第18話―1 オカルト展示、やってます
窓から外を見下ろすとたくさんの人通り。色鮮やかな屋台が並び、着ぐるみやおかしな仮装をした人が看板を持って呼び込みをしている。そこには学生だけではなく、もっと幅広い年代の人々が、お祭りを楽しんでいた。その明るい喧騒がガラス越しでも伝わってくる。
それに引き換え⋯⋯神谷円はあらためて自分がいる場所を眺めた。ここには誰も来やしねえ!なんだこの静けさは!異界か?位相がズレてたりするのか?誰も入れないような結界でも施してあるのか?
結界という単語を思い浮かべた時、円は部屋の一角の長机の方に目がいった。あながち違うとも言い切れない。あの場所はたしかに結界のようなものが施されているのかもしれない。でも昨日、あのコーナーを作りにやってきたあの人は言っていたのだ。
「こういうのはね、たまには人目に晒しといたほうがいいのよ。ほら、あれよ、古書を虫干しするみたいなもんよ」
これはなぜそんなものを展示するのか?という円の問いへの答えである。そうなのか?ホントにそういうもんなのか?円にはさっぱりわからないが、であるならば、結界は結界でも、人払いの結界というわけではないだろう。
客がぜんぜん来ないのは、やってることが地味だから。ただそれだけのことだった。
今日は文化祭の初日。そしてここは超常現象研究会、通称オカ研の展示が行われている会場である。やはりなにかの縁があるのだろうか?そのための場所として、おなじみ3号館のあの部屋があてがわれた。そう、いつも昼休みに空手バカが站椿をしているあの部屋、円がそれを眺めながら昼メシを食っている教室である。
日頃から利用者が少なく、影の薄い3号館。だからだろうか?地味なサークルの地味な出し物ばかりが、この建物にひとまとめにされている。そう円は認識していた。円だって、部員でなければお祭りの最中にこんなところへわざわざ立ち寄ろうとは思わないし、他のとこの出し物にも興味がわかない。3号館全体が文化祭から隔離されている。そういうことなのかもしれない。
そんな寂しい場所で、円はいま、たったひとりで店番をしている。といってもなにか販売物があるわけではない。ただ、これまでオカ研がため込んできた怪しげな物品や資料、心霊写真や、研究という体の妄想を書き連ねたレポートなどが並んでいるだけだ。今回は先人たちが集めたそれらに、円たちの心霊スポット探索のレポートが加わり、撮影した動画がモニターで垂れ流しになっている。そのための準備にはそこそこ骨を折った。
動画はけっこうハッキリとおかしなものが映っていて、それなりに見どころがあるとは思うのだが、こうやってひとまとめに編集したものを見ると――円は退屈しのぎに長いこと眺めていた――、なんというかワンパターンだ。黒いモヤモヤっとしたものばかり。円はそのとき、けっこういろんな見た目の怪異を見ているのだけど、ビデオに映るといつもこんな感じなのだ。こんなんじゃAIがでっちあげた心霊動画のほうがまだ見応えがあるよ!
ちゃんと人影が映っているものもあるにはある。夏合宿で撮影した動画だ。これはもともとが、事故物件の古民家に泊まった大学生による心霊体験レポート、という企画でもあったため、ネット記事でも公開された。蹴りでペットボトルの蓋を開ける "ボトルキャップチャレンジ" をする男性の背後、奥の方に白い人影が映っているという。
ただこれは、そのボトルキャップチャレンジをする人物の方に注目が集まってしまった。大学オカ研の合宿でのひとコマという記事なのに、なぜに空手着を着た男が、こんな見事な蹴り技を披露しているのか?皆そちらの方が気になったのだ。たしかにいまここで流していても、あんな地味な影などよりも、美しい軌道を描く後ろ回し蹴りの方にまず目がいく。そしてそのあと、なぜ空手?と思ってしまう。
「はぁ~」円はため息をついて机に突っ伏した。退屈だ。チョー退屈だ。そして⋯⋯
なんか怖えんだよなあ、とまた長机の方を見やる。静かな教室のそちらの方から視線のようなものを感じていた。あそこにあるのはたぶん、呪いのアイテム。円がこれまで見たことのあるものもあった。あの黒い人毛のようなものでできた首飾り?とか、夏合宿のときの異界と繋がる鏡とか。他のものは知らないが、なんかごちゃごちゃと奇妙なものが並んでいる。
特になんか、さっきからアレが気になるんだよなあ。なんとなく、目が合うような⋯⋯
そこには、古びてはいるが愛らしい、でもそれ故に不気味でもある西洋人形がちょこんとと座っていた。




