第8話―エピローグ
残心を解いて村上のもとへ駆け寄る省吾。正座して礼をしたあと、村上を気遣うように肩に手を触れる。村上はうめきながらなんとか起き上がり、こちらも正座して礼を返す。そして右手を差し出した。ガッチリ握手を交わすふたり。闘いのあとの美しい光景であった。
そんな省吾たちの姿を目にした円の心は急速に冷めていった。やはりあの世界がこの空手バカの本来の居場所ではないか?ボディガードとかなんとか言って、自分はあんな爽やかスポーツマンをおかしな所に引っ張り込んでしまったのでは?現にいま、省吾はめったに見せない笑顔である。
省吾と村上は握手したまま何事か話している。距離があって円にはその内容は聞き取れない。省吾は村上の言葉に首を横に振り、もう一度笑顔を見せた。それから立ち上がり、村上も握った右手で引っ張り上げた。少し顔を歪めて立ち上がった村上は、健闘を称えるように省吾をハグし、背中をポンポンと叩いた。
村上はまだ見物している部員たちを手でシッシと追い払い、省吾と連れ立ってオカ研たちのほうへ歩いてきた。あんな闘いのあと、しかも自分が敗北したというのに晴れやかな表情でガハハと笑った。
「いやあ、まいったまいった。もう完敗だよ。全国大会で見たボディブローを実地で体験させてもらったわ」
「すごかったよ〜ふたりとも」弥幸は心から称賛している。「こういうの動画とかでしか観たことなかったけど、実際その場で観るとすごい迫力だよね」
「そうだろ、そうだろ」村上はウンウンと頷いた。「格闘技の現地観戦はまた違った面白さがあるんよ。今度いっしょにRIZINでも観に行こか?」
「ホントだよね。僕もちょっとハマっちゃいそうな感じだよ」弥幸は本当にさいたまスーパーアリーナにでもついていきそうな勢いだ。
そんな弥幸を凛子が苦い顔をして見ている。オカルトに続き格闘技まで弥幸の趣味になってしまっては、どちらも苦手な凛子にしてみたらたまったもんじゃない。自分に惹きつけるどころかどんどん離れていってしまう。なんとかしなければと凛子は考えていた。
「それにしても有明くんはすごいよ。空手部エースを倒しちゃったね」敗者を前にしていくらなんでも無邪気すぎる弥幸の言い草だが、村上は横で豪快に笑っている。
「いえ、村上先輩が積極的に攻めてくれたからうまくいったんです。勝負に徹して他の闘い方を選択していたらまた違う結果になったと思います」省吾はそう謙遜した。いや、これは分析だろうか。
おいおいもう "先輩" 呼びかよ。このまま空手部にでも入部しちまうのか?と円はささくれた気分で会話を聞いていた。いまは近くに立っている省吾が遠く感じる。円は省吾を避けるように自分の足元に視線を落とした。あっ、靴下に穴がっ!
