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CODE:0(コードゼロ) 〜コイアン!公安を目指すはずが、なぜか美女に囲まれる〜  作者: にめ
公安学校編8:七不思議最終章

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LOG.138 影の余韻

LOG.138 影の余韻


### ◆ 翌朝の食堂


昨夜の「夜鳴くピアノ」事件から一夜が明けた。学院の食堂には早朝から候補生たちが続々と集まっていたが、空気は重苦しく、普段のざわめきはほとんどなかった。食器が触れ合うかすかな音と、抑えた囁き声が耳に残るばかりで、皆がどこか怯えた顔をしている。配膳口ではパンやスープを受け取る手が強張り、隣に並ぶ仲間とも目を合わせようとしない。昨夜の出来事は“器材不良”として処理されたと説明は受けたものの、心の奥底では誰ひとり納得していなかった。


御影湊は右腕を包帯で吊った姿で席につき、穏やかな笑みを浮かべていた。疲労の色が濃い顔立ちに、それでも優しさを滲ませる。

「……でも、みんな無事でよかったね」

その一言が張り詰めた空気を少しだけ和らげる。だが桜井さくらは手を震わせながらスープをすくい、か細い声で言った。

「……あの白い影、私たちを笑ってた。絶対に……」


花菱天音が眉をひそめ、声を潜めて吐き捨てる。

「器材不良で片づけられてるけど……そんなもの、信じられるわけないじゃない」


桔梗まつりは冷静に頷き、タブレットを取り出してログを表示した。画面に青白い文字が流れる。

「現象には必ずパターンがあるわ。偶然や気のせいじゃない。データのどこかに痕跡が残っているはず」


才牙冷は仲間を見渡し、心の中で呟いた。

(俺たちで掴むしかない……この影の正体を)


---


### ◆ 教官の通達


午前の訓練前、候補生全員が広い講堂に集められた。重苦しい沈黙の中、壇上に立った九重教官は背筋を伸ばし、鋭い眼差しで会場を一望する。その姿だけで緊張が走り、誰もが息を潜めた。前列の候補生の肩がわずかに震える。後方では、息を呑む音すら響いた。


やがて低く、しかし講堂全体に響き渡る声で短く言い放つ。


「昨夜の件は、公式には“器材不良”と処理する」


ざわめきが広がる。しかし教官は鋭い眼差しで全員を一喝した。空気が一瞬で凍りつく。


「お前たちは、どう感じた?」


静まり返る講堂。候補生たちの視線が揺らぐ中、九重は続ける。

「考えることをやめた時点で、公安の人間として失格だ。真実がどこにあるかは、自分の目で掴み取れ」


その言葉に、候補生たちの胸には不信と恐怖が渦巻いた。公式発表と実際の体験、その乖離がますます鮮明になっていく。冷は九重の視線を受け止め、強く唇を噛んだ。


---


### ◆ 仲間の対話


夕刻、冷のチームは自室に戻っていた。窓の外は赤く染まり、秋の気配が漂う。誰もが口を開けず、時計の針の音ばかりが耳に残る。沈黙を破ったのは、やはりさくらだった。

「……あの白い影、絶対に私たちを見てた。私、また……消えちゃうのかな」


彼女の声は震え、両手は制服の裾をぎゅっと握りしめていた。恐怖と不安に押し潰されそうなその姿に、室内の空気がさらに重く沈む。冷は思わず声をかけようとしたが、喉が詰まったように言葉が出てこない。


まつりは眉を寄せ、タブレットを操作しながら落ち着いた声で答える。

「現象を並べれば、必ずパターンがある。幻覚や夢遊で片づけるには不自然すぎるのよ。ほら、ここ……昨日のログに小さな欠損がある」

冷静な口調だが、その指先は僅かに震えていた。分析の言葉の裏に、彼女自身の恐れが滲む。


天音は大きくため息をつき、腕を組んで壁に背を預ける。赤い夕日が彼女の横顔を染めていた。

「制度そのものが怪異を生み出してるんじゃない? 私たちは試されてるのよ。どこまで耐えられるか、ね」

挑発するような声に、誰も反論できなかった。天音の視線は窓の外、遠い屋上へと向けられていた。


重い空気をやわらげるように、湊が口を開く。包帯で吊られた腕をかばいながらも、柔らかな笑みを浮かべていた。

「でも……僕たちが一緒にいれば、大丈夫だよ。ね、冷」


彼の笑顔に、冷は小さく頷いた。その瞬間だけ、張り詰めた心が和らいだ気がした。だが、不安の影は決して消えず、胸の奥で脈打ち続けていた。仲間を守りたい、その思いと裏腹に、影の気配はさらに強まっていくようだった。


---


### ◆ 新たな不穏


夜、冷はベッドに腰かけ、静かに息を吐いた。窓の外は風もなく、月明かりが寮の庭を青白く照らしている。部屋の灯りを落とし、BlueBeeを起動した。昨夜の楽譜データを再解析する。青い光が虚空に譜面を浮かび上がらせ、複雑な数列が幾何学模様のように回転しながら、ノイズのパターンを探し出していく。冷の額にはじっとりと汗がにじんだ。静まり返った室内に、自分の鼓動だけが響いているようだった。


やがて画面に浮かんだのは、不気味な文字列だった。


――「次はお前だ」


目を疑った瞬間、背筋に凍りつくような寒気が走る。指先が勝手に震え、思わずBlueBeeを握り直した。すると、LinkChatに匿名の通知が届く。


《おまえも、影に呑まれる》


冷は鼓動を抑えようと深呼吸しながら、反射的に窓の外を振り向いた。夜空に、淡く揺らめく白い影が浮かんでいる。形を結ぶその輪郭は、まるで人がこちらを覗き込んでいるかのようだった。時間が止まったように感じられたが、次の瞬間には霧のように掻き消えた。冷の胸に重く冷たい恐怖が残り、心臓の鼓動が耳の奥で反響する。


「……待つだけじゃ駄目だ。俺たちから掴みにいかなきゃ」


冷は拳を握りしめた。決意と恐怖が入り混じる。学院を覆う影の余韻はなおも濃く、まるで彼らを監視し続けているかのようだった。


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