第8話―4 ランチタイム まどかの流儀Ⅱ
オカ研の部室で昼食を取るのは2度目だが、さすがに今度は円もおとなしいものだった。前回のようなニンニクマシマシこってり濃厚カップ麺ではなく、カップヌードルにしておいた。カレー味である。それと作ってきたおにぎりを並べる。これはこれで最強の布陣と言っても差し支えないだろう。
円だって一応は気を遣ったのだ。あの時のように英依がやってこないとも限らない。それにほら、新学期初日とか、なにか新しいことが起こるかもしれないじゃん。知らない人と話さなきゃいけないかもだし、なんてありそうもない事態に備えてもいた。
誰に断ることもなく勝手に湯を注ぎ、じっとその時を待つ。円はここで妥協しない。腕を組んで昂ぶる気持ちを落ち着けた。薄目で周囲を見渡すと、省吾はいつもどおりまん丸デッカい具沢山のおにぎりを頬張っている。凛子は弥幸の称賛を受け、デロデロにとろけて相手をしている。あれが麺ならちょうどいいコンディションだな、と円は思った。
7分目前、ついに時は来た!カッと目を見開いた円は勢いよく蓋をはがす。デロデロになったベストコンディションの麺を一気にすすりあげる!やはりこの時間である。麺を柔らかくするのはもちろんだが、長く置いておくことでスープがちょうどいい温度に冷まされるのだ。安全性にも考慮した最高のタイミングである。
凛子は自身弥幸にデロデロでありながらも、この円の行動をその目で目撃していた。部室に漂うカレー臭が凛子の美意識を挑発する。しかもその品のない食べ方。本当に自分と同じ性別なのかと疑いの目を向ける。銭湯を共にしたこともあったが、それでもまだ信じられない。
隣では弥幸が弁当のあらゆる面を褒めてくれている。本当ならその美しい調に全身を浸してしまいたいのに、どうしても円で注意が削がれてしまう。やはりコイツは私の敵だと、その気持ちを新たにするのだった。
円の食事はすでに最終盤に差し掛かっていた。ついにまどか選手、おにぎりの残りをガバっとスープに投入する。これぞ正調のカレーヌードルリゾットの完成だ!米がスープになじむよう、しっかりかき混ぜ、そのままかっこむ。いや、これはもう飲料、グイッと飲み干した!「カレーは飲み物」偉大なる先人のその言葉を体現するかのような見事なフィニッシュであった。
その様も凛子は目撃していた。唖然として、弥幸を眺めるためだけに在るはずの瞳を、ついこんなものに使ってしまった。ふと円の隣にも目がいく。そこには凛子と同じく唖然とした表情の省吾がいた。どうしたのだろう?凛子は不思議に思ったが、正直省吾がどうしようとさほど興味がなかったのでそのままスルーした。
ランチタイムが終了し、部室はどこか気だるい雰囲気に包まれていた。弥幸は円たちの来訪に張り切って、前回の合宿についての自説をあれこれ披露したが、それもいまいち盛り上がりに欠けた。円がチェックした分の映像記録に実は心霊現象が映っていたという話も出たが、もっとすごいのと対決して、問題を解決したいまとなっては、もはや鮮度切れといった感じであった。
「そんなのより先輩、後期の授業について教えてくださいよ。できれば試験が簡単なやつとか、レポート出すだけで出席は重視しないのとか、そういう耳寄りな情報をください」円はこの短時間でまたも弥幸に慣れていた。馴れ馴れしいにも程がある、無礼な態度だ。
そんな円にも嫌な顔ひとつせず、熱心に有用なアドバイスをくれる弥幸。聖人と言ってもいい彼の言葉に、1年生たちは真剣に耳を傾けた。このあと特に行事があるでもない大学後期の初日。穏やかな時間が過ぎていく。
そんな時だ、荒々しく扉が叩かれた。弥幸の返事を待つでもなく、叩いたのとほぼ同時にドアが開く。
「おーう、弥幸ーおるかー」野太い声。
突如現れたその闖入者、やけにガタイのいい、黒タンクトップの大男がそこに立っていた。




