第17話―エピローグ
戻ってきた弥幸は、長旅の疲れはあったものの、その日の夕方部室に顔を出した。
「お疲れさま〜」と入室すると、凛子と省吾、そしてなぜか円もいて、文化祭の展示の準備をしていた。
「あっ、せんぱ〜い、おつかれさまで〜す」凛子が作業の手を止めて出迎える。
省吾と円も顔を上げて弥幸を見た。省吾はいつもと変わらないが、円はやるせないような、いたたまれないような、なんとも言えない複雑な表情をしている。
「あれ?神谷さんはバイトが入ってるって言ってなかったっけ?」弥幸は不思議そうに尋ねた。
「いや、まあ、そうだったんですけど⋯⋯」円が言い淀む。
「まどかちゃん、バイトから逃げてきてるんですよ〜」凛子が割って入って補足した。「昨日行ってみたらすっごくキツかったって、根性無しですよね〜」
「逃げてねえわっ!」円は凛子にツッコむ。「昨日で終わりにしただけだわ!」
「え〜だってまどかちゃん文化祭の日までバイト入ってるって言ってたじゃ〜ん」
文化祭の準備でタダ働きをさせられるくらいなら、時給もらって働いたほうがマシだ、と短期アルバイトを入れていた円だったが、その目論見はバイト初日にして脆くも崩れ去った。
倉庫内の軽作業という円らしい地味な仕事で、これまでも経験してきたものだったのに、昨日の現場はよくなかった。なんと、円以外の人員がみな顔見知り。まるで仲良しグループの体であったのだ。そんなところにボッチを放り込んだらどうなるか?あえて説明する必要はあるまい。
円はゲロ吐きそうになりながら、その日をなんとか耐え抜いたあと、家族から電話があった風を装った。えっ、親戚が亡くなった !? なんて猿芝居を責任者の前で打ったあと、以降の仕事をキャンセルしたのである。逃げてねえわじゃねえよ、完全に負けて逃げてるじゃねえか!
「そんなことより調査はどうだったんですか?なんか出ました?」負け犬まどかは話を変えるために弥幸に問いかけた。なにか出たとしてもなにも見えないと知ってるくせに。
「ああ、うん、僕はやっぱりなにも見なかったけどね⋯⋯」弥幸はそれほど残念そうではなく言った。「でも幽霊とか妖怪の話はいっぱいあるみたいだったよ。だから来年の合宿とかでさ、今度はみんなで行こうよ」
「え〜それサイコ〜!温泉なんですよね〜?」凛子がはしゃいだ声をあげる。
「うん、いいお風呂だったよ。それに旅館は古いんだけど素晴らしいんだ。従業員の人たちもよくしてくれてね。料理もすごくおいしかったよ」弥幸は朝に別れた人たちの顔を思い浮かべながら答えた。
「幽霊はともかく、妖怪なんか出るんですか?そんなのホントにいるのかなあ?」円が疑わしげな目を向ける。
「座敷わらしやカッパがいるって話だったよ」
「カッパ!カッパて!ドュフフフフ」円はどこかの誰かのように笑った。「まさかいまの時代にカッパはいないでしょ〜」
「いやいや、温泉に出るらしいよ」
「温泉!温泉にカッパて!カッパッパ〜ルンパッパ〜じゃないッスか!ないないない!カッパ乙!」円は身を捩って笑いながら否定する。
「まあそういうことも含めてさ、今度みんなで検証しにいこうよ。君たちだったらなにか見れるんじゃないかなあ」
「カッパとか〜?プフゥ〜」円は笑い転げる。
「まどかちゃん、いい加減にしなよね」愛しのみゆき先輩をコケにされて凛子の目つきが鋭くなってきた。このままではまた、この両者の争いが勃発しそうである。
「あの、先輩、ちょっと質問なんですが⋯⋯」省吾がナイスなタイミングで口を挟む。「この予定図のここ、英依さんのコレクションっていうのはなんなんですか?」
みんなが旅行の話をしているのに、省吾は黙々と文化祭の準備を進めていたのだ。なんて誠実な男!全員分の作業を肩代わりさせられる危機は回避したようだが、たとえそうなったとしても当日までには間に合わせたことだろう。
「ああそこね、そこは英依さんが収集した物を展示するそうだよ。長机を用意しとけばあとは彼女が勝手にするってさ。あれ?でも英依さん来なかった?準備しに来るって言ってたのになあ」
「見てないですね」と省吾。他の面々も知らないらしく、首を横に振っている。
「なにやってるのかなあ、英依さん」弥幸は首を傾げた。
第17話 了
あとがき
やあやあAKTYでござるよドゥフフフフ。おまいら乙!第17話をお送りいたしました。どうですかね、今回もまた変化球でしたが、楽しんでいただけていたらいいんですが。私自身はとても楽しんで書きました。過去一面白かったかもしれません。
今回は弥幸のひとり旅ということで、主人公のふたりはお留守番。最初はね、ちょっと温泉行って怪異スルーして帰ってくるってだけの短いものを考えておりました。
でもですね、視点を分けるというアイデアを思いつきましてね。弥幸視点でいろんなものをスルーし、その次にいつもの三人称でなにをスルーしたかを明かすって構造になりました。これが私的にはうまくハマったんですね。その見ているもののズレから物語がどんどん動き出した。
まあそのおかげで長くなりましたけど。単純にいつもの2倍ですね。全18エピソード。第5話の廃村キャンプに次いで、3番目に長い話になりました。解説パートは文章量が多いので、総合的には追い抜いているかも。このパートがまた書くのが面白いんですわ。
この三人称はいつも以上に自由に書けるんですね。普段は三人称といってもベースには円の視点があるわけです。今回は弥幸視点は独立してますし、そういうの取っ払って、完全にフリーにアッチコッチ見てまわれました。
さらに、物語の舞台としても独立してますので、怪異たちについて好き放題エピソードを放り込んでいいんです。それでしょうもない話をいっぱい考えました。ああいうのでしたらいくらでも考えつきますからね、今度百物語でも作っちまいましょうか。それか千歳楼で独立した物語ってのもいいですね。まあ気が向けば。
そんな具合でノリに乗って、かなり早く書き終えました。だいぶストックが増えましたね。そのうえ珍しく次の話も決まっております。
弥幸をひとりで旅立たせるための方便として、文化祭の準備って話題を出しましたから。これで文化祭をやらないわけにはいかないでしょう。このバカまどかは大学の文化系サークルの話でもありますし、大学文化祭ネタはちゃんと消化しなきゃ。
なにが起こるかはこれから考えます。進行に余裕あるんで、なにかしら思いつくでしょう。
ああそうそう、その前に第17話の番外編をチョロっとやります。ほら、最後に温泉地に変な人がやってきてたじゃないですか。あれがなんだったのかってのをやっとかないとですね。これもこのあと書くつもりです。たぶん1エピソードでまとまるんじゃないかな。書いてみないとわかんないですけど。そのあと第18話文化祭編のスタートってことで。
お話については毎回これで面白くなってるのかってのはさっぱりわかんないんですよ。自分にとっては面白いけど、他人が読んでも面白いもんなのか?って。なので感想などいただけましたらたいへん励みになります。あとポイント評価やブックマークもいただけたら嬉しいです。まだの方はぜひポチッとお願いします。
おねだりも済みましたし、今回はこのくらいにしておきましょう。それじゃあまた次回のあとがきで。ごきげんよう、さようなら、また明日。
AKTY




