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悪役令嬢、大いなる厄災+αに挑む

空が赤く染まり、不吉な気配が街を覆い尽くす中、聖女アメリアを中心に城では大いなる厄災討伐の準備が進められていた。しかしスターチス家では、リリアンが不敵な笑みを浮かべながら父レイモンドと対峙していた。

「お前、まさか本気で行くつもりか?」

レイモンドの眉間には深い皺が刻まれている。

「大いなる厄災なんて相手にしていい相手じゃない。国中の戦力をもってしても厳しいって話だぞ。それを…」

「だから、私がやるんだ。どうせ聖女様に任せてもグダグダするだけだろう?だったら先に倒してしまったほうがいいじゃないか。その方が面白いだろう?」

「悪戯で済む問題じゃないんだ!」

「そうか?だがな、お父様。」

リリアンはくすりと笑った。

「あんなの、ちょっとした魔法で片付くだろう。だから安心して待っていてくれ。きっと街の空もきれいな青に戻るから」

レイモンドは言葉を失い、娘の背中を見送るしかなかった。彼女の手に杖が握られ、軽やかな足取りで家を出ていく。


「まったく…」

レイモンドは額を押さえ、ため息をついた。そしてすぐさまヴィクターを呼びつけた。

「追え、ヴィクター。リリアンを止めてこい。今回ばかりは無茶だ。」

「止める?正直な話、止められると思うか?」

「なら見守るだけでもいい。何かあったときに助けてやってくれ。頼む!」

ヴィクターは腕を組み、一瞬考え込んだが、すぐに目を細めて微笑んだ。

「彼女の実力は理解しているつもりだ。……だが、確かに一人で行かせるのは心配だな。わかった、見守ろう。ただし、手出しは最小限に留める」

レイモンドは渋々ながらも頷いた。

「頼むぞ…」


ヴィクターは剣を手に立ち上がり、静かにリリアンの後を追った。

「全く、とんでもないな…けど、まぁ、あれがお嬢様らしいところでもあるか」

彼は呆れつつも微かに笑い、赤い空を見上げながら旅路に足を踏み出した。


★★★★★

リリアンは王立図書館で大いなる厄災が封じられた魔城について調査を進めていた。膨大な文献の中から、魔城に入るためには「天使」「地獄」「鏡」の三つの紋章が必要だという情報を掴む。

「なるほど、三つ集めると扉が開くってわけか」

リリアンは軽くページを閉じ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「さて、最初の紋章を手に入れに行くとするか」


天使の紋章が眠るとされる古代遺跡に辿り着いたリリアン。朽ち果てた石柱が立ち並び、冷たい空気が漂うその場所は、かつての文明の栄華を静かに物語っていた。遺跡の奥へ進むと、やがて巨大な石扉が現れる。

扉には「紋章の守護者に挑む覚悟がある者だけが進め」と刻まれていた。

「お決まりの展開ってやつだな」

そう呟きながら、リリアンは扉を開ける。 すると、中から巨大な光の存在が現れた。人の形をしているが、その背には羽があり、目は燃えるように輝いている。紋章を守る守護者だった。

リリアンは笑いながら杖を構える。

「じゃあ、始めようか」


守護者は光の刃を具現化させ、空を裂くようなスピードでリリアンに斬りかかる。その一撃を紙一重でかわしたリリアンは、すぐさま反撃に出た。

リリアンが放った魔法は守護者の視界を混乱させ、一瞬の隙を作り出す。しかし守護者もただの装置ではない。すぐに体勢を立て直し、今度は光の雨を降らせて攻撃してきた。

「なかなかやるじゃないか」

リリアンは杖を振りかざし、巨大な魔法陣を展開する。嵐のような魔力が迸り、守護者を包み込んだ。

光と魔力の衝突が遺跡全体を揺るがし、最終的に守護者は膝をつき、力尽きた。


「お疲れ様。良い勝負だったな」

リリアンは勝者の余裕で微笑む。そして、守護者が守っていた台座の上に手を伸ばし、一つ目の紋章――天使の紋章を手に入れた。

「さあ、残り二つ!」

紋章を手に、リリアンは遺跡を後にする。その背には、新たな冒険を楽しむ期待に満ちた笑みが浮かんでいた。


★★★★★


古代遺跡で手に入れた「天使の紋章」に続き、リリアンは魔城に入るために必要な2つ目の紋章、「鏡の紋章」を求めて幽霊屋敷と噂される廃城に向かった。辺りは薄暗く、霧が立ち込め、不気味な空気が漂う。廃城に足を踏み入れると、錆びついた鎧が突如動き出し、リリアンに剣を振り下ろしてきた。

「おっと、びっくりするじゃないか!」

リリアンは軽く避けると、即座に魔法を放ち、鎧をバラバラに吹き飛ばした。だが、進む先々でゴーストが現れ、次々に不気味な笑い声を上げながら襲いかかる。リリアンはゴーストたちに花火や虹色になる霧などのいたずら魔法を仕掛け、逆に彼らを驚かせて笑いながら進む。

「ホラーなんて私に通じるわけないだろう!」

廃城の奥深く、最深部の部屋にたどり着いたリリアンは、中央に置かれた古びた宝箱を見つけた。中に紋章があると察し、蓋を開けようとした瞬間、宝箱が牙をむき出しにして襲いかかってきた。

