第16話―9 そしてふたりは幸せな⋯⋯
オカ研一行は繁華街の片隅にある小さな神社の境内へ逃げ込んだ。暴力事件の直後で、気持ち的にはかなり切羽詰まった感じだったが、別に追ってくる者はいない。どうやら難は逃れたようだ。
ここまで省吾の肩に担ぎ上げられていた凛子は、ベンチに下ろされ、呆然とした様子で座っている。あの一撃とともに怒りも抜けたようだが、自分がやったことについてイマイチ理解が覚束なかった。
「とりあえず有明くん、コリンの除霊からいこうか」円は座っている凛子の背後についた。「前のときみたいに私が後ろから抑えとくから、有明くんは腹パンガツンとブチ込んじゃって。暴れていない今のうちにやっちまおう」
円は凛子の脇に腕を差し入れる。
「は?なに?なにする気?」凛子は円のいきなりの行動に戸惑った。というか嫌悪感に怖気が走る。
「チッ、コノヤロー抵抗するんじゃねえ」円はジタバタ暴れる凛子を叱りつける。「すぐ済むから、ちょっと(霊を)抜くだけだ!大丈夫、痛いのは最初だけ、すぐに(除霊されて)気持ちよくなるから」
薄暗い神社の境内から聞こえてきていいセリフではない。いろいろ言葉が足りなくて危険だったのでこちらで補っておいた。よせやい、このくらいの気配り、現代のWEB小説には当然のことさ。
「神谷さん、少し落ち着いてください」省吾がようやく円に待ったをかける。判断が遅い!
「そんな場合じゃねえだろ!早く祓わねえとまたさっきみたいに被害者が出るぞ!」
「いえ、そもそもオバケ、憑いてますか?私にはそうは思えないんですが」
「さっきからなによ、バカまどか!」凛子もついに爆発した。「はらうとか、ついてるとか、なんの話ししてんのよ」
名前を呼ばれて円は動きを止めた。凛子から離れると、ゆっくりソロソロと正面に回ってマジマジと見る。
「えっ?オバケ憑いてないの?なんで?」
「はぁ?オバケ?そんなの憑いてるわけないじゃん。バカなんじゃないの!」
「じゃあオバケも憑いてないのに、ホストにあんなキッツイのカマしてきたの?なんで?」
「いや、わかんないけど⋯⋯」言われて凛子は自分のしたことを思い出して顔を赤くする。あれはなんだったのだろう?火事場の馬鹿力とかいうやつだろうか。完全に無意識の行為だった。
「えっ?それじゃあパパ活は?エンコーやってお小遣いたんまり稼いできたんじゃないの?それでホスト連れてヨイショ♪ヨイショ♪やるんじゃないの?」
「そんなわけないじゃん。バカなの?」凛子は冷たい言葉と視線を投げた。
「なんだァ?てめえ⋯⋯」円も負けずに睨み返す。
凛子は立ち上がると、両者接近して激しいガンの飛ばし合い。欲望と金、そして暴力渦巻く繁華街の片隅で、ついにこのふたりの決戦の火蓋が切って落とされるか?
「あのね、コリンちゃん」それまで黙って成り行きを見守っていた弥幸がついに口を出した。「君が最近ずっと部室に来てなかったでしょ?それで神谷さんも心配してたんだよ。心霊スポットに行った直後でもあったしね。なにか悪いものに取り憑かれてるんじゃないかって。それで僕もいっしょになって心配になってさ⋯⋯」
「みゆき先輩も?」凛子が被せるように問いかけた。
「うん、ちょっと早合点だったみたいだね。でも神谷さんの考えを聞いてるうちにどうしても不安になってきちゃって⋯⋯昼からずっと探してたんだ。なにもなくて本当に⋯⋯本当によかったよ」
安堵からか弥幸の目に微かに光るものがあった。暗いこの場所で、そんなの見えるはずはないのだが、凛子の目にはハッキリ映った。そう、愛の力によって。凛子も感激のあまり涙ぐむ。ふたりはともに濡れた瞳で見つめ合い、いつしかその距離が自然と縮まり、そして幸せなキスをしてハッピーエンド⋯⋯だったらよかったのに。
「んだよー焼肉はなしかよぉ」円が空気など一切読まずに嘆いた。円には愛などないのでそもそもふたりのことがよく見えていない。境内はどんどん暗くなってきている。「あ~腹減った。半日ムダにしたー」
「そうだね、お腹すいたね」弥幸が袖でさっと目を拭いながら言った。「みんなでゴハンでも食べにいこうか!今日は付き合わせちゃったからね、僕が奢るよ」
「ちょ、マジっすか!」円が小躍りする。「うっひょ~焼肉にしましょう。焼肉。オラ贅沢は言わねえ、食い放題でいいから」
「ああ、焼肉にする?そうだね、そうしようか。じゃあ行こう!」弥幸は朗らかに笑った。
「ちょっと円ちゃん、あんまり調子に乗らないでよね〜遠慮しなさいよ、遠慮〜」凛子はそう言いつつ、先頭に立って歩き出した弥幸の横にピッタリついた。
「うおォンうおォ〜ン」円もそれに続き、最後に省吾がどこか腑に落ちない顔で、小首を傾げながらついていった。




