第9話―4 今日のお昼は天丼だ
「⋯⋯ということがあったんですよ」円はまたも箸で相手を指しながら経緯を説明した。
弥幸も昨日と同じようにまたニコニコ顔で話を聞いている。今日は凛子の弁当ではないようで、コンビニのサンドイッチを食べている。でも隣に凛子が座っているのは変わらない。
自分のことが話に出てきたことに凛子は表情を曇らせた。そりゃそうだ、走る電車の前に自分が突如現れて轢かれかけただなんて、そう簡単に信じられる話ではないが、気味が悪いことには違いない。だからコイツは電話してきたのかと、ようやくいま納得した。昨日の円からの電話もまた不気味だったのだ。
「それはかなり興味深い話だね」弥幸は食事を中断して思案している。その真剣な表情に凛子は一瞬でウットリ惹き込まれた。
「なんといってもコリンちゃんが出てきたわけですからね。さすがイタコリンちゃんですよ」そう言って円は凛子をニヤニヤと眺めた。「なんかアレ?生霊かなんか飛ばしてたの?」
「はぁ?なに言ってるか意味わかんないんですけど」凛子は弥幸がいるというのに怒りを顕にした低い声で返した。
「まあまあ、落ち着いて」弥幸がなだめる。「たぶんその現象が直接コリンちゃんと関係があるってことでもないんじゃないかなあ」
「まあそうでしょうね」円もそう考えていたのですぐに同意した。「まさか運転士さんまでギャルの姿を見てた、なんてことはないでしょうし」
「ブレーキをかけたってことはなにかしらを目撃しているはずだけどね。たぶんこれは観測者によって違うものが見えてるんじゃないかなあ」
「違うものですか?」円も薄々そんな気がしていたが、ここは弥幸の考えを聞いてみる。
「うん、そう考えればあの多種多様な目撃証言にも合点がいくよね。あそこにはいろんな怪異が出るんじゃなくて、見る者の頭のなかにある記憶とかイメージを映す鏡のようなものがあるのかもしれない」
また鏡か⋯⋯と円は思った。この夏はずいぶん鏡と縁があったものだが、ここもだろうか。そういえば踏切には鏡が設置されているものだけど、それが関係していたりするのか?
「まあ実際のところはわかんないけどね。神谷さんがその時、いつも仲の良いコリンちゃんを見たってのはそういうことじゃないかな?」
「は?」「え?」円と凛子が思わず同時に声を出す。弥幸はウンウンと頷きながら笑っている。円は睨みつけてくる凛子に、こっちこそゴメンだと威嚇するような表情を返した。
なんということだ。弥幸の目にはそう映っていたのか。仲良し1年生コンビ的な括りにされていたなんて。あまりのズレっぷりに驚きを隠せない。この人やっぱり変わってんなあと、円は呆れた。別にどう思われていてもいいのだが、ここは訂正しておいたほうがいいだろう。
「仲が良いから見たってわけじゃないと思いますよ。そもそも仲良くないですから」
「え〜そんなことないでしょ〜」弥幸はこのハッキリとした否定を、はじめは照れ隠しとでも思ったようだ。しかし円と凛子、双方の顔を見て、それが本気の言葉であると理解した。とたんに寂しそうな表情になる。それはもう、円ですらそこまで?と心配になるほどに。
「あっ別にケンカしてるわけじゃないですから」凛子が慌ててフォローする。「ほら、まだ知り合ってそんなに経ってないし、普通の友だち〜みたいな〜」
「はぁ?」円は弥幸のことなどどうでもいいので、これも否定したかったが、凛子はそうはさせない気迫を送ってくる。あまり険悪になるのも面倒だ、合わせておくか。「まあそんなところです。普通ですよ普通」
「そ、そう?ま、そうだよね。神谷さんたち入部してくれたのだってこの前だもんね。仲良くなる時間はこれからいくらでもあるよ」なぜか励ますように声をかける弥幸。
「そうですよ〜」凛子はどう考えても適当な相槌を弥幸に返した。そして⋯⋯「あれ?そういえば円ちゃん、仲良しの省吾くんは今日もいっしょじゃないんだね?」
ん?有明くん⋯⋯?
「ウワーッ忘れてたーッ!」
円は頭を抱えたあと、すぐさま立ち上がり部室を出ていった。違う、今度は円が忘れていただけだ。昨日の話を早くしたくて仕方なかったのだろう。ウッカリまどかは空手バカがいるはずの3号館の教室へとこの日も駆けていくのだった。