「うわっ、出た!」

リリアンは驚きながらもすぐに魔法の花火を放ち、モンスターを怯ませた。

「いきなり来るのは反則だろう!」

文句を言いつつ、魔法の矢の雨で宝箱もろとも貫きモンスターを一気に打ち倒す。

モンスターが消え去ると、紋章が輝きを放ちながら現れた。リリアンはそれを拾い上げ、満足げに微笑む。

「ふふ、これで2つ目。次はどこに行けばいいんだったか?」


廃城を後にするリリアン。その姿を物陰からこっそり見守っていたヴィクターは呆れながら呟く。

「またこんな危険な場所で遊ぶなんて……」


リリアンは軽快な足取りで次の目的地を目指していた。


★★★

荒れ地が広がるはずの魔城の山地の一部が、いつの間にか灼熱の地獄の山と化していた。黒い煙が立ち込め、赤く焼けただれた地面からは時折溶岩が吹き出す。その中心で、リリアンは何事もなかったかのように軽い足取りで立っていた。

「ふぅ、こんな感じでいいか。」

リリアンは杖を振り、改造された地形を満足げに見回す。彼女の魔法によって無理やり生み出された地獄の山は、ケルベロスの召喚条件を完璧に満たしていた。

魔法陣を描き、リリアンはケルベロスを召喚する呪文を唱える。次の瞬間、轟音とともに三つの頭を持つ黒い獣が現れた。赤い瞳がぎらぎらと輝き、リリアンを威嚇するように吠える。

「さて、まずはお前だな」

そう言ってリリアンは微笑み、ケルベロスに向かって一筋の雷の魔法を放った。戦いは激しいものだったが、彼女にとっては慣れたものだった。次々と現れるケルベロスたちを討伐し続け、9匹目を倒したところでリリアンは軽く肩を回した。

「そろそろ当たりが来てもいいんじゃないか?」

そう呟きながら10匹目のケルベロスを召喚する。その瞬間、足元に大きな魔法陣が輝き、これまでとは異なる威圧感を放つケルベロスが姿を現した。

「やっと来たか。」

リリアンは笑いながら杖を振るい、魔法でケルベロスを攻撃し始める。火炎弾を放つケルベロスに対して氷の魔法で応戦し、巧みに距離を保ちながらじわじわと追い詰める。やがてケルベロスの動きが鈍り、最後に放った巨大な光の魔法が獣の三つの頭を包み込み、動きを止めた。


倒れたケルベロスの体が光に包まれ、その跡に現れたのは輝く赤い紋章だった。

「これが地獄の紋章か。」

リリアンは紋章を拾い上げ、満足げに微笑んだ。


遠くからこの様子を見ていたヴィクターは、目の前の地形の異変にため息をついた。

「山ひとつ地獄に変えるなんて……本当に規格外だな。」

それでも、彼女が紋章を無事手に入れたことを確認すると、小さく笑みを浮かべた。


★★★

魔城の内部は薄暗く、禍々しい瘴気が漂っていた。天使の紋章、鏡の紋章、地獄の紋章を鍵として開いた巨大な扉を抜けると、目の前には無限に広がる迷宮のような回廊。リリアンはその奥へと足を進めた。

途中、城内は大いなる厄災の影響で活性化した魔物たちの巣窟と化していた。

まず立ちはだかったのは火を噴くドラゴン。灼熱の炎が通路全体を覆い尽くすが、リリアンは冷静に防御魔法で火炎を防ぎ、反撃の雷撃魔法でドラゴンを地に沈めた。

次に現れたのは、大剣を振るうデーモンの群れ。圧倒的な力を誇る彼らもリリアンの狡猾な攻撃の前には歯が立たない。幻惑魔法で動きを封じられた隙に、次々と討伐されていくデーモンたち。

さらに奥へ進むと、猛毒のつたを伸ばして襲いかかる植物型の魔物が現れた。その毒気は周囲の空気をも汚染するほどだが、リリアンは咄嗟に空気清浄の魔法を展開し、浄化魔法で植物魔物を焼き尽くした。

そして、玉座の間にたどり着く直前、最後の試練として強力なアンデッドが現れる。腐敗した肉体ながらも剣術を極めたアンデッドの騎士は、他の魔物とは一線を画す存在だった。リリアンはその剣技に何度も追い詰められながらも、氷結魔法で動きを封じ、爆裂の魔法で骨ごと粉砕した。

ようやく玉座の間の巨大な扉の前にたどり着いたリリアンは、大きく息をつきながら扉を見上げる。その表面には、禍々しい紋様が浮かび上がり、封印の力を感じさせた。

「ここまで来るの、本当に骨が折れるな。さて……大将はどんな姿だろうか」

口元に笑みを浮かべながら、リリアンはゆっくりと扉に手をかけた。



玉座の間の扉は黒く光る魔力で封印されており、その威圧感だけで普通の冒険者なら逃げ出してしまいそうな気配を放っている。リリアンは一歩後ずさりするような気配を見せたが、すぐに笑みを浮かべて自分を奮い立たせた。

「世界中をびっくりさせる、最高の悪戯が待ってるんだから、ここで怯んでる場合じゃないな」

そう呟くと、手を翳して封印を解除する魔法を発動させた。扉がゆっくりと開き、冷たい風が吹き込んできた。それと同時に、玉座の間から禍々しい気配が溢れ出し、空気が一層重くなる。だが、リリアンはそれをものともせず、堂々と足を踏み入れた。

玉座の間は異様な光景だった。天井には黒い雷雲が渦巻き、床には割れ目から赤い光が漏れ出している。そして玉座には、大いなる厄災そのものが鎮座していた。その姿は人の形を模している。黒い霧に包まれたその身体は絶えず変形を繰り返しており、形容しがたい不気味さを持っていた。

