番外編―1 英依先輩からの電話
大学の超常現象研究会、通称オカ研の夏合宿も無事に終わり、神谷円はたまに単発のバイトをしつつも、ゴロゴロと怠惰な日々を送っていた。
あれ以来円はオカ研の面々とは絡んでいない。例のごとく楽しかった合宿の反動で、なんとなく彼らと接することに気後れを覚えていた。合宿の数日後に部室で行われたミーティングも理由を作って欠席した。会長の三浦弥幸からのお誘いにもずっとぼかした対応をしている。
心霊スポット探索の同志である(と円が勝手に認定している)有明省吾とは細々とLINEで連絡を取って、次の計画を立てたりしているのだが、実際に立って行動するとなると、まだ時間がかかりそうだった。なにか円の気持ちを奮い立たせるような刺激でもない限りは⋯⋯
そんなものはそうそうあるものではないのだが、別の刺激だけは円の事情などお構いなしで飛び込んできた。強烈過ぎるヤツが。
オカ研の先輩、芦原英依からの着信である。その着信音は円を震えあがらせた。めったにかかってくることのない電話。しかもそれがあの、最恐の英依先輩からである。
初回は恐ろしさのあまりスマホをベッドに放り投げ、トイレに逃げ込んだ。二度目はその瞬間に家を出て、コンビニへ向かった。いやあスマホ忘れて買い物行っちゃっててぇ、という言い訳のために。
そんな誰が見ているというわけでもなかろうに、と思われるかもしれない。だが、その言い訳なしでは円の心が保たないのだ。そもそも見ていないとは言い切れない。相手はそういう人物である。
三度目は⋯⋯もうこれを無視することはできなかった。これ以上はあとでなにをされるかわかったもんじゃない。円は覚悟を決めて画面に触れた。
「あっ、やっと出た。英依で〜す」思いのほか軽い調子の声がする。円の曖昧な応答を受け、英依は話を続けた。「ちょっとね、あなたと省吾に付き合ってもらいたいことがあるの。明日か明後日か時間作れる?」
グッっと言葉に詰まる円。付き合ってもらいたいこと?いったいなんだというのだろう?これは気軽に応じていいものなのか、グルグル思考が駆け巡る。
しかしいくら考えたって答えなんか決まっているのだ。下手な言い訳などしようものなら即座に看破されるに決まっている。円は空調の効いた屋内にいるにも関わらず、脇の下にじっとり汗をかいていた。
「じゃあ⋯⋯明後日で⋯⋯」円はどうにかこうにかそう搾り出した。
「オッケー、それじゃあ明後日の夕方6時頃に、オカ研の部室に来てね。省吾にはこっちから連絡しとくから」英依はそれだけ告げると一方的に電話を切った。
円は一挙に脱力し、ベッドにバタンと倒れ込んだ。寿命が縮む思いだった。100日くらいは縮んだかな?ともあれ約束してしまった⋯⋯大丈夫なのか?円は寝返りを打ち、枕に顔を埋めた。そのまま両足をバタつかせる。
さまざまな後悔が頭をよぎるが、もうどうしようもない。いや、たとえ時間を遡ったとしても、同じことだ。何度繰り返そうとも英依の誘いを断ることなどできやしない。
「ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙」円のうめき声が部屋に響く。これも何度繰り返しても変わらないだろう。




