第17話―12 夜のお散歩
冷たい外気に触れると寂寞感はさらに高まったが、それでも僕は一歩一歩、足を動かした。坂を下り、千歳楼の敷地を出る。夕方歩いた道に合流すると、まだ行ってないその先に針路を取る。
道はなだらかな上り坂。灯りは少なく、手に持つ懐中電灯が頼りだ。ちなみにこれはいつも心霊スポットへ行くときに愛用しているもので、今回も荷物に入れていた。最近は神谷さんが使っているヘッドライトが便利でいいなあと思ったりもするが、これはこれで道具としての愛着があった。手にするだけで心強い気持ちになる。
より暗い方へ、夜道を進んでいくうちに、運動で血流が回ってきた効果か、むしろ気分は明るくなっていく。さっきまでの寂しさは薄れ、歩幅も大きくなってきた。もともと僕はこういう暗いところが好きなのかもしれない。だから幽霊を追って、心霊スポット巡りなどやったりするのだ。散歩に出たのは正解だった。
そうやって歩いていると前から光が近づいてきた。一瞬ギョッとしたが、どうやら歩いている人がいるみたいだ。だんだん近づいてきて、それがヘッドライトの明かりだとわかった。暗いので色は判別できないが、ジャージにウインドブレイカー、反射材のタスキをかけている。中年男性のようだ。ウォーキングをしているのだろう。
「こんばんは」と僕から声をかける。
「ああ、どうも、こんばんは」と返ってきた⋯⋯と思ったらその人はビクッと肩を跳ねさせて立ち止まった。なぜか口を開け、大きく目を剥いてこちらを凝視している。
なにかいたのかと思い後ろを振り返るがなにもない。誰もいない。ここまで歩いてきた暗い道が続いているだけだ。
「あの、どうかしましたか?」と尋ねると、彼は「いえ、別に⋯⋯」と答えて、目を逸らして早足で行ってしまった。
首を傾げながらそのうしろ姿を見送った。すぐに闇に紛れ、ヘッドライトの明かりだけが急速に遠ざかっていくのが見えた。インターバル走でもやっていたのだろうか。全力ダッシュしているみたいだけど⋯⋯
そのあとは誰にも遭遇することなく、だいたい十五分くらいで女将さんに教えてもらった公園に着いた。
遊具などはない。運動公園みたいなものなのだろう。たぶん。暗くて細部はよく見えない。一応スマホで撮影もしてみたが、これといって映すようなものもなかった。軽く屈伸などして、また来た道を引き返す。
あと少しで千歳楼というところで、空からはらはらと雪が降ってきた。手のひらで受けると、体温で儚く消えてなくなった。そんなにたくさん降りそうな感じはしなかったが、念のため足を速めた。
宿の前には女将さんが立っていた。
「ただいま」と声をかける。そして「雪ですね」と空を見上げた。
女将さんもいっしょに天を仰ぐ。まだ細かいのが舞っている。
「ええ、本当に⋯⋯」女将さんは視線を戻し、僕の目をまっすぐ見つめた。それから慌てて、「あらごめんなさい、早く中へどうぞ。お寒かったでしょう。どうぞまた温泉にでもお入りください」と促した。
僕は頭を下げて礼を言い、部屋に戻った。それからまた温泉に向かい、ゆっくり浸かって身体を温めた。
帰りにまた階段を数える。十四段、変わりなし。部屋に戻ると奥の間にすでに布団が敷いてあった。