「ほう、人間か。この我の眠りを妨げる者が現れるとはな」

大いなる厄災が低く響く声で言い放った。

「すまないな、起こしたのは悪いと思う。だが私と少し遊んでほしいのだ」

そうリリアンは軽口を叩きながら杖を構えた。その瞳には怯えの色はなく、むしろどこか楽しげな輝きが宿っている。

大いなる厄災は嘲るように笑った。

「愚かなる人間よ。この我を相手に遊びとは、身の程知らずにもほどがある。貴様の存在ごと世界から消し去ってくれる!」

その言葉と同時に、玉座の間全体が激しい振動に見舞われた。黒い霧が大いなる厄災から放たれ、リリアンを取り囲むように広がっていく。

「おお、怖い怖い」

リリアンは笑みを浮かべたまま、強大な魔力を練り上げる。その姿はまるでこの異常な空間をも自分の遊び場にしてしまうかのような堂々としたものだった。


荒れ狂う嵐のような戦場で、大いなる厄災とリリアンの激闘が繰り広げられていた。空は赤黒く染まり、大地は裂け、全てを飲み込むほどの力がぶつかり合う。

大いなる厄災の炎の魔法が空を焼き、巨大な火柱となってリリアンに襲いかかる。しかし、リリアンは軽くステップを踏むように回避し、雷の魔法を天から落とす。

「これくらいの威力じゃないと遊びにならないな!」

彼女の明るい声が響き、雷は大いなる厄災を焼きつけた。

次に、氷の魔法が空気を凍らせ、無数の氷の刃となって襲いかかる。その冷気は全てを凍結させるほどの威力を誇るが、リリアンは腕を振り上げ、聖なる光の壁を展開する。

「そんなの、私には効かないぞ!」

そう笑いながら氷を砕き、光の矢を放った。

さらに、大いなる厄災は暗黒の魔法を操り、影の触手を無数に伸ばしてリリアンを捕えようとする。その邪悪な力によって空間そのものが歪んだ。

「さすがにちょっと手ごわいな。だが…」

リリアンは不敵な笑みを浮かべ、杖を振るった。彼女の周囲に雷の魔法のエネルギーが集まり、激しい光とともに轟音を立てて大いなる厄災に放たれる。

「ふん、こんなものか?」

厄災はその雷撃を炎の壁で遮り、同時に氷の嵐を巻き起こした。氷の刃がリリアンを襲うが、彼女は軽やかに回避し、聖なる魔法の光を放つ。

「聖なる光よ、闇を打ち払え!」

リリアンの魔法が放たれるたびに厄災の闇の触手が焼かれ、消滅していく。

「小癪な小娘め!」

怒り狂った厄災が両腕を広げ、巨大な火柱をリリアンに向けて放った。リリアンは空中に転移魔法で逃れ、逆に雷の槍を放つ。

「そんな大味な攻撃じゃ当たらないぞ!」

雷の槍が厄災の片腕を貫き、続けざまに聖なる光の魔法で追撃する。厄災の体に焼け焦げた跡が刻まれ、凶悪な咆哮が響き渡った。

「貴様がどれほど抗おうと、我が力は無限だ!」

しかし、リリアンは怯むことなく、さらに攻撃の手を強める。

「無限って言葉、大好きだぞ。でも、こっちだって無限に悪戯したい気分なんだ!」

彼女の両手に雷と聖なる光が集まり、眩い光球が形成される。

「これでチェックメイトだ!」

リリアンは光球を大いなる厄災に投げつけた。それは空を裂き、地を揺るがし、直撃の瞬間、暗闇を吹き飛ばすほどの輝きを放った。


魔城の玉座の間で、リリアンと大いなる厄災との激戦は最高潮に達していた。追い詰められた大いなる厄災が放った咆哮は、空間そのものを揺るがす。重々しい音を立てて魔城の壁がひび割れ、天井から瓦礫が落ちる中、大いなる厄災の姿が変容を遂げていった。

「ほう、それが本性か…!」

リリアンの口から感嘆のような呟きが漏れる。

巨大な黒いドラゴンの姿へと変化した大いなる厄災。その目は深淵そのものを映しているかのように黒く、鋭い爪と牙は触れるものすべてを粉砕するだろうと予感させる。ドラゴンは暗黒のブレスを吐き出し、宙を覆い尽くす闇の波がリリアンに襲いかかる。

「この程度で怯む私じゃない!」

リリアンは即座に聖なる魔法を発動させた。眩い光の盾が闇の波を受け止め、激しい光と闇のせめぎ合いが室内を彩った。

影のドラゴンは次に巨体を活かした爪による攻撃を繰り出す。その一撃一撃が床を砕き、衝撃波を生む。しかしリリアンは魔法で軽やかに身をかわしながら、雷の魔法で反撃を試みた。

「《サンダーランス》!」

稲妻がドラゴンの鱗に直撃し、火花が散る。だが、ドラゴンの鱗は強固で、雷撃をものともしない。逆に牙を剥いて突進してくるドラゴンの攻撃に、リリアンは危うく間一髪で回避する。

「このままじゃ終わらない!」

リリアンは手のひらを高く掲げ、聖なる力を集中させる。

「浄化の光、彼方まで届け!」

発動したのは彼女の得意とする聖なる魔法。純白の光が玉座の間を満たし、影のドラゴンの体を包み込むように焼き尽くす。ドラゴンは苦しげに叫び、周囲に激しい衝撃波を放つ。瓦礫が舞い、闇が光に押し返されていく。

しかし、影のドラゴンは最後の力を振り絞り、強力な暗黒のブレスを再び放ってきた。そのブレスは玉座の間を吹き飛ばし、すべてを飲み込もうとする絶望の力。

「これで終わりにしてやろう!」

リリアンは両手を前に突き出し、全身の魔力を集中させる。

「《聖光の審判》!」

巨大な光の槍が形成され、暗黒のブレスを突き破る勢いでドラゴンの心臓めがけて放たれる。光の槍は影のドラゴンを貫き、その巨体を消滅させるように浄化していった。


やがて、光と闇が収まり、静寂が訪れる。リリアンは荒い息を吐きながら立ち上がり、かすかな微笑みを浮かべた。


「ふぅ…これで大いなる厄災も終わりだな。聖女様の反応が楽しみだ。」


★★★

広大な空間には戦いの余韻が漂い、リリアンはその中央で静かに佇んでいた。消え去った厄災の力が生んだ重々しい空気を打ち破るように、玉座の間の扉が勢いよく開く。そこには、怒りに顔を歪めた聖女アメリアの姿があった。

