第18話―3 屋台スイーツを喰らう
「あっ、はなえせんぱいだ〜」と華やいだ声。
見ると凛子が弥幸とともに入ってきた。ふたりの手にはビニール袋がぶら下がっている。屋台でなにか買ってきたのだろうか?ソイツは私がいただいてもよろしいのかしら?と円は物欲しげに見つめた。
「あら、もう戻ってきたの?早かったわね」英依は駆け寄ってきた凛子の頭をグリグリかわいがる。
「そうなんですよ~まだすぐそこの屋台しか見れてないのに、みゆき先輩がもうすぐ交代の時間だからって。そんなの気にしなくていいのに〜」
気にしなくていいわけねえだろ、このクソザコリン!と円は憤るも、英依の手前なにも言えない。仕方ないのでチッと舌打ちすることで不満をアピールした。
円は気づいていない。そっちの方がずっと感じが悪いということに。凛子はいまさらどうとも思わないようだが、隣の弥幸が心配そうな顔をしている。
「みんなで決めたことだからね。ちゃんと守らないと」弥幸がとりなすように言った。「それよりほら、お土産買ってきたからみんなで食べようよ」
ビニール袋の中身はやはり屋台の食べ物のようだ。それらが机いっぱいに広げられた。だがしかし⋯⋯
「なんか、スイーツ系ばっかッスね」円の表情が曇る。
並んだのはチュロスにクレープ、色とりどりのドーナツ、ワッフル、タピオカミルクティーといった、甘さで胸焼けしそうなラインナップ。
「ああ、コリンちゃんセレクトだよ。いっぱいあるからつまんでよ」弥幸が笑顔で勧めてくる。
あ~あ、このキラキラ☆ギャルぜんぜんセンスねーわ。ザコリンわかってねー。円は凛子を睨みつけた。屋台の食いもんといったら、焼きそば、たこ焼き、焼きイカ、焼きもろこしあたりだろうがッ!なんだこの、女こどもが食うようなもんばっか持ってきやがって!定番抜きでこんなオプションみたいなもんだけ買ってんじゃねえよッ!
そう内心で悪態をつきながらチュロスに手を伸ばす。小麦粉を練った生地を油でカラッと揚げて砂糖をまぶしてある。口当たりは軽くサクッとしていて、素朴な砂糖の甘さが口のなかに広がった。こんな、ガキじゃねえんだから⋯⋯モグモグ⋯⋯お菓子ばっかりとか⋯⋯モグモグ⋯⋯まあまあうまいけども⋯⋯モグモグ⋯⋯
「いや、食いすぎでしょ」凛子がツッコんだ。
ハッと我に返ると、円はすでにけっこうな量を平らげていた。ヤベえヤベえ、なんだこのスイーツ?危ない薬でも混ざってんじゃねえのか?
もちろんそんなことはなく、円が食いしん坊なだけだ。タダメシというのも影響したのだろう、ガンガンいってしまったのである。お昼前だというのにまあまあ満腹するまで食べてしまった。
「⋯⋯うん、そろそろ時間だね」弥幸が壁の時計を見て言った。「交代するから神谷さんもお祭り見てきていいよ」
見てこいと言われても⋯⋯円は困惑した。ひとりであんな人混みのなかに行けというのか?この私に!春ごろまでは便所でメシ食ってた、このボッチ女に!
本当なら省吾に付き合ってもらうつもりだったのに、ヤツはなにをやっているのかまだ戻ってこない。しかし弥幸にこう言われてしまえば、このまま留まるのも変である。いまさら気にしなくともよい、体裁なんかが気になった。まさかの絶体絶命のピンチ!どうする、まどか!
「あれ~そういえば省吾くんってどこ行ったの〜?」凛子がここでようやく気がついた。
「ああ、さっき村上先輩が連れてったんだよ」円はブスッとした調子で答える。
それでなにを勘違いしたか、凛子はニヤニヤとイヤらしい笑みを円へ向けた。
「なるほど〜それは困ったね〜、せっかくのお祭りなのにふたりで回りたかったよね〜?」
「あン?」なに言ってんだ、ザコが!円の鋭い視線が凛子の瞳をまっすぐ射抜く⋯⋯が、そんなもんまったくノーダメであった。凛子は気にもとめずにカワイソカワイソと同情的な言葉を並べた。円のイライラが溜まっていく。
「それじゃあいっしょにいきましょうか」そこに思ってもみなかった方向からお声がかかった。英依である。
ハナエセンパイトブンカサイヲミテマワル⋯⋯?そんな想像もしていなかったことを提案されて円の思考は完全にフリーズしてしまった。なにそれ?そんなことありうるの?どんなノリで行けばいい?頭のなかでその様子がまったくイメージを結ばない。
アウアウとろくに返事もできないまま、しかし英依はお構いなしで円の手を引っ張って立ち上がらせた。
「さあ行こ行こ!」と普段はあまり見ない活発さで、英依は円の両肩を後ろから押し、その勢いのまま、ふたりは部屋を出ていった。




