第17話―8 解説其の四
部屋へ戻る弥幸のあとには座敷わらしとカッパがドヤドヤ続く。おいおい君たち彼のお部屋にお邪魔していったいなにをしようというのかね?その疑問は、いつまでも帰ってこない親友の様子を見にきたミユキちゃんの胸にもわいていた。
まあぶっちゃけなにもできない怪異どもよりも、君のお母さんのほうがマズイんだけどなあ。もうすでにだいぶ踏み越えていらっしゃるからね。まだまだ夜は長いですよ。どんな危険なことを企んでいることか!
とはいえミユキちゃんにはそんなことはわからない。いまは目の前の座敷わらしとカッパをどうするかだ。いい案はなにも浮かばず、ただ手をこまねいて見てるだけのところに、当のイケメンお兄さんと目が合った。あらためて見ても美しすぎるそのお顔に、ミユキちゃんはまたも恥ずかしくなって引っ込んだ。
もういいかなと顔を出すと、彼はニコニコ笑って手招きをしている。それにフラフラと吸い寄せられて近づくと、どうしたのかと問われた。これは困った。お兄さんの後ろには温泉に住み着いているカッパのおじ⋯⋯おねえさん。その目がギラリと光る。親友はお兄さんの隣でニヤニヤしている。
イケメンお兄さんはしゃがみ込むとミユキちゃんの名前を尋ねた。お客様になにかを聞かれたらきちんとお答えするように。これが母の教えだ。頭はすごく混乱し、胸はドキドキ高鳴るけど、どうにかこうにか名を告げた。お兄さんはなにかに納得したみたいに頷いている。
なんとこのお兄さんも "ミユキ" という名前らしい。嬉しそうに教えてくれた。その優しい笑顔にミユキちゃんの気持ちも柔らかくほぐれてきた。その時、親友がトコトコ歩いてきてミユキちゃんにまた耳打ちする。
「なっ?やっぱりこの人いいよな。お婿さんに来てもらおうよ」
言われてミユキちゃんは思わず笑みを浮かべて頷いてしまった。それに自分で気づいてしまってもう限界。真っ赤なお顔で十三段の階段を飛びこすみたいに逃げてった。
「恥ずかしがってらぁ」座敷わらしが囃し立てる。
「あらあらオマセさんだこと」カッパもガハハハハと豪快に笑う。
そんなことは知りもしない弥幸は、ミユキちゃんを見送ったあと部屋に入り、妖怪二匹の見守るなかウトウト居眠りを始めたのだった。
逃げ出してはしまったものの、やはりどうにかしなければいけない。そんな気がするミユキちゃんは、もう一度十三段の階段を上っていった。ソロリソロリと弥幸の部屋を通りすぎてお隣へ。その部屋のなかには青白い顔の青年が、なにやら難しい顔で難しいことを考えていた。
しかし扉の開く音に目を向けると、そこにミユキちゃんの姿を認め、気取った感じで笑いかけた。
「やあ、ミユキちゃん、ご機嫌はいかがかな?」
そう問われてミユキちゃんは頷いた。それから青年の前までやってきて、チョコンと腰を下ろす。
「あのね、おじさん、お隣のお客さんなんだけど⋯⋯」ミユキちゃんは弥幸の話をした。そしてそれにつきまとう親友とカッパについても。
「フムフムそれは心配だねえ」青年は腕を組んで考え込んでいる。「よしきた!それじゃあ僕が見張っていよう。なあに座敷わらしくんもカッパさんも、あれでこの業界長いんだ。そうそうおかしなこともするまいて」
それでも心配そうなミユキちゃん。ならばと青年はもうひとつ付け加える。
「じゃああのアベックにも声をかけよう。我々三人で見張っていれば悪さなんて絶対できないからね」そう請け負って青年は立ち上がる。部屋の電話を取りあげて、内線で連絡すると自分は歩いて部屋を出た。
ミユキちゃんはまだ不安そうについていく。見ると部屋の前には母親が御膳を運んでやってきていた。いつもは仲居さんの仕事なのに、どうしたのだろう?不思議に思ったが、見つかると叱られそうなので慌てて隠れた。青年はというと、女将さんなど気にも留めず、ズカズカ弥幸の部屋へ入っていった。
もうお気づきだろう。この青年、生きている者ではない。オバケである。ユキエさんの話にあった自殺した文士の霊というのが彼である。簡単なことを難しく考えすぎてしまったことで、頭がおかしくなって自ら命を絶った。死んだあとは脳がなくなったのがよかったのか、正気を取り戻し、いまは難しいことを難しく考え続けている。そんな阿呆な男である。
彼がこのあとどうするのか?ミユキちゃんにはわかりようもなかった。でも頭のいい、このおじさんならなんとかしてくれるだろうと、ミユキちゃんはすべてお任せすることにした。セッセと立ち働く母親が部屋に入った隙をつき、急いで階段を下りていく。それもやっぱり十三階段。誰も気づいてないけど不吉な数字だ。
ああいけない、まだ半分しか解説してないのに長くなりすぎてしまった。ここは予定を変更して、次回は弥幸パートの続きではなく、解説其の五としよう。弥幸のお食事が揃うまで、座敷わらしは、カッパは、文士は、そして女将さんはなにを考え、なにをやったのか?それが詳しく語られることとなろう。




