第12話―エピローグ
「ああ、そりゃいかん!たしかに古いわ」村上が大声を出す。「いま時そんなあからさまなレスリング一辺倒のスタイルで勝てるわけない。どんなに鋭いタックルでもわかってたら切れるわ。現代MMAは常にアップデートされ続けとるからの。対策練習も十分やっとったし」
「はい、タックルが来るのはわかっていたのでヒザも合わせやすかったです。誘いにも素直に乗ってくれましたし」省吾が冷静に振り返った。
ここはオカ研の部室。ミーティングの真っ最中である。いまはあのあと別行動を取った特別ゲストの村上に事の詳細を説明したところだ。
昨夜のあのヒザは素人の円の目から見てもまさにドンピシャで気持ちのいいものだった。あんな一撃を喰らってしまえば、人間だったら立ち上がることは難しいだろう。しかしその古いというのが円にはいまいちよくわからない。省吾と村上だけが通じ合って楽しそうにしているのがなんだか癪に障る。
「じゃあ、なに?あのシャドピレスラーは昔の人ってこと?」円はよくわからないまま尋ねた。略称はいまとっさに出てきたようだ。やはりそのままでは長すぎた。
「まあ最新技術を追ってはいなかったみたいやの」村上が答える。「そうそう、これは飲み屋の大将が言っとったんだが⋯⋯」
昨夜村上は吉本についていって、あの襲撃者が相手方に引き渡されるところまで付き合ったらしい。アイツラに任せておかしなことになったら目覚めが悪いからと言っていた。意外と責任感の強い男である。それで待っている間にその中立だという飲み屋の大将からいろいろ話を聞いたのだ。
「あの高架下な、いまみたいに広場として整備される前はある総合格闘技の道場というか、ジムというか、まあ同好の士の集まりじゃな、そういう人たちが練習に使っとったらしいよ。勝手にマットとか持ち込んで、電線引っ張ってきて照明つけたり、まあそこら辺は昔だからけっこう緩かったらしいが。つまりもともとそういう場所ではあったんじゃな」
「ああ、なるほど!」弥幸が両手をポンと打った。「それでその関係者の誰かの霊か、あるいは土地に染みついていた残留思念かなんかが、新たに来て格闘技やってる人たちに刺激されちゃったんだね」
「まあそういうことかもな」納得がいったのか、村上はウンウンと頷いている。「それならスタイルが古い理由も説明つくしな」
それであそこまで実体化して辻斬りみたいなことやってたのか⋯⋯どんだけ格闘技好きなんだよ、と円は呆れた。しかしそういうこともないとは言えないと、隣に座る省吾を見ると思ってしまう。コイツなら死んだあとでも空手の稽古をやってそうだし、相手が現れれば実体化して勝負を挑みそうだ。
もう妖怪みたいなもんだなと考えていると、見られていることに気がついたのか、省吾がふと円に顔を向けた。正面から急に見つめられて円は「プッ」と吹き出した。妖怪・空手バカ、つねに空手のことを考えている妖怪で、たまに勝負を挑んでくる。似合う似合う。円は「ククク」と笑いをこらえた。腹筋が鍛えられる。
「おうおう、仲良さそうじゃのう」と村上が茶々を入れた。
「ホント〜なんかイチャイチャしちゃって〜」と凛子も同調してイジってくる。
「はぁ?そんなんじゃねえわ」円は苦手な系統の話に顔を赤くする。凛子はともかくこの脳筋野郎もなんか恋愛脳なんだよなあ。とにかく話を変えようと昨夜不思議に思ったことを弥幸に尋ねた。「そういえば昨日こっちに気づくまでにけっこう時間かかりましたね」
「そうそう、そうなんだよ!」弥幸が大きな声で言った。「僕はきっとなにかあったんだって、すぐ引き返そうと思ったんだけどね、村上くんが止めるんだよ。空気読めって」
「はあ⋯⋯なんですそれ?」
「いや、だってお前、男女が深夜の公園でふたりっきりなんやぞ?そんなもんチチクリ合っとるに決まっとるやろ!」村上は自信満々に断言した。
完全に藪蛇だった。話がまた恋愛の方へ戻ってしまった。円は自分のミスに舌打ちし、もう口は挟むまいと黙り込む。
「そういう雰囲気じゃなかったでしょ。変な人たちに襲われた直後だよ?絶対違うって言ったんだけどさあ。ホント村上くんこそ空気読んでよ」弥幸はプンプンと怒っている。
「吊り橋効果ってあるやろ?危険のあとに男女がくっつくのは定番やろがい。いまもほら、仲良くイチャついとったしの」村上は引かない。よほどこの理屈に自信があるようだ。
「たしかに〜そういうのありますよね〜」と凛子も乗っかる。
「そうじゃろそうじゃろ、コリンちゃんは話がわかるのう」村上は嬉しそうにニヤニヤ笑った。
もうなんなんだコイツラは⋯⋯円はガックリうなだれる。凛子だけならどうにでもなるが、そこに村上まで加わると面倒でしょうがない。もうどうにかしてくれ!そうだ、英依先輩だ、あの人でいいからこの空気を変えてくれ!
円の願いは届かず、英依やってこなかった。これは村上にとっても不幸なことだったが、後輩イジりに夢中な彼はガハハハハと豪快に笑っていた。
第12話 了
あとがき
どうもおばんです。AKTYです。ここまで読んでいただきまして誠にありがとうございました。
今回は第8話で登場した村上竜一に再度出てきてもらいました。どうだったでしょうか?彼が出てくると格闘技回ってことになっちゃいますね。今後もそういうことになりそうです。別にネタのアイデアがあるわけではありませんが。
今回の相手、高架下のシャドーピープルはかつてそこで青春の血と汗と涙を流した者たちの執念とか怨念とかリビドーとか、そういうものの残り滓が実体化した感じなんですかね。一応そういうものだってことで決着しました。しばらくその場所はそういう目的で使われていなかったので、技術が古かった。残念。
実際MMA(総合格闘技)の技術ってのは日進月歩で進化していってまして、ほんの数年前の試合がいまとは展開が違ったりしますからね。あのとき通用した技術がもう通用しないなんてのがざらにあります。今回はその一番わかりやすい形を使いました。
だからってね、村上とちょっと対策練習したからってすぐに対応できるようになるわけじゃないですよ。省吾は日頃からMMAの練習もやってるんです。それは第8話で自前のオープンフィンガーグローブを持っていたことで匂わせてはありました。円なんかに付き合っててホントにいいんですかね。彼はそっちに本腰を入れるべきではなかろうか。
まあそんなことされると話が終わってしまうんでね、省吾には今後も物語の裏で研鑽を積んでいってもらおうと思います。
さて、次回ですが、まだアイデアはなにもありません。でもまたストックが尽きる前にはなにか思い浮かぶんじゃないかと、気楽に構えております。たいして決めなくてもなにかしら書き出せばどうにかなりますしね。そんないい加減なスタンスで進行しております。もし止まってしまったら申し訳ない。でもバカまどか選手に関してはリズムが掴めていますんで、たぶん大丈夫!
なのでまだ未定の第13話の最後でこうやって出てくることをお約束しておきます。また会おう!フハハハハ⋯⋯
AKTY




