第8話―番外編 村上竜一ナイト 中編
オシャレに決めて一味違う村上竜一は待ち合わせの店の前にひとり佇んでいた。近辺の大学生御用達で、村上も顔なじみの居酒屋である。入って待っていてもよかったのだが、一応誰も来ていないのを確認するとまた表に出てきた。
村上は自分の効能をよく知っている。大柄で、人混みにいてもよく目立つ彼は、待ち合わせの目印としてとても役に立つのだ。現にほら、いまも遠巻きに女の子がこちらをチラチラ窺っている。あれはたしか省吾といっしょにいた地味な女子だ。神谷さん⋯⋯だったか。なにをしているのだろうと村上は不思議そうに眺めた。なぜ看板の陰に身を潜めるようにしているのか?
あっ、もうひとりやってきた。あれは⋯⋯ギャルだ。コリンちゃん、だったかな。やけに弥幸にベタベタくっついていた女。あまりにも派手すぎて村上の好みではなかったが、美人であることは認めざるを得ない。
そのギャルが地味女に気づかず、横を通りすぎようとしたその時、陰から飛び出した地味女が背後からギャルの肩をガシッと掴んだ。「キャッ」という声が村上の耳にも届く。飛び跳ねるように振り向いたギャルに、地味女がなにやら曖昧な笑顔を向けている。なにをしているのかと見ていると、ギャルの後ろに地味女がピッタリくっつき、そのままこちらにやってきた。
「あ、村上先輩、おつかれさまです」ギャル、コリンちゃんはそう言って深々と頭を下げた。意外にも美しい所作だ。村上はこのひとつの動作でかなり彼女のことを見直した。
「ああ、おつかれさん。まだ他のは誰も来とらんぞ」村上はかなりフランクに接した(つもりだ)。
「ああ、そうなんですね」とコリンちゃんはニコッと微笑む。やはり見た目の印象からはかなり違っている。
一方もうひとりの地味女、神谷はこちらに目も合わせず、小さな声で「ウス」と発したのみで、またコリンちゃんの背に隠れてしまった。この娘はいったいどういう人物なのだろうかと、村上は訝しがった。さっきはここまでおかしな動きはしていなかったように思うが⋯⋯
続けて省吾、弥幸と集まってくる。やはり村上は目立つようで、弥幸などはかなり遠くから手を振ってよこした。そんな弥幸もよく目立つ。彼が通りを歩いてくると、すれ違った女性が皆振り返って見るのだ。船の航跡のように、弥幸の通ったあとはその女性たちが痕跡となった。
そうそう、地味女・神谷は省吾が到着してからはその背後に移動していた。村上と省吾が会話している後ろで、なにやら退屈そうにしている。それなら会話に入ってくればよさそうなものだが、そうはしない。どころかコリンちゃんとすら話さない。村上はこの変な女が妙に気になってきていた。
「みんなお待たせ〜」最後にやってきた弥幸は朗らかに笑う。
「そんな〜ぜんぜん待ってないですよ〜」さっきまではしっかりしていたコリンちゃんが急にベタベタとした話し方になって弥幸に近寄っていった。
「じゃあみんなそろったみたいだから、中に入ろっか」弥幸はそう言って店のドアに手をかける。
「えっ、英依さんは !? 」村上は思わず泡を食って尋ねた。
「ああ、英依さんね⋯⋯」弥幸は首を振る。「またいつものように行けたら行くわ、だってさ。彼女気まぐれだからねえ。まああとで来るんじゃないかな」
そ、そんな⋯⋯ "行けたら行く" なんて来ない人の言葉じゃないか⋯⋯英依さん⋯⋯来ないのか⋯⋯?
ガックリ肩を落とす村上。しかし弥幸たちはお構いなしで店のなかに入っていく。こうなったらしょうがない、薄い望みに期待を込めて、ただ待つのみだ。村上は急激に減退したやる気にムチを入れ、トボトボとオカ研メンバーのあとへ続いていった。