「リリアン!どこまでも私の手柄を横取りする卑怯者!」

アメリアはヒステリックな声で叫びながらリリアンに歩み寄る。その声は広間に響き渡り、静寂を破壊する。

リリアンはアメリアを一瞥し、軽く肩をすくめて微笑んだ。

「聖女様はちやほやされるのに忙しかったんじゃないのか?」

その冷ややかな口調とともに、リリアンの声には少しも後悔の色がない。むしろ愉快そうですらあった。

アメリアはその言葉に顔を真っ赤に染め、悔しさを隠せない。

「あんたなんかに…あんたなんかに聖女の座を汚されてたまるものですか!大いなる厄災を倒したのはこの私、聖女アメリアよ!今回も私の手柄にしてみせるわ!」

「それでいいならどうぞご自由に」

リリアンは肩を竦めるだけだった。その無関心な態度がアメリアの怒りにさらに火を注ぐ。

アメリアは勢いよく背を向け、玉座の間を出て行った。その後ろ姿にリリアンは軽く手を振りながら笑う。

「今までも私の手柄をせっせと自分のものにしてきただろ?今更何をそんなに怒る必要があるのかね、聖女様。」


物陰からそのやりとりを見ていたヴィクターは、額に手を当てて深い溜息をついた。

「本当にお嬢様はすべて彼女の手柄として譲ってしまう気なのか…?」

だがリリアンの飄々とした態度を思い出し、彼女が最初から何も求めていないことを改めて悟る。そんな彼女を理解しつつも、ヴィクターはまだ少し心配そうに呟いた。

「まぁ、あの聖女様がどう動こうと、お嬢様には関係ないってことなんだろうな。」


★★★



大いなる厄災が消え去り、空は雲一つない晴天が広がっていた。都への帰路を進むアメリアは、心の中で煮えたぎる怒りを抑えきれなかった。

「何なのよ、ラウル様ってば!私に見向きもしないなんて!」

彼女の完璧な笑顔の下に隠された本性が、その言葉に滲み出ていた。王都の第一王子アルバート、騎士団長の息子ルーカス、さらには宮廷魔道士の息子エドガー、きっとリリアンの従兄フリードリヒ――彼らの心を完全に手中に収めた自負があったアメリアにとって、ラウルの無関心は屈辱以外の何物でもなかった。

「まあいいわ。大いなる厄災を倒した『英雄』はこの私。皆、私の美しさと功績にひれ伏すしかないのよ。この功績があれば、ラウル王子だって、魅了の香水なんかなくたって私に振り向くはず」

そう自分を励まし、彼女は猫のように目を細めて微笑んだ。


都に着いたアメリアは、すぐさま王城へと向かった。第一王子アルバートが玉座の間で待っていた。

「アメリア、戻ってきたのか。無事でよかった!」

アルバートは満面の笑みで彼女を迎えた。アメリアは恥じらいを装いつつも、ゆっくりと頭を下げた。

「すべてはアルバート様とこの国のためです。そしてついに、大いなる厄災を打ち倒しました」

その言葉に玉座の間にいた全員が驚愕し、歓声が上がった。アルバートは彼女の手を取り、感激の表情を浮かべた。

「君は本当にすごい女性だ。僕は――」

その言葉に続くように、アルバートは決意を込めて宣言した。

「君と結婚したい」

アメリアは目を丸くして驚くふりをした後、照れたように俯いた。

「アルバート様……それほどまでに思ってくださるなんて、私にはもったいないお言葉です」

しかしその内心では、勝利の笑みを浮かべていた。アルバートが側近たちを退け、二人だけになると、彼女は近づいてその胸に頬を寄せた。

「私が命を懸けて守りたいのはアルバート様の未来です」

「アメリア……」

アルバートは彼女の肩を引き寄せ、熱い眼差しを向けた。

二人はその場で抱き合い、深く見つめ合う。

アルバートは彼女の美しい黒髪を撫で、ささやくように言った。

「君さえいれば、どんな困難も乗り越えられる」

「アルバート様……私も同じ気持ちです」

そのままアメリアはアルバートに優しく微笑みかける。彼の心が完全に自分に向いていると確信したアメリアは、この国の未来が自分の手の中にあるような気持ちを味わいながら、彼に寄り添っていた。


この光景を偶然聞いてしまった数人の侍女たちは、何とも言えない複雑な表情で退室する。

しかし、部屋を出る直前、アメリアの視線が彼女たちに向けられた。その目は一瞬だけ氷のように冷たかった。


★★★

豪華絢爛な城内のホールでは、聖女アメリアを称えるための壮大なパーティが行われていた。金と銀の装飾がきらめく広間には、各国から集まった貴族や王族が華やかな衣装に身を包み、宝石を散りばめた豪華な絹のドレスを身に纏ったアメリアの英雄譚に耳を傾けていた。

「私が大いなる厄災を倒したとき、炎の嵐が渦巻いていたのです。その中を進み、最後の一撃を放ったとき、大いなる厄災の悲鳴が響き渡り、塵となって消えたのです!」

豪奢なドレスに身を包んだアメリアが満面の笑みを浮かべながら語ると、会場は感嘆の声で満たされた。第一王子アルバートもまた彼女を称賛し、隣で微笑みを浮かべるアメリアに拍手を送る。

