第17話―14 そして朝がきた
まだ薄暗いなかパチンと目が覚めた。とても気持ちのいい目覚めだ。街では聞けない、多様な鳥の声がする。上体を起こしてみると、身体がやけに軽いような気がする。昨日長旅のあとで感じていた疲労感がきれいさっぱり消えていた。温泉の効果だろうか。
立ち上がり、窓から外を眺める。まだ日は出てなくてよく見えないが、ほのかに明るさが滲んできていた。従業員はもう働いているのだろう。耳を澄ますと人が動くような気配。一日はもう始まっているのだ。
取って返してスマホで時間を確認する。朝六時を少し回ったところ。もういいか、と僕は寝る前に部屋の隅にセットしておいたビデオカメラの録画をオフにした。なにか映っていればいいのだけど⋯⋯
これは毎度のことだけど、今回も幽霊の気配は微塵も感じることはなかった。前まではたまたま場所がハズレだったか、タイミングが悪かったのだろうと考えていたのだけど、神谷さんたちと行動するようになって、そうではないらしいとわかってきた。
どうやら僕に霊感はない。これを自覚して、最初はかなり落ち込んだ。夢が絶たれたようなものなのだから。でも最近は少し違う風に考えている。こんな自分だからこそ、霊の影響を受けずに、あの頼りになる後輩たちをサポートできるんじゃないか、と。それにまだ望みは完全には断たれていない。このまま活動を続けていれば、いつかオバケに出会わないとも限らないのだ。
しばらくボンヤリ時間を過ごしたあとは、とりあえず朝風呂としゃれこもうと、部屋を出た。また十四段を数えて下に降りる。ロビーで行き合わせた女将さんに朝の挨拶を交わす。あれ?女将さんの目が赤い。昨日は遅くまで仕事をしてらっしゃったんだろうか?ホントにお疲れさまです。
朝食はお申し付けどおり八時でよろしいですかと尋ねられた。そう問われると腹がグゥと鳴る。思いがけず早起きをしてしまったので、七時半頃にできますか?とお願いしてみると、もちろんですと快く了承してくれた。
女将さんと別れたあとはまっすぐ浴場へ。平日の朝からのんびり温泉に浸かる。一介の大学生がこんな贅沢をしててもいいのだろうか?僕はこの旅行に行かせてくれた後輩たちと、話を持ってきてくれた叔母さんに感謝した。この上バイト代まで貰おうというのだから、いつかバチが当たるかもしれないなあ。
ある程度身なりも整え外に出る。部屋に戻る途中で女の子が前からトコトコやってきた。ミユキちゃんだ。小学校の制服だろう、茶色っぽい上着とスカートを身に着けている。着物姿しか見てなかったけど、この格好もよく似合っていて可愛らしい。これから学校なら会うのもこれが最後ということか。お別れを言わなければ。もしかしたら彼女もそのつもりで来てくれたのかもしれない。
「おはようございます」ミユキちゃんは小さな声で恥ずかしそうに挨拶してくれた。
僕も挨拶を返す。それから「学校?」とわかりきったことを尋ねた。
ミユキちゃんはそれに頷くと、モジモジしながらなにかを言い出そうとする。僕はニコニコ笑いながら待った。
「⋯⋯あの、また来てくれますか?」
ようやく出てきたミユキちゃんのこの言葉に、僕の頭のなかでイメージが結びついた。オカ研のみんなとまたこの宿を訪れる。神谷さんや有明くん、そしてコリンちゃんには、僕には見えなかった興味深いものが見えるのではないか?
みんなでワイワイやりながら温泉に入ったり、おいしい料理を食べたり。それはきっと素晴らしい心霊探索ツアーとなるだろう。英依さんも来てくれるかな? "行けたら行くわ" 彼女ならきっとそう言うだろう。そして遅れてやってくるのだ。
「うん、そうだね。次は僕の仲間もいっしょに泊まりに来ようかな。ミユキちゃんにもみんなのことを紹介するね」
僕の言葉に花が咲いたような笑顔を見せてくれるミユキちゃん。それから照れてしまったのかサッと身を翻し、表に飛び出していった。まだ学校に行くには早そうだけど⋯⋯というかランドセル背負ってないけど大丈夫かな?
そんなこんなで僕はとてもいい気分で、十四段を踏みしめて部屋に戻った。




