番外編―4 召喚!
ランタンのスイッチをOFFにすると、室内はかなり薄暗くなった。4本のロウソクの仄かな灯りが魔法陣を照らし、そこだけ浮いたように見える。
英依はその魔法陣の中央に歩いていき、しゃがみこんだ。持っていた箱を開き、中身を取り出している。どうしても好奇心を抑えきれない円は、ソローっと英依の後ろに来て、彼女の手元を覗き込む。
「ゲッ」思わず声が出た。やはりというかなんというか、英依はこの前入手した新アイテム、"井戸" が封じられた鏡を手にしている。
円の声が聞こえたのか英依は振り向き、その手の鏡を顔の横に掲げるとフフンと鼻で笑った。
「ちょっ⋯⋯先輩、それこの前の鏡!どうする気です?」円は不安と興味と両方がないまぜになった複雑な心境で尋ねた。
「ん?だってほら、これって異世界と通じてたわけじゃない?召喚の儀式と相性いいかなって」当然だろ?とでも言うかのように、英依はサラッとそう言うと、魔法陣の中央に鏡面を表にしてセットした。「これで⋯⋯うん、たぶんいけそうね」
自分自身が危険な目にあいかけただけに、さすがにドン引きの円であったが、相手が相手だけにそんなのやめときましょうよとは言い出し難い。そこで、「大丈夫ですか?」と控えめに問いかけるに留めた。
「平気平気!」と英依は軽い調子で請負った。「なんかあったら、ほら、私たちには有明省吾がついてるじゃない。ねっ、省吾、いけるでしょ?」
「押忍」省吾はそう言いながら、両腕を胸の前から腰のあたりに下ろすポーズを取る。
(いやいや、押忍じゃねえわ。お前らいつからそんな師匠と弟子みたいな関係になったよ?)円は内心そうツッコミを入れながらも、もう苦笑するほかなかった。
「じゃあ始めるわよ」英依は魔法陣から距離を取ると、いつの間にか手にしていた黒い表紙の本を開いた。そしてなにやらモゴモゴと口の中で唱えている。
息を呑んでその様子を見守る円。その数歩後ろでは省吾がジッとその時が来るのを待ち構えている。
英依の詠唱は延々と続いた。言っている中身は円には聞き取れないが、その真剣な表情から、これが冗談の類ではないことを読み取った。室内の空気もいまや緊張で張り詰めている。自分の心臓の鼓動がドキドキと煩わしい。唾を飲み込むことすら躊躇われた。
そんな時間の果てに、ついに英依の声が完全に途絶えた。彼女は手に持った本を前方に差し出すと「来るわ」と静かに言った。
急にまばゆい閃光が、おそらくは床に置かれた鏡から放たれた。円は反射的に目を瞑り、両手を顔の前にかざした。
(ヤバいヤバいヤバいって!)瞼の裏で感じる光の奔流に気持ちが動転する。これってホントに召喚しちゃったんじゃないの?悪魔とか、下手したら魔王的なヤツが出てくるんじゃ⋯⋯
ポンッ
(ん?ポン?)円は耳に聞こえたなにやらコミカルな響きに、そおっと目を開いた。すでに光は収まっていて、元の明るさに戻っている。しかしひとつだけ前とは違っていた。
ロウソクの灯りの中央、魔方陣の真ん中に蹲るように――小柄な少女が現出していた!