その様子を見て、リリアンはこれまで通りの嘘話を楽しむつもりだった。

「またあんな話をして……聖女様は本当に愉快だな」

そう思いながら肩を震わせていたが、その時、場の空気が一変した。

城内の大広間には、聖女アメリアが涙ながらに語る声が響く。彼女はこれまでの「活躍」を誇らしげに語る中で、リリアンについて触れた。

「私は…民を救うため、悪しき魔物たちを倒すため、必死でした。でも、リリアンが現れて私の邪魔ばかりするんです!彼女のせいで、どれだけ苦労したことか…!」

アメリアは涙を浮かべながら訴えた。その言葉を聞いていた第一王子アルバートの表情は険しい。

「聖女の務めを妨害したとは許せん!」

厳しい声でそう告げられると、広間には緊張が走った。

アルバートが堂々とリリアンの前に進み出て、周囲がざわめく中、冷たい声で言い放つ。

「リリアン、君との婚約は破棄する!聖女の邪魔をして贖罪の姿勢も見せない者を王妃にするわけにはいかない。僕はアメリアを未来の王妃に迎え入れると決めた。彼女は聖女としての強さ、美しさ、健気さを兼ね備えた理想の女性だ。それに比べて君は…もう僕には必要ない。」

その言葉に会場は静まり返り、注目がリリアンに集まる。アルバートは続ける。

「君と別れることができて本当に清々したよ。これで僕の未来は輝かしいものになる。」

リリアンはアルバートの顔をじっと見つめた後、淡々と口を開く。

「つまらない男だな。」

その一言は、広間全体に響き渡った。

リリアンは少し笑いながら肩をすくめる。

「誰を選ぶかはあなたの自由だ。だが、これだけは覚えておけ。私は最初からあなたに期待なんてしていなかったぞ。」

その言葉にアルバートは驚き、周囲の貴族たちからも戸惑いの視線が向けられる。アメリアは勝ち誇ったような笑みを浮かべていたが、リリアンの堂々とした態度にどこか不安を感じたようだった。

「どこまでもふざけた奴め!君には国外追放を命じる!早くこの国から出ていけ!」


★★★


その時、ずっと沈黙を守っていたヴィクターが前に出た。彼は鋭い眼差しでアルバートを見据えると、深い声で言葉を発した。

「待ってください、アルバート様。今までサキュバスもダークエルフの女王も、九尾の雌狐も、そして“大いなる厄災”さえも討ち倒したのはリリアン嬢です。それは俺がこの目で見てきました。すべて本当のことです!」

広間がざわめいた。嘘だと否定しようとする声も上がりかけたが、そこにリリアンの父、レイモンドが静かに歩み出た。

「私はヴィクターを雇い、すべてを見届けさせた。その彼が言うのだ、これ以上の証拠はないだろう。」

アルバートはその言葉を聞いて眉をひそめ、視線をアメリアに向けた。そのアメリアは驚きと焦りに顔を青ざめさせ、何かを言い返そうとしたが言葉が出ない。リリアンは広間の端で腕を組み、笑みを浮かべてその様子を眺めている。

「さて、アルバート。国外追放する前に、せめて証拠くらい確認してみたらどうだね?聖女様の輝かしいご活躍も含めて。」

その挑発的な言葉にアルバートは顔を赤くしたが、周囲の目が次第にアメリアに向き始めたことで、彼もそのまま口を閉ざすしかなかった。


そんな中、ラウル王子が招かれていた民を連れて会場に現れた。

ラウルは堂々と場内を歩み、アメリアを真っ直ぐに見据えると、こう告げた。

「聖女様の活躍を讃えていると聞いて参りましたが、どうも違う話を耳にしましてね。我が国の民はリリアン殿のおかげで救われたと言っています。聖女様がしたのは、彼女の功績を横取りし、何の助けにもならずに去っただけだとか。」

会場はざわめき立ち、民の証言をラウルが代弁するたびに、アメリアの顔は青ざめていく。

「そ、それは誤解です! ラウル様、そんな話を信じないでください。その者たちはきっとリリアンの差し金で――」

涙目になりながら懸命に弁明するアメリア。しかし、ラウルは一歩も引かない。

「それにアルバート殿、あなたがリリアン殿と婚約を破棄したと聞いて、私にとっては好都合です。リリアン殿ほどの才女を手放すとは実に愚かな話だ。もしよければ、私がリリアン殿を妻に迎えたいと思っています。」

