第9話―3 帰りも電車でGO!
謎もなにもあったもんじゃなくすっかり忘れ去られていただけの省吾は、いつもの3号館で日課の站椿に励んでいた。そこにドタドタと駆けつけた円。メンゴメンゴと謝ったが、省吾自身はなぜ謝られているのかわからずキョトンとしている。ああ、わからないならいいのいいのと、円はホッとしながらフヒヒと笑った。
特に修復するような人間関係の不和も起こらず、その日はそのまま午後の授業を受けただけ。主に弥幸の都合もあって、オカ研の活動もなくお開きとなった。
そして夕方、ガタンゴトンと電車に揺られ朝と同じ路線で帰路についている円。今度はさすがに少し混んでいて座ることができなかった。だが、円はそもそも座るつもりもなかったのだ。朝のことがまだ頭に残っていて、なんとかその瞬間を目撃できないかと考えた。それで先頭車両の前のドアから乗り込み、運転席の後ろに張り付くようにして、進行方向を凝視していた。
運転席越しの景色を熱心に観察しているその様子は鉄道好きの子どもといった感じだったが、円には鉄オタ的素養はない。あくまでも移動のための足でしかないと思っている。最前列の車両をわざわざ選んで乗ることはないし、だからこうやって進行方向の風景を見ること自体初めてだった。
ガタンゴトンと動いていく景色がなんだか新鮮だった。これまでは円にとってただの動く箱でしかなかった電車だが、初めて人が動かしている乗り物として認識した。なんか、これ⋯⋯運転したいなあ。そんな欲がムクムクと生えてくる。円は車の運転に自信を持ってこのかた、運転手というものにすぐ憧れてしまうわんぱくキッズみたいになっていた。なんともおもしれー女である。
そうやって熱中していたため、お目当ての地点が近づいてきていることにも気がつかなかった。だからそれは完全に不意打ちだったのだ。電車は直線を進んでいた。前方の風景には少しだけ夕方の気配が漂ってきていたが、まだまだ明るく、視界はハッキリしている。その時ずっと先の線路上になにかが見えた。
ん?円は不思議に思って目を凝らす。それはたしかにそこにいる。
――急停車します、ご注意ください。
運転手にも見えていたのだろう。ブレーキレバーが操作され、自動で注意喚起のアナウンスが流れた。円の目には、速度を落とす電車の前に依然として存在しているそれがよく見えていた。
アレは⋯⋯ギャルか?どことなく見覚えのある服装。なんというかハデハデって感じではないんだけど、そこはかとなく下品な⋯⋯いや、これは昼に会ったばかりのキラキラ☆ギャル?
(えっ、コリン !? なんで !? )円は口をポカンと開け、思いっきり目を剥いた。電車が凛子に突っ込んでいく様子がスローモーションのように映った。ぶつかるッ!そう思った瞬間だった。すぐ目の前にいた凛子が突如消失したのだった⋯⋯
心臓がバクバクと高鳴り、呼吸も荒い。事故の瞬間を、しかも知っている人間のそれを目撃したのだ。イヤな汗が背中を伝う。なんであんな場所にコリンがいたのかと、混乱してなにがなんだかわからない。しかしそんな円の動揺をよそに、電車はしばらく停車したのちにまた運転を再開した。なにかを轢いていたのだとしたらありえない早さだった。
円はようやく気がついた。その時見た光景こそが、例のN木のオバケ踏切の怪異であったことに。
ちなみに円は降車するとすぐに凛子に電話をかけた。普通に応答した凛子は、なんの用だとキツい言葉を投げてきたが、円はハァ〜と息をつき、元気ならそれでいいよと電話を切った。




