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コイアン! 〜CODE0:サイバー公安と恋のセキュリティ〜  作者: nime
公安学校編7:七不思議再開

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LOG.137 分裂する候補生たち

LOG.137 分裂する候補生たち


朝の空気は妙に重かった。教官棟から漏れた不気味な無線の断片を聞いた翌朝、候補生たちは互いに視線を避けながら食堂へ向かい、誰もが落ち着かない手つきで食器を握っていた。談笑の声は消え、囁き合う声ばかりが響く。食器が触れ合う金属音だけが妙に耳に残り、不穏な沈黙を強調していた。廊下に貼られた赤紙の存在は、ひとつの烙印のように候補生たちの胸を押し潰していた。赤紙を背負わされた者は食堂の片隅で小さく肩を寄せ合い、そうでない者たちはあからさまに距離を置き、視線を交わすことさえ避けている。


冷たち五人は、食堂の隅に小さな輪を作って座っていた。湊が小さくため息をつき、さくらが不安げに俯く。まつりは端末を握りしめ、天音は苛立ちを隠さぬ顔で周囲を睨みつけている。冷は沈黙を守りながら、仲間の存在を確かめるように視線を巡らせた。昨夜の無線の声が頭から離れず、指先が自然と震えていた。


---


### ◆ 広場での衝突


午前の訓練が始まる前、候補生たちは広場に集められた。朝靄がまだ地面に薄く漂うなか、突然爆発するように怒声が飛び交った。赤紙を貼られた候補生と、そうでない者たちが互いを罵り合っていたのだ。


「お前らが影を呼び込んでるんだ!」

「違う! 制度が俺たちを弄んでるんだ!」


罵声が飛び交い、互いに胸ぐらを掴み合う。周囲の候補生たちが「やめろよ……」と声を潜めながら後ずさる一方で、「そうだ、怪しい!」と煽る声も混じり、空気は一気に殺気立った。誰かが必死に笑い飛ばそうとするが声が裏返り、逆に恐怖を煽る。拳が振り上げられ、殴り合い寸前の危うさが漂った。恐怖に泣き出す女子候補生、赤紙を爪で引き剥がそうとして必死に背中を掻く者まで現れる。


「くだらない争いはやめろ!」


天音が前に躍り出て一喝する。しかし怒りの矛先はすぐに彼女に向いた。「お前こそ怪しい! 試験で裏切ったんだろ!」と声が上がり、群衆の目が一斉に天音へ突き刺さった。その鋭い視線の圧力に、広場の空気は一層張り詰めていく。


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### ◆ 湊の負傷


「やめよう! こんなの間違ってる!」


湊が必死に両手を広げて間に入る。その柔らかな声は震えていたが、必死さが伝わる響きだった。しかし群衆の中の誰かに腕を掴まれ、乱暴に引き倒された。地面に叩きつけられ、肩を強く打つ。鈍い音が響き、湊の顔が苦痛に歪む。呼吸が乱れ、視界が揺れる。砂埃が舞い、訓練靴の群れが彼を取り囲む。


「湊!」さくらが叫んで駆け寄り、震える手で彼を抱き起こす。涙が滲み、声が裏返った。まつりは冷静に周囲を観察しながら、「この分断……制度が仕組んでいる」と小さく呟いた。


天音は怒気を爆発させそうになり、拳を固く握りしめる。その腕を冷が掴んで制した。「感情で動いたら、影と制度の思う壺だ」冷の声は震えていたが、確固たる強さを宿していた。


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### ◆ 冷の檄


冷は群衆の中心に進み出て声を張り上げた。


「敵は俺たちじゃない! 影と、それを利用している制度だ!」


その言葉は広場全体に響き渡り、罵声を浴びせていた者たちの動きを止めた。彼の声には、昨夜の恐怖を乗り越えた決意が宿っていた。群衆の中で誰かが泣き出し、赤紙を剥がそうと爪で必死に引っ掻く者もいた。だが紙は不気味に脈動するように揺れ、剥がれることはなかった。


「……俺たちが争えば影は笑う。制度の思う壺だ!」


冷の必死の訴えに、一部の候補生たちは視線を逸らし、罵声は次第に小さくなった。中には祈るように両手を組んで震える者もいる。しかし不信の火種は消えず、誰もが互いを警戒する目をやめなかった。広場には、息を殺すような沈黙と荒い呼吸音だけが漂った。


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### ◆ 影の介入


そのとき、広場の端にふと白い影が揺らめいた。人の形をしているようで、次の瞬間には霧のように掻き消えた。ざわめきが広がり、候補生たちの顔色が変わる。誰かが短く悲鳴を上げ、別の候補生は膝から崩れ落ちた。ほんの一瞬、影が首を傾げて笑みを浮かべたように見え、恐怖が一層増幅する。


「……やっぱり、影は俺たちを監視している」冷が呟く。


まつりは端末を操作しながら、「影の出現と赤紙の噂、同期しているかもしれない」と分析する。その冷静な声も群衆の震えを止められなかった。恐怖と不安が再び候補生たちを支配し、広場の空気はさらに重く沈んだ。


---


### ◆ 締め


湊は肩を押さえながら、それでも笑みを浮かべた。「……冷が言うなら、きっと正しい」


仲間たちはそれぞれ強い眼差しを冷に向ける。天音は唇を噛みしめ、さくらは不安を押し殺して頷き、まつりは真剣な眼差しでデータを記録する。群衆の中には、冷の言葉に打たれたように動きを止める者もいたが、視線の奥に潜む疑念は消えていなかった。


広場に冷たい鐘の音が鳴り響き、次の訓練開始が告げられる。鐘の余韻が空気を震わせ、候補生たちの背筋をさらに強張らせる。沈黙の中、自分の鼓動だけがやけに大きく響き、冷の耳を打った。張り詰めた空気の中、冷は譜面を胸に抱えた。母を、仲間を、影から守る。その誓いが再び彼の心に深く刻まれるのだった。


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