その言葉を聞いたアメリアは顔を真っ赤にし、慌ててラウルに向き直った。

「ラウル様! そんなこと仰らないでください! 私の方が王子様にふさわしいですわ! 私は、私は…!」

ラウルはアメリアを軽く制しながら、冷静に微笑んだ。

「それならば、君の魅力を証明してみるといい。だが、私はリリアンのように行動で示せる者を選ぶ。」


ラウルの発言を皮切りに、地方の貴族たちの証言が相次ぎ、会場の空気は次第に変わり始めていた。

サキュバスに支配されていた地方の貴族は力強く言う。

「リリアン様がサキュバスを討伐してくださったおかげで、我々の町は救われました!」

さらに、ダークエルフから解放された地方の貴族も声を上げた。

「ダークエルフの女王を倒したのは、聖女様ではなくリリアン様です! 彼女がいなければ、我々は今もなお恐怖に震えていたでしょう!」

アメリアの笑顔が引きつり、会場内のざわめきが一層広がる。アルバートや参列者たちは、彼女の英雄譚に疑問を抱き始めた。

「本当にアメリア様がすべての魔物を退治したのでしょうか……?」

ざわつく声に業を煮やしたアメリアは声を荒げた。

「馬鹿なことを! そんな噂を広めるなんて、リリアンに脅されているに違いありません! 彼女が悪事を働いているのです!」

しかしリリアンは言い返さず、片眉を上げて静かに笑みを浮かべるだけだった。そして、アメリアを真っ直ぐに見据えて軽く肩をすくめる。

「そうかそうか。もしも私が脅したと言ったらどうする?」

その挑発的な言葉に会場が凍りつき、アメリアは怒りのあまり言葉を詰まらせる。そんな中、ラウルが一歩前に出た。

「リリアンはそんな人間ではありません。彼女は民を守るために戦っただけです。その勇気を私は誰よりも信じています! 」

さらに、リリアンの父も発言する。

「確かにリリアンは悪戯好きで困らせられることも多い。だが、彼女は人を脅すようなことはしない」

会場の視線が一気にリリアンに集まるが、彼女はただ肩をすくめ、困ったような笑みを浮かべるだけだった。その沈黙の余裕が、かえって人々に真実を悟らせる結果となる。


王は険しい表情でアメリアを見つめ、その口から疑問を投げかけた。

「聖女よ、本当にお一人で大いなる厄災を討たれたのか?スターチス家の娘リリアンが、実際に討伐を成し遂げたとの証言がある。国の信用に関わることだ、真実を語っていただこう。」

アメリアは肩を震わせ、わざとらしい悲壮感を漂わせながら声を張り上げた。

「王様、どうして私の言葉を疑うのですか?確かに、私は一人旅で証人はいませんでしたが、それは聖女としての使命を全うするためです。リリアンこそ、自らの名声を高めるために周囲の者たちに嘘を吹き込んでいるのです!」

しかし、王の表情は変わらず冷静だった。

「聖女よ、言葉を慎め。スターチス家はこの国の英雄の血を継ぐ家柄だ。証人もないお前の話をすべて信じるのは難しい。もしリリアンの手柄を否定するのなら、それを証明するものを示さねばなるまい。」

アメリアの顔が険しくなり、声を荒げる。

「それならば、私の言葉を信じないというのですか?私は聖女なのですよ!リリアンのような勝手な振る舞いをする娘とは違います!」

だが、王は毅然として答えた。

「聖女といえども、この国の未来を左右する重要な事案だ。感情に訴えるだけでは説得力に欠ける。証明がなければ、議論は平行線だ。」

その場の空気が凍りつくような静寂に包まれる中、アメリアは苛立ちを隠せず、しかしどうにも反論できないでいた。

一方で、集まった貴族たちは、内心で王の冷静な判断を称賛しつつも、聖女の発言に疑問を抱き始めていた。


心中で王は確信した。リリアンが討伐を成し遂げた可能性は高いと。そして聖女アメリアの言動が、信頼を失う兆しを見せていることを見逃さなかった。


王宮の広間は緊迫した空気に包まれていた。聖女アメリアの嘘が次第に露見し、彼女は涙ながらにアルバートに助けを求めていた。

「アルバート様、私は本当に大いなる厄災を倒したのです!」

アメリアの涙ながらの訴えにアルバートは怒りを露わにし、王に向かって声を張り上げた。

「父上、アメリアを疑うなんてとんでもないことです! 彼女の言葉を信じるべきです!」

しかし、王は冷静なままで首を横に振った。

「アルバート、信頼は言葉だけでは築けぬ。これほどの事態になれば、証拠が必要だ。真実を明らかにするため、試練を課す。」

謁見の間に集う者たちがざわめく中、王は続けた。

「王国の東にある王家の山にはドラゴンが住んでいる。その鱗を持ち帰った者の言葉を信じよう。」

「父上!」

アルバートは必死に抗議する。

「そんな危険なことをアメリアにさせるなんて! 彼女は聖女なのですよ!」

王は息子の訴えを一蹴した。

「真に大いなる厄災を討ち倒した聖女であるならば造作もないことのはずだ。聖女たる力を見せてみせよ。」

一方、リリアンはその話を聞き、笑みを浮かべて軽く手を叩いた。

「ドラゴンの鱗か。それは面白そうだ。私もやらせてもらおうか。」


一方で、アメリアは顔を青ざめさせて震えていた。試練の内容が明らかになるにつれ、彼女の表情には焦りが浮かび始めていた。


★★★

険しい王家の山道を進む一行。空気が薄くなるにつれ、険しい傾斜が続く中、リリアンは軽やかに先頭を進む。後方では、アメリアがアルバートにしがみつきながら「ドラゴンなんて怖いわ……」と震え声で泣きじゃくっている。

「大丈夫だよ、アメリア。君の力ならドラゴンなんて造作もないはずさ」

そう優しく微笑むアルバート。しかし、進むたびにアメリアの足元はおぼつかなくなり、彼の肩にさらに体重をかけてしまう。

「おいおい、少しは自分で歩けよ」とヴィクターが後方からぼやくも、アメリアは泣き顔で「だって無理なの! 怖くて足がすくむのよ!」と返す。

「いいコンビだな、聖女様と王子様。でもこんな山道でイチャつくなんて見上げた度胸だ」

リリアンは小声でつぶやき、軽く肩をすくめる。その様子にヴィクターは「本当に頭が痛い……」とため息をつき、アメリアの泣き声が響く山道を黙々と登るのだった。


一行が竜の巣にたどり着いたとき、そこには巨大で凶暴そうなドラゴンがうずくまっていた。赤黒い鱗が光を反射し、その眼には敵意が宿っている。近づく者すべてを焼き尽くさんとする威圧感を漂わせていた。

そこにアメリアが現れ、周囲にいる王国の騎士たちを背に勇ましく進み出る。

「この聖なる力で、ドラゴンを討つ!」

アメリアは高らかに叫び、手にした杖を振り上げると聖なる魔法をドラゴンに向けて放った。しかし、彼女の放つ光はドラゴンの分厚い鱗に弾かれ、かすり傷ひとつつけることはできなかった。

「え!?」

アメリアの声には焦りが混じっている。彼女は再び魔法を唱えたが、同じ結果だった。そもそも彼女は近頃、宮廷での生活や恋愛に夢中になり、魔法の訓練を怠っていた。その実力不足が露呈し、ドラゴンにとって彼女の攻撃はただの風にも等しかったのだ。

