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空手バカ一代と行く、JDまどかの心霊探索ツアー  作者: AKTY
第17話 弥幸先輩のぶらり湯けむりひとり旅―温泉地の怪奇現象編―

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第17話―16 別れ

 七時半には朝食の御膳が並んだ。給仕してくれたのはやはり女将さん。朝からお忙しいだろうに、なんだか申し訳ない気がする。そして並べられた料理がまたもやものすごい豪華さだった。朝食でこんな芸術的な飾り包丁とか、これがこの宿では当たり前なんだろうか?予約サイトの写真はもっと普通に見えたのだけど⋯⋯


 また残しても悪いから、がんばって平らげた。とてもおいしい朝ごはんだった。広縁の椅子にかけて満足感に浸る。窓から外を眺めた。雲ひとつない、とまではいかないが、青空が見える。夜は雪がチラついていたけど、今日もいいお天気のようだ。これからまた日常に戻らなければならない。早く帰りたいような、ここを離れるのが惜しいような、そんな複雑な気分に襲われる。


 腹がこなれるまでのんびりしたあと、僕は身支度と、後片付けを済ませて部屋を出た。チェックアウトの手続きのためにフロントへ向かう。そこには女将さんが待っていた。


「チェックアウトをお願いします」


「はい、かしこまりました」女将さんはそう言ってニコッと笑った。「ご滞在中はご不便などおかけしませんでしたでしょうか?」


「いえ、とても素晴らしいおもてなしをしていただきました。とても寛げました」


「そう言っていただけますと、たいへんありがたいです。従業員一同を代表して御礼申しあげます」女将さんは深々と頭を下げる。


 僕もそれに深く礼を返した。そして顔を上げ、女将さんとまた顔を合わせる。彼女のその表情、少し潤んで見える瞳からは、いかにも名残惜しいという想いが伝わってきた。たった一泊しただけの、ただの大学生の客に対して、そこまで気持ちを込めてくれるなんて⋯⋯本当にいい宿だ。こんな宿を僕は他に知らない。


 支払いを終え、玄関へ向かう。すると奥から板前さんらしき男性が小走りでやってきた。立派な角刈りと厳しい顔つきの、これぞ職人といった風貌。その人は僕に丁寧なお辞儀をした。


「ああ、こちら当旅館の板長でございます」女将さんが紹介してくれた。


「ああ、それは⋯⋯すごくおいしいお食事をごちそうさまでした。あんな立派なの食べたことなかったです」


「いや⋯⋯あの⋯⋯ありがとうございます⋯⋯」あまりこういうことに慣れていないのか、板長は不器用に応じた。それから、「この千歳楼を、なにとぞ、なにとぞ、よろしくお願いします」と言いながら力強く頭を下げた。


「???⋯⋯ああ、はい、またお邪魔しようと思います」


「えっ、また来ていただけるんですか !? 」女将さんの笑顔がパッと花開いた。こうして見るとミユキちゃんとソックリだ。このふたりは母娘なのだろう。それから僕の手を両手で包み込むように取る。そんなに喜んでくれるなんて。


「ええ、とてもいいお宿でしたので、今度は大学の仲間も連れて遊びにこようと思います」僕はミユキちゃんとした約束をここでも繰り返した。


「ありがとうございます、ありがとうございます」女将さんは握った僕の手を引き寄せる。


「あの⋯⋯女将さん⋯⋯?」


「イヤっ、サチコって呼んで」女将さんは小声で、でもキッパリとそう言った。それから自分の言葉に驚いたかのような顔をして頭をブンブンと振ると、「あら、いけないお客様に失礼を⋯⋯」と誤魔化すようにオホホと笑う。


 きっと女将さんは家族のような気持ちでここまでもてなしてくれていたのだろう。その想いが高まった末の、いまの発露だったのだ。僕はこのプロフェッショナルな接客にいたく感激してしまった。


「いえ、サチコさん、またきっと戻ってきますので、その時はよろしくお願いします」僕はありったけの感謝を込めて、そう言った。


 最後にサチコさんの求めに応じて、千歳楼をバックに記念撮影をした。板長さんが、やはり慣れていないのだろう、難しい顔をしながら撮ってくれた。

 

 宿の前の坂道にまで出てきて、いつまでも手を振って見送ってくれるサチコさんに最後の礼をして、僕は来たときの道を引き返した。橋を渡り、昨日は暗くてよく見えなかった看板も読んだ。なるほど、この橋は "念仏橋" というのか。


 それから進んでいって、最初に訪れた土産物屋さんへ。扉を開けるとたくさんのお客さんがいる。昨日はぜんぜんいなかったのに、思ったより繁盛しているようだ。レジに立っていたユキエさんはとても喜んで僕を迎えてくれた。


 バスの時間があるのであまり話せなかったが、僕がお土産に温泉まんじゅうを選んで持っていくと、彼女はなぜかもう一箱、追加で袋に入れる。「サービスサービスぅ」だそうだ。なにかのキャンペーン中なのだろうか?


 外に出るとすぐにバスがやってきた。僕は表に出て見送ってくれたユキエさんに礼を言って、バスに乗り込んだ。来た時と同じ位置の座席が空いていたのでそこに座る。窓からは手を振るユキエさんが見えた。なぜかお店にいたお客さんたちもユキエさんと並んでこっちを見ている。


 バスが動き出す。僕は窓から手を振り返してユキエさんに、そしてこの地に別れを告げた。


 だんだん離れていく温泉地を想った。いまや特別なものとなったその場所を。いい旅だった。本当にいい旅だった。僕はその想いを、家に帰り着くまでずっと噛みしめていた。



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