第16話―7 コリンちゃん、まっしぐら
部室を飛び出した凛子は、とりあえず連絡だけはしておこうと弥幸に電話をかけた。しかしなぜか繋がらない。電源が入っていない云々のアナウンスが聞こえてくる。どうしたのだろう?円と省吾が繁華街にいるのであれば、それと行動をともにしている弥幸が電波の範囲外にいるとは考えにくい。とすると電池切れだろうか?あの細かいところにまで卒がない弥幸にしては妙である。
後輩のことを心配するあまり、弥幸の精神状態がいつもと異なっていると聞けば凛子は感激するだろう。スマホの充電を怠り、気づかぬうちにバッテリーがなくなってしまったのもそのためだった。だがこの時点では凛子にとって――いや弥幸にとってもだが、悪い方向へしか転がらなかった。ここで連絡さえついていればそれで済む話だったのに。
円や省吾に連絡をするという手もあったが、凛子はそれをよしとしなかった。弥幸より先に円の声を聞くことに耐え難い嫌悪感があった。省吾ならよさそうなものだが、所詮あの男もバカまどか一派、凛子の認識ではそういうことになっていた。トバッチリである。
とにかく行ってから考えよう。むこうで探して見つからなかったら、その時は諦めて省吾くんに電話しよう。凛子はそう決めた。
まだ凛子の預かり知らぬところだが、弱った弥幸のそばには暴走特急バカまどかが、文字通り舌なめずりして待っている。そんなところに凛子は一切の情報なしで飛び込まなければならないのか?ウカウカしてたら焼肉おごらされちまうぞ!
駅に向かう道に出たところで空車のタクシーが通りかかった。ええいもう面倒だ、と手を挙げて呼び止める。少しでも早く着くために、行先を告げたあと、「急ぎでお願いします」と付け加えた。こんな些細なことではあるが、なにやら物語の登場人物になったような気がして、少しだけ気持ちが高まった。
いつもレイナといっしょに遊ぶ繁華街の入口付近で車から降りる。先輩たちはどこにいるのだろう?辺りを見渡してもその姿はない。夕方で人通りも増している。ここから探すのは骨が折れそうだ。もう一度弥幸に電話してみるが、さっきと変わらない。どうしよう⋯⋯もう省吾にかけるしかないのだが、その背後でニタニタ笑う円の顔がチラついて思い切れない。とにかく少し歩いてみることにした。
思えばここにこうやってひとりでいるのは初めてのことだった。根っからのギャルであるレイナとは違い、大学デビューギャルである凛子はまったく遊び慣れていない。もともと夜遊びすらしたことがなかったのだ。よく来る場所でありながら、独りだと見慣れぬ景色に映った。凛子はそんななかをキョロキョロしながら歩いている。
「ねえねえ、どっこいっくのっ?」すぐ近くから軽薄な声。
凛子が振り向くとそこにはいかにもな見た目の若い男がふたり。ホストか、なにかの勧誘か、派手めなスーツと、毛先までカチッとキメた時間のかかりそうな髪型をしている。
「俺たちさあ、これから楽しいとこに行こうと思ってんだけど、いっしょにどう?」
完全に不意打ちだった。凛子は誰かに声をかけられることなどまったく想定していなかったのだ。いつもはここいらで顔の利くレイナがいるのでこの手の輩は近づいてこない。
「用がありますので」と自分でも驚くほど頼りない声で断って歩き出そうとするも、片方の男が立ち塞がる。
「あらあら、怖がらせちゃった〜?平気平気、俺たちそんな怖い人じゃないよ。なあ?」前の男は凛子の後ろにいる男に笑いながら声をかける。
「そうそう、ぜ〜んぜん怖くないからねえ」後ろの男はそう言って笑うと、凛子の肩に気安く手を置いた。「用事あるならさあ、俺たちぜんぜん待ってるから。ねえ、いっしょに遊びに行こうよぉ」
まったく解放してくれる気配がない。凛子は慣れないことに混乱して、どうすればいいのかわからなかった。表情を固くしたまま言葉が出ない。どうしようどうしよう⋯⋯頭には弥幸の顔が浮かぶ。助けて!みゆき先輩っ!
コリンちゃん危機一髪!まさかこのまま本当に汚されて、焼肉浄財コースが待っているのか?そんな、全年齢向けだぞ、わかってんのか?レーティングとか、なんかそんなの設定するのは嫌だからな!
早く、早く来てくれ、みゆきー!




