第17話―10 弥幸のアンニュイ晩ごはん
一度みんなの顔を思い出してしまうと、目の前に並んだ豪勢な食事も、なんだか色褪せて見えた。ここはとても静かだ。少し寂しくなってしまう。
女将さんにでも話し相手をしてもらえばよかったか。聞きたいことはたくさんあるのだ。これだけ多くの怪異の噂の中心地である宿の責任者なのだから。しかし当事者としてはこんな野次馬的なことを尋ねられても不愉快だろう。ここで調べたことや撮影したものがそのまま表に出ることはないとはいえ。
そのようなことを考えながら食事を進めていった。それにしても⋯⋯おいしいけど、とにかく量が多い。これは本当に一人前なのだろうか?あと二人くらい増えても十分賄えそうな気がする。それだけに、いまの自分の孤独が浮き彫りになるようだった。
いけないいけない、どうも今夜はシンミリしてしまう。どうしたのだろうか?今回みたいな調査旅行は初めてではないのに。これまではこんなこと考えたこともなかった。仲間といることに慣れすぎてしまったのかな?
思えば高校生の頃から、ずっと独りで心霊スポット巡りをしてきた。興味本位で単発的に付き合ってくれる友だちはいたけど、仲間と呼べるような者たちは現れなかった。大学に入って、この歴史あるオカ研に入り、先輩たちともいろいろな場所に行ったけれど⋯⋯仲間ってのとは違ったかなあ。ジャンルがみんなそれぞれ違ってたし。
あの人⋯⋯そう、芦原英依さんとは通じ合うものがあったけど、彼女は徹底的に独立独歩の人で、僕といっしょにどこかへ行ってくれたりはしない。心霊スポットなんて汚いからイヤだって、そんなこと言うもんなあ。僕は英依さんのそんな言い草を思い出して少し可笑しくなった。
でも最近は彼女も変わってきたような気がする。やはりこれは僕と同じで、後輩ができたのがよかったのだろう。頼りになる後輩たちが。コリンちゃん、神谷さん、有明くん、彼らと出会えて本当によかった。
僕の脳裏にあの日のことが蘇った。神谷さんと有明くんに初めて出会ったあのトンネルへの道が。真っ暗な旧道を行く白い着物の人影を車で追い抜いたときはドキドキした。初めて幽霊が見れてしまったかもと思って、車を停めてしばらく呼吸を整えていたんだ。結局は空手着姿の有明くんだったわけだけど。
ふたりといっしょにトンネルを探索して、それからは他のところへもみんなで出向いた。もともとオカ研の部員だったコリンちゃんも、熱心な同級生に触発されたんだろうな、積極的に活動してくれるようになった。サークル内に打ち解けた同性の友だちができてホントによかったよ。神谷さんたちが入部してから、彼女も毎日楽しそうだ。
やっぱり⋯⋯独りでいてもつまらないな⋯⋯僕はなんだか打ちのめされたような気持ちになった。急に激しい孤独感に襲われた。それからはもう食事もほとんど手につかなかった。といっても一人前程度はすでに食べ終えていたんだけどね。
御膳を片付けにきた女将さんに、残してしまったことを詫びた。女将さんは「いえいえ多すぎましたかしら。板長がたくさん作りすぎちゃってねえ」と笑って、許してくれた。
僕はあとは女将さんに任せ、散歩に出ることにした。また部屋の中に独りきりになるのを恐れたのだ。
「ちょっと腹ごなしに散歩にでも出ようと思うんですが、この辺になにか見るようなところはありますか?」
「あらあら、そうですねえ、ここいらはなにもありませんからねえ⋯⋯こちらに来られたときにお通りになった道をそのまままっすぐ行けば、ちょっとした公園くらいはありますけど、夜は暗いだけでなにも見えませんよ」
「ああ、食後の運動みたいなものですから、それでもかまいません。じゃあそこへ向かって歩いてみますね」
「ああ、でも暗いですよ。私も御一緒しましょうかしら」女将さんは親切にもそう申し出てくれた。
「いえいえ、それには及びません。お忙しいでしょうから。ちょっと歩いてすぐ戻ってきますよ」
僕はそう言って部屋を出た。




