第16話―6 まどかの皮算用
「ああ、コリンならもうすぐそっちに着くわよ。おとなしく待ってなさい」説明を黙って聞いたあと、英依はそれだけ指示して電話を切った。
円はあらためてこの先輩の底しれぬ恐ろしさを知った。まさかここまで明確な回答が返ってくるとは。あの人にはいったいどれだけのことが見えているのだろう?もうすぐ着くということは、ヤツはいま移動しているのか?どこからだ?パパのとこからか?円の脳裏には高級外車の助手席から降り立つ凛子の姿がよぎった。
なるほど、たしかにあのコリンであればなかなかのランクのパパを捕まえていても不思議ではない。なにせヤツに取り憑いているのはベテランの援交霊。あの若い肉体を安売りはするまい。クソっ、月曜からとするともう3日か⋯⋯コリン、汚れちまったなあ。でも済んだことは仕方がないから、さっさと空手バカに腹パンでもしてもらって、祓ったあとはその稼ぎでパーっと豪遊でもするとしよう。浄財浄財!
「有明くん、やっぱ晩ごはんは焼肉かな?」
「えっ !? 急になんの話ですか?」省吾は困惑の表情で円を見た。英依と電話していたと思えば、なぜそこから夕食の話に⋯⋯
「コリンはもうすぐここに来るらしいよ」円は先に伝えるべき情報を伝えた。「でも有明くん、いきなりパパに殴りかかったりしたらダメだからね。そんなの美人局みたいなもんでしょ。たしかに金で女を買うようなふてえヤローではあるけどさ、暴力はイカンよ暴力は」
円の話がわからないのはいつものことだが、この日は輪をかけてわからなかった。本当ならここでイチから話を聞き出して、物事を整理し、間違いがあれば(ご覧のように間違いだらけである)正すべきだろう。しかし省吾は元来口数の少ない男だった。なに事も "押忍" の心で耐え忍ぶ、そんな習慣が身についている。あゝここには円を増長させるものばかり。環境が悪いにもほどがある。
ならばと弥幸に目を向けよう。年長者で会長という責任ある立場にある人物だ。ここはそろそろガツンと言ってもらえないものか。しかしいま、彼の特徴的なその美しいお顔は憔悴しきっている。不幸にも恐るべき怪異に取り憑かれてしまった後輩のことを思うと胸が張り裂けそうだった。
そもそもの根拠が円の戯言ではあったが、そのベースには凛子を心配する気持ちがあったのだ。病気かなにかの事情があって、いつも顔を出していた後輩が来なくなる。それに心を痛めていたところに円の説がピタリとはまった。コチラも変わったところはあるがその筋では信頼できる後輩だ。おそらく彼女も仲のいい友人の不在に心を痛めていることだろう。まさかデマカセを言っているとは思えない。
あゝ周りにはいい人ばかり揃っているのに⋯⋯揃っているからこそ、円はどんどん間違っていく。ツッコミ役が不在なのだ。こんなんどうやって回していけばいいんだ?
早く⋯⋯早く来てくれ、コリーン!