アメリアは後ずさりし、アルバートの腕にしがみついた。

「こんな怖いの、やっぱり無理…! アルバート様、私を守って…!」

「アメリア、大丈夫だ。僕が君を守る。」

アルバートは胸を張ってアメリアを励まそうとしたが、その顔には明らかに汗が滲んでいた。


その様子を見たヴィクターは小さく溜息をつき、呆れた表情を浮かべた。

「こんなところでイチャイチャしてる場合か…。真剣にドラゴンに向き合わないと命がいくつあっても足りないんだが。」


一方で、リリアンはドラゴンを見上げて興味深そうに口元を歪めた。

「ほぉ…なかなか威厳のあるお方だな。さて、どうやって遊んであげようか。」

その言葉にドラゴンは咆哮で応じ、熱風が周囲を吹き荒れた。アメリアはその場にへたり込み、アルバートが彼女を抱きかかえるようにして支える。

「お嬢様、本当に戦うつもりか?」

ヴィクターが低い声で問いかける。

「もちろんだ。ここまで来たんだ、少しぐらい遊んでもらわないとつまらない。」

そう言うと、リリアンは魔法の杖を軽く振り上げ、雷の魔法陣を空中に描き始めた。

「さあ、始めようか。暴れる準備はできてるんだろう?」


空を裂くような雷鳴が轟き、リリアンが放った雷の魔法が巨大なドラゴンの鱗を焼き焦がした。暴れ狂うドラゴンの咆哮が辺りに響き渡るが、リリアンは一歩も引かない。

雷の魔法の閃光が次々とドラゴンの身体を貫き、やがてその動きは鈍っていった。

「そろそろ終わりにしようか」

リリアンが静かに呟き、手を天にかざす。空が一瞬で輝きを帯び、眩い光がリリアンの手元に収束していく。それは聖女アメリアが使う聖なる魔法と同じ技だったが、比べ物にならないほどの威力だった。

「これで終わりだ!」

リリアンが放った魔法の光は真っ直ぐにドラゴンを貫き、その巨大な身体を地に沈めた。地響きとともにドラゴンは完全に動かなくなり、静寂が訪れた。


周囲にいた兵士たちは目を見開き、ただ呆然とその光景を見つめていた。一人がぽつりと呟く。

「これがリリアン様の本当の実力ってやつか……」

「確かに、あれを見せられたら認めざるを得ないな」

別の兵士がそう続ける。


しかし、アルバートは険しい顔で反論した。

「アメリアが与えた傷によってドラゴンは弱っていたのだ。だからこそ倒せたんだ。これも全て聖女の力によるものだ!」

その言葉に兵士たちは顔を見合わせたが、誰も納得した様子ではなかった。陰から様子を見守っていたヴィクターが軽くため息をつき、皮肉げに言う。

「それは無理があるな、アルバート殿下。聖女様のチンケな魔法で弱っていたから倒せたなんて言い訳、お嬢様の魔法を見た後じゃ誰も信じないだろう」


アルバートはヴィクターを睨みつけたが、何も言い返せなかった。

その一方で、リリアンは兵士たちの視線を浴びながら満足そうに肩をすくめ、どこか愉快そうに笑っていた。


★★★


城の大広間。リリアンが龍の鱗を王に差し出し、これまでの功績を物語るかのように堂々と立っている。その横にはヴィクターが控えており、リリアンの力を見守るような視線を送っている。

対する聖女アメリアは泣き崩れ、震える声で言い訳を続ける。

「私は…その、リリアンが邪魔をするから…!」

しかし、王は冷ややかな目で彼女を見下ろした。

「ならば、次は誰にも邪魔されぬように一人で行って証拠を持ち帰るがよい。王家の山に棲む魔物を討伐し、その証を持参するのだ」

アメリアは青ざめた顔で何も言えず、ただ泣き続けるだけだった。そんな彼女に対し、アルバートが苛立ちを隠せない声で割り込む。

「すべてリリアンが横取りしたのだ! 聖女の功績を踏みにじったのはあの女だ!」

しかし、その瞬間、ヴィクターが前に一歩進み出た。

「いい加減にしてください、アルバート殿下。リリアンがどれほどの魔法を駆使してきたのか、俺はすべて見てきました。そして、兵士たちもその目で見ています」

兵士たちも口々に証言を始めた。

「あの雷の魔法はまさに神業だ」

「今までの魔物を倒したのもリリアン様だろうな」

騒然とする広間。王は静かに手を上げ、全員を黙らせた。そして、アメリアを厳しい目で見据える。

「アメリア。これまでの手柄がすべてリリアンのものであることは明白だ。お前は王国に嘘をついた。その罪は決して軽くない」

アメリアの顔は真っ青になり、膝をついて懇願し始めた。

「陛下、どうかお慈悲を…!」

王は冷酷な声で言い渡した。

「お前を正式な聖女として迎えていたら、王国は多くの危機を乗り越えられず、危うく滅びるところだった。罰として、聖女の称号を剥奪し、修道院で平民として生涯を過ごすがよい。そして、お前の財産はすべて没収する」

