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空手バカ一代と行く、JDまどかの心霊探索ツアー  作者: AKTY
第17話 弥幸先輩のぶらり湯けむりひとり旅―温泉地の怪奇現象編―

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第17話―4 解説其の二

 たいへん気持ちが昂ぶってしまった土産物屋のユキエさんは、思いつくままにこの辺りの噂話を話していった。こんな人並み外れたイケメンと差し向かいで話す機会など今後またやってくるとは思えない。この幸福な時間を少しでも長引かせるために、しまいには自分の小学校の怪談話まで混ぜ込んでしまったほど。


 またこの目の前のイケメン、弥幸(みゆき)が聞き上手なのだ。その美しいパッチリ二重瞼の瞳をキラキラと輝かせ、他には他にはとせがんでくる。ユキエさんは昔に戻ったような気持ちになって、年甲斐もなく秋波を送ったりも。その様子は弥幸のスマホにバッチリ収められた。


 のちにその映像を見せてもらった凛子(りんこ)は、映っている女性に気持ちはわかると共感を抱きながらも、この世のほとんどの女が自分の敵であることを認識した。弥幸のことを想い続ける以上は決して油断ならないのだ、と。女だけと思っているのがまだまだオボコでかわいいね。


 それはともかくたっぷり小一時間、ユキエさんは弥幸の顔を堪能し、さらには帰りにまたお土産を買いに来るとの言質まで取った。見事な手腕である。本当は千歳楼なんかに泊まらないでウチに来なよという誘いが喉元まで迫り上がってきていたが、さすがに宿屋の客を土産物屋が奪うわけにはいかない。夜は亭主も戻ってくる。妄想だけに留めておくことにした。


 そうそう、千歳楼だが、ユキエさんは噂話をしながらけっこうキツめにディスっていた。「あそこの女将が陰気でねぇ」となにか個人的な含みのある言い方。これは弥幸に話しはしなかったが、彼女とその女将は同級生であった。「あんなのが女将やってるからオバケなんか出るのさ」と噂の最後に付け加えた。そんなのこのイケメンにとってはセールスポイントにしかならないのに。


 弥幸が土産物屋を出たときはもう夕暮れ、逢魔が刻である。ここでこの男でなければ、なにモノかの視線を感じたかもしれない。まだ雪でも夜でもなかったが、街灯はすでに点っていた。少し先にある一本の下には赤い郵便ポストと、その脇に佇む女の姿。


 この寒空のもと、薄いノースリーブのワンピースを着たその女は、目の前を通り過ぎていくイケメンの顔をジッと凝視した。なにか思うところがあったのだろうか?これは地元の人さえ知らなかったが、来ない手紙を待ち続ける不幸な女である。弥幸に誰かの面影を見たのかもしれない。


 あゝしかし、教えられるなら教えてあげたい。いと哀しき君よ、君、郵便ポストは手紙を出すところだからね。待つなら郵便局か自宅の郵便受けの前にしなさいよ。


 いざ千歳楼への道をゆくハンサムガイは川にかかった橋へと行き着く。彼には暗くて読めなかったが、橋の袂の看板には "念仏橋" と記載されている。その由来は江戸時代、天保三年にこの近くに住んでいた男が念仏を唱えながら身を投げたことからきているそうだ。


 なぜそんな事になったのか?詳しくは記されていないが、ここはいっちょ解説しておこう。そのための回だ。この男、よその土地から流れてきた者で、温泉宿の手伝いをしてたつきを立てていた。明るく人好きのする性格だが、調子に乗りすぎるのが玉に瑕。オッチョコチョイな奴でもあった。


 ある夏の日、この橋を通りかかると、子どもらが橋の上から川に飛び込んで遊んでいる。見るとその内のひとり、いかにも愚鈍そうな子が怖気づいて川を覗き込んでいた。男は口笛を吹いて冷やかした。するとその子は唇を尖らして抗議する。そんなに言うならおじさんは出来るのかよ、と。


「できらぁ」と橋の欄干に上って下を見る。高さはないが、こりゃあちょっと浅すぎるんじゃないかい?心配になったが、もうあとには引けない。「こういうのはナムアミダブツって唱えて一気にいくんだよ!」と、念仏唱えて飛び込んだ。


 だけどやっぱり大人には浅かった。足から着地し、骨を傷め、ステンと転んで岩で頭を打った。そのまま男はお陀仏よ。そのバカらしい死に様を記念して、人々は橋の名前を "念仏橋" とした。


 その男、弥幸が通りかかったときもちゃんと飛び降りていた。これがコイツの楽しみでもあった。観光客をこうやって驚かすのだ。しかしハンサムガイはなんの反応も示さない。ヤツが川を覗き込んだときに、下からニュイっと顔を出しても見たが、やはりなにもなかった。男の霊はつまんねえなと舌打ちし、郵便ポストの彼女をからかいにそこを離れた。


 弥幸のスマホは彼女や彼を捉えただろうか?首尾よく映っていたならば、MAYOI先生を喜ばせることだろう。


 そんなこんなをスルーして、到着した千歳楼。出迎えた女将・サチコさんはこの予約客をひと目見て、頭にドクドク脈打つ音を聞いた。ユキエさんに陰気と言われたその顔は桜色に染まり、自然と笑みがこぼれた。


 イケメン効果は恐ろしい。たしかに彼女はこんな客商売でありながら、年がら年中陰気な顔をしていた。早く亡くした夫の跡を継いでの旅館業。けっして楽しいものではなかった。収支はよくてトントン、だいたい赤字。幸い試しに手を出してみたサイドビジネスのFXがなぜか好調で、それでなんとかやりくりできている。


 ならば旅館など閉めてFX一本に絞ればよさそうなものだが、いちおう歴史ある宿だ。亡き夫への想いもあって踏み切れないでいた。それで陰気が板についていたわけだ。


 だけどいま、彼女は輝くような笑顔で客を迎えている。口調はいつも通りを貫いたが、内心ウッキウキのテンション爆上がりであった。夫?なにそれ、知らん!今夜は徹底的にサービスしなくちゃと階段を駆け下り板場へ急ぐ。


 飛び跳ねるようだった彼女は気づいていない。その階段がいつもと違う十三段だったことを。



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