引っかかるところだが⋯⋯円は村上を眺める。コイツのようなのが作っているとなると衛生面がなあ⋯⋯
続けて隣の省吾を見た。でも同じ空手やってるのでもコイツみたいにサッパリしてるのもいるしな。空手部とはいえ現代の大学生。こんな昭和バンカラ野郎みたいなヤツはそうそういねえか。むしろ村上を排除できているいまこそ、食い時と言えるかもしれない。
これまで幾度も登場してきたまどかのスーパーポンコツコンピューター、略して "まどポンター" が、まあまあ一般的な速度でこの答えを導き出した。若干遅いくらいかもしれないが、英依先輩は根気強く答えを待っていてくれた。優しいね。
「オゴリなら行きましょう」
「どストレートやな!」村上がツッコミを入れる。「まあええわ、奢ったる。省吾には付き合ってもらう礼もせんといかんしの」
「えっ、お礼ってまさかソバメシだけで済ますつもりなんですか?」円は信じられないといった風に、口に手を当てて驚いた素振りを見せると、隣にいる省吾の袖を引っ張った。「有明くん、自分を安売りしちゃダメだよ。こういう急なオファーのときはなるべくいい条件を勝ち取らないと」
「いや、私もいい経験になりますし⋯⋯」
「たしかに円の言うとおりよね」英依も同調する。「省吾はもう少し貪欲になったほうがいいわよ。いつまでもお人好しなままだといいように使われるだけよ」
「そうそう。もっとほら、金目のものとか要求したほうがいいよ」と、日頃からお人好しをいいように使っている円がウンウンと頷いた。
結局そのままワイワイと空手部の屋台までやってきて、ソバメシをご馳走になった。村上は大量に注文していたが、金を支払うような様子はなかった。これは体育会系らしいパワハラなのではないか?なんてヤツだ、けしからん!エースだなんだと持ち上げられて慢心しているに違いない。円はそう判断し、村上に感謝はしなかった。
ちなみに味のほうは平凡であった。こういうのでいいんだよ。ソース味なんて、上にも下にもそうハズレはしない。鉄板で料理していた空手部員もマトモに見えた。お土産の分まで持たせてもらいその場をあとにしたのだった。