広間に重苦しい沈黙が訪れる中、リリアンは肩を震わせて笑いを堪えながら、アメリアに向けて一言。

「やっと嘘がバレたな、聖女様。でも修道院生活も悪くないんじゃないか? 真の信仰を学ぶいい機会だと思うぞ」

ヴィクターはそんなリリアンを見て、ため息をつきながらもわずかに笑みを浮かべた。

「あんたも本当に容赦がないな」


罰を言い渡された聖女アメリアは涙を浮かべながら、最後の足掻きとして声を震わせた。

「ラウル様、私が本当に愛しているのはあなたです!どうか、お傍に……」

その言葉に謁見の間にいた人々は驚き、ざわめきが広がる。しかしラウルは冷ややかな目を向け、静かに言い放った。

「偽りの聖女など、我が王国には必要ない。君の言葉も心も、もう誰も信じはしない。」

その一言にアメリアは愕然とし、その場に崩れ落ちた。震える肩を押さえながら涙を流し、「そんな……ラウル様……」と声を漏らすが、誰も手を差し伸べる者はいない。 彼女の取り巻きと化したエドガーやルーカスでさえアメリアに手を差し伸べることはしなかった。


やがてアメリアは突然立ち上がり、泣きながらその場を走り去る。

宮廷を後にした彼女を追うように、アルバートが焦った様子でその後を追いかける。

「アメリア! 待ってくれ!」

二人の姿が消えた後、謁見の間には気まずい沈黙が流れた。


一方で、リリアンはそんな空気をまるで気にせず、いつものように微笑んでいる。ラウルはリリアンに一歩近づき、真剣な目で改めて言葉を紡いだ。

「リリアン、これからも私の隣にいてほしい。君こそが真の聖女だ。どうか、私と結婚してほしい。」

その真剣な表情と強い想いに一瞬たじろぐリリアンだったが、すぐにいつもの調子で肩をすくめた。

「気が早すぎるぞ。まずは友人から始めるべきじゃないか?」

その答えに場の空気は和み、ラウルは少し戸惑いながらも頷いた。

「そうだな……けれど、私は必ず君を嫁に迎える。その時まで、君の隣を目指して歩み続けるよ。」

リリアンはそんな彼をからかうように笑みを浮かべながらも、その決意を否定することはしなかった。


広間の片隅で落ち着かない様子のルーカス、エドガー、そしてフリードリヒがリリアンの前に立った。三人の顔には戸惑いと後悔の色が混じり、特にルーカスは何度も言葉を探すように視線を泳がせていた。

「リリアン…いや、その…今までの俺たちの態度、本当に申し訳なかった…」

ルーカスが一歩前に出て、やっとの思いで言葉を紡いだ。

「聖女様の言うことを信じすぎて…お前を不当に責めてしまった。今になってわかったんだ、お前がしてきたことの全てが本当だったって。そして、聖女様が…その…」

エドガーが続けたが、最後の部分は言葉が詰まり、恥ずかしそうに視線を逸らした。

フリードリヒは静かに頭を下げた。

「俺たちの偏見で君に酷い仕打ちをしてしまった。心から謝罪する。許してほしい…」

彼らの真剣な態度に、リリアンはしばらく彼らを見つめていた。しかし、次の瞬間、彼女の口元がゆるみ、大きく声を上げて笑い出した。

「なぜ謝るんだ?あなたたちの姿は滑稽で、むしろ面白かったぞ!」

三人は一瞬きょとんとしたが、すぐに困惑の色を浮かべた。

「俺たちは真剣に反省してるんだぞ…!」

ルーカスがそう食い下がるが、リリアンはなおも笑いながら言った。

「そうだろうが、私にはあなたたちが聖女の言葉に踊らされて右往左往する姿が、まるで見世物のようでな。それに、私はあなたたちに恨みも何も抱いていない。だから、もう気にするな」

リリアンの予想外の反応に、三人は何とも言えない表情を浮かべたが、次第に肩の力が抜けていくのを感じた。彼女の懐の深さと豪胆さに感嘆しつつ、三人は胸の奥に少しの安堵を覚えた。

「…それでも、俺たちが滑稽だったというのは少し傷つくな」

ルーカスがそう苦笑し、エドガーとフリードリヒもようやく微笑んだ。

リリアンは肩をすくめて言う。

「あなたたちが反省するなら、それでいいさ。ただ、次はもう少し自分の目で物事を見極めることだな」


★★★


後日のこと。

城の謁見の間に、国中の貴族たちがリリアンの功績を称えるために集まっていた。王は玉座から立ち上がり、威厳ある声で語り始めた。

「リリアン・スターチス。お前の力がなければ、我が王国は大いなる厄災の手によって滅びていた。汝こそ聖女と呼ぶにふさわしい。」

その瞬間、玉座の間に薄い霧が立ち込めた。微かな甘い香りが漂い、王が眉をしかめたかと思うと、その髪が虹色に変わっていた。場内は一瞬の静寂に包まれた後、どっと笑い声が広がる。

リリアンは得意げに腰に手を当て、王の変わり果てた姿を見て笑い出した。

「聖女なんて柄じゃないさ。私は悪役令嬢。それで十分だ。」

傍らに控えていたレイモンドは顔を覆い、ため息をついた。

「リリアン、少しは慎め。王にまでいたずらをするとは……」

一方でヴィクターはくすくすと笑いながら呟いた。

「お嬢様らしいじゃないか。普通の聖女よりずっと個性的で、面白い。」

王は自分の髪を鏡に映して確認し、口元を引き締めて深く息をついた。だが怒る気配はなく、どこか諦めたように微笑んだ。

「ふむ、リリアンよ。聖女の称号は望まぬとしても、その力をこれからも王国のために使ってくれるな?」

リリアンは肩をすくめ、ふわりとスカートを翻しながら言った。

「気が向いたらな。私は私のやりたいようにやるだけだ。」

王は再びため息をつきながら、どこか満足げに頷いた。

「まあ、それでもよいだろう。お前が動けば、誰にも真似できぬ偉業を成し遂げる。それが分かっただけでも十分だ。」


玉座の間から立ち去るリリアンを見送りながら、彼女の奇妙な行動に振り回される国が、これからも平和であり続けるのだろうと誰もが感じた。


強くて変わり者で美形じゃないヒロインと、自業自得で破滅する自称聖女が好きなのです。

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