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空手バカ一代と行く、JDまどかの心霊探索ツアー  作者: AKTY
第17話 弥幸先輩のぶらり湯けむりひとり旅―温泉地の怪奇現象編―

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第17話―番外編 湯けむり温泉カッパ地獄変 中編

 無関係な人間にとっては、英依(はなえ)はただの少し風変わりな人物という程度であろうが、怪異たちには理不尽な災害のようなものであった。彼女が行く先々で、いつもはデカい顔して人を驚かせているようなヤンチャなヤツも、目に留まらないよう小さくなる。


 この地へやってくるまでも同様で、まるで荒くれヤンキーから目を逸らすモブヤンキーの如く、怪異たちはボンタンを股の間に折り込み、背を向けて通過を待った。


 不運にも、あのバスの女幽霊もこの嵐に見舞われた。いつも通り前方の定位置を占有していた彼女。前の日の午後と、この日の朝こそ、空気を読めない?イケメンにその座を奪われたが、そのあとは誰に邪魔されることもなく、乗客に地味な迷惑をかけていた。


 そこに英依が乗り込んできたのだ。女幽霊は彼女が乗車したその瞬間からヤバい雰囲気を感じ取っていた。しかしここはバスの中。逃げ場などはない。顔を俯けて寝たフリをしながらやり過ごそうとする。だがそんなことはなにも意味をなさなかった。


 その漆黒のマントを纏った大女は、通路をスタスタ歩いてくると、女幽霊の隣に腰を下ろした。見えていない弥幸(みゆき)が彼女の場所を奪ったのとは違い、ちゃんと狙ってお隣に。なにかをするわけではなく、ただ黙って座っている。


 ここで下手なことをしたら己の存在ごと消される!それはただの直感であるが、実際そうなるのか検証する気にはなれなかった。女幽霊は大量の脂汗をかきながら――というのはつまりそのような気分でということだが、その永遠とも思える恐怖の時間を耐えた。


 旅行である様子のこの大女がどこまで行くか知らないが、大方この路線にあるどれかの温泉にでも向かっているのだろう。女幽霊は彼女が降りるその時を今か今かと待ち望んだ。最も大きな温泉街のバス停を通り過ぎたときは絶望した。たぶんそこだろうと推量し、それまでの辛抱だと考えていたのだから。


 結局そこから山をふたつ越え、この鄙びた温泉地までやってきた。英依が降車ボタンへ手を伸ばしたその瞬間、女幽霊はホッとして、ようやくひと息つけた――と思ったのは甘かった。


「お年寄りや病気の人が乗ってきたらちゃんと席を譲りなさいね」大女は小さな声でそう言ったのだ。


「⋯⋯ウッス」女幽霊は肩を震わせて、ようやくそれだけ搾り出した。


 そこで降りてから英依はまっすぐ千歳楼へ向かったわけだが、彼女の通ったあと、やはりここでも小さくなった幽霊たちがいた。手紙を待つ女はポストの陰に隠れ、橋の男は飛び込まずに背を向けて、川を泳ぐ魚を見ているフリをした。軍服姿のアイツラはひと目その姿を見て、弱者男性であった学生時代の苦い記憶を思い浮かべた。


 千歳楼に棲む怪異たちはどうしていただろうか?とりあえず英依が部屋に案内されるまでの間は静かなものだった。前日からのイケメン旋風の余波で、みんなそれぞれの巣に籠って休んでいた。この新たな客に関心を抱く者は誰もいなかった。


 部屋に着いてすぐマントを脱ぎ、この宿には不似合いな、黒いゴシックのロングドレス姿になった英依は、女将さんから説明を受けた。問題の怪現象はいまのところ温泉の男湯だけで起きているのだ、と。


「今日は男性の宿泊客はいらっしゃいますか?」英依が尋ねる。


「ええ、お二人ほど」女将は少し前にチェックインした二組の客を思い浮かべた。両方とも男女の熟年夫婦といった風であった。


「ならさっさと始末したほうがよさそうね」英依はそう言って立ち上がる。「私がいまから男湯に入ってみますので、誰も入ってこないようにしておいてもらえますか?」


「えっ、ああはい、それじゃあまず他のお客さまに確認して参りますので⋯⋯」女将さんはそう言うと、慌てて部屋を出ていく。彼女はすぐに戻ってきた。客には清掃中と伝えてきたそうだ。


 それを聞くと英依は持ってきたキャリーバッグから少し薄汚れた感じの袋を取り出し、それを持って浴場へ向かった。



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