「そもそもこれだけ体重差のある試合だからの、なんも言い訳はできんよ。俺の負け、完敗よ」村上は素直に認めたあと、次のようにボヤいた。「こんな人材をなんでオカ研なんかに渡さんといかんのか⋯⋯」
「えっ !? 」小さくではあったが、円の口からつい声が漏れた。
「だから "なんか" はヒドいって」弥幸が口を挟む。「有明くんは僕らの仲間だからね。そうだよね、神谷さん!」
「あ、はい」円は思わず返事をして、省吾の様子を窺った。それに気づいた省吾は円に頷きを返す。
「前から相談していたんですが、私と神谷さんは正式にオカ研に入部しようと思います」
目を大きく見開き省吾を見る。それから円の表情がパッと輝いた。思ってもみなかった展開だ。うれしいうれしい、いますぐ跳びはねたいような気分だ。でもそれは一瞬で、すぐそれを打ち消して取り繕う。
「まあ、これだけお世話になってたらもう部員みたいなものだからね」円は平静を装って言った。円の思考では最初が肝心なのだ。入ってやるよというスタンスを示さなければならない。
「え〜!ホントにぃ?」弥幸が歓声をあげる。「やったあ、ついにふたりが正式に部員になった!ねっ、やったねコリンちゃん。どうする?今日はいまから歓迎会やる?」
「えっ、いまからですか?」凛子が聞き返す。
「あっ、さすがにまだ時間が早いか⋯⋯いや、でもあそこならもうやってるかな」弥幸がなにやら算段している。「そうそう、英依さんも呼ばないと。今日は全員集合しないとね」
「え、英依さんも来るんか?」なぜかそこに反応した村上。「なあなあ、その歓迎会、俺も参加していいか?」
「ん?いい、いい、みんなで行こう!ちょっと待ってね、いまから調整するから」弥幸はすごい速度でスマホを操作している。
省吾はそんなやり取りを見てニコニコしている。そして円もまた、そんな省吾に自然と口元がほころぶのだった。
第8話 了
あとがき
カクヨムでの連載で最新話まで追ってくださっていた方、たいへんお待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません(全裸AKTY)。ついに最新の第8話を最後までお届けすることができました。
いろいろありましたけどね、バカまどかは不死鳥のごとく甦ったわけですよ。これもすべて、みなさんからの激励あってのことです。カクヨムで引退を発表した時は本当にそのつもりでしたから。連載継続しろとの励ましがなければこの続きが書かれることはなかったでしょう。
それで出してきたのがこれ、オバケがまったく出てこない第8話。番外編のあとがきで、次は地に足のついたものをとか書いてましたが、ちょいと足がつきすじゃないかい。オバケなしとか、これでホラージャンルに籍を置いてていいんですかね。なんか盛り上がって空手バカが格闘技やってますよ。まあでもバカまどかなんてこんなもんですね。
オバケは出ませんが、これはあくまでも円と省吾の青春の話ですから。概要にも書いてありますよ、オカルト "青春" 譚って。看板に偽りなしです。この "青春" という面ではけっこういい回だったのではないでしょうか。
すれ違うふたりの気持ち、揺れる想い、激しく衝突して、仲直りです。恥もさらしましたよ、靴下に穴あいてんですから。ああ恥ずかしい。こういうの全部青春の1ページなわけです。いいですね、もう戻ってはこない、輝かしきあの日です。
これで円と省吾の立場が明確になりましたね。以降はオカ研部員として、よりいっそう心霊探索に打ち込んでいかなければなりません。大丈夫か?ネタはあるのか?どうでしょうね、そういう意味でもハラハラドキドキですね。ということで今後にご期待ください。
あ、新キャラ村上竜一の名前の元ネタはもうそのまま、オールド格闘技ファンはすぐピンとこられたかと思います。そう、士道館の村上竜司さんです。旧K-1とかにも出てましたね。まさに士魂な、闘争心でプロレスラーとかをガンガン倒していました。カッコいい空手家です。うちの村上もああいう豪快でカッコいいイメージで設定しました。
彼もまた登場することあるんですかね?ちょっとわかんないですけど、あるかもしれませんね。そこらへんもお楽しみに。
そうだこれも書いとかないと。省吾と村上の試合のルール "己のプライドがルール" ですが、これはアントニオ猪木 vs マサ斎藤の巌流島決戦でのルールです。レフェリーも観客もいない、たったふたりだけの巌流島で、掲げたのがこれですね。省吾と村上はこの言葉を介して深く通じ合った。実に暑苦しい話です。
まま、それはそれとして、みなさんの応援が励みになっています。ぜひコメントなどいただければと思います。あとブックマークやポイント評価もヨロシク。ちょっと気楽にポチッと押してもらうだけですんで。なんも難しいことありませんよ。ほれポチッとポチッといきましょう。
こんな感じで今回は失礼させていただきます。それではまた次回。
AKTY




