悪役令嬢、エルフに挑む
スターチス家の一室は荘厳で静寂に包まれていた。その中央、家主であるリリアンの父、レイモンド・スターチスが困惑した表情で椅子に腰かけていた。
対面にはヴィクターが立っている。その背筋はぴんと伸びており、威圧的な空間に臆する様子もない。
「……まただ、ヴィクター。またあの娘は勝手に出かけたよ。」
額に手を当てたレイモンドがため息をつく。その表情には、心配と諦めが半々に混じっている。
「聖女アメリアが退治に向かうと宣言した魔物を、先回りして倒すと言っていた。だが、あの性格を無理に押さえつけても逆効果だろう……。」
レイモンドは視線をヴィクターに向けた。
「君に再び頼みたい。リリアンを見守ってくれ。前回と同じ条件だ。頼めるのは君だけだよ。」
ヴィクターはレイモンドの言葉を聞くと、一瞬思案するように目を細めた後、淡々と答えた。
「了解した。ただし、彼女の魔力量と腕前は、普通の人間の手に余るほどだ。俺が介入する必要はそうそうないだろう。ただ見守るのが仕事になる。」
「そうか……頼む。」
レイモンドが頭を下げるのを見て、ヴィクターは軽く頷き、静かにその場を後にした。
廊下を歩きながら、彼は心の中で苦笑する。
(また始まったか。手を焼かされるのは間違いないが……まあ、彼女の悪戯がどこまで続くか見届けるのも悪くない。)
そうつぶやきながら、ヴィクターはリリアンの後を追い、再び旅へと向かう準備を始めたのだった。
★★★★★
ある町に到着したリリアンは、薄暮に染まる広場で村人たちの訴えを聞いていた。疲れた様子の村長が、胸の前で手を組みながら説明する。
「お願いです、旅人様。街を守る聖なる火が弱まりつつあります。この火が消えてしまえば、私たちの防護の魔法も失われてしまうのです……。」
リリアンは軽く笑みを浮かべて、町長に頷くと、すっと後ろに歩を取った。
「心配いらない。ちょっと待っているといい。」
リリアンは町の人々から頼まれた「聖なる火」を手に入れるために大灯台を訪れた。灯台はそびえ立つように空へと伸び、頂上までの長い螺旋階段が足元に広がっている。しかし、彼女はちらりとその階段を一瞥しただけで、口元に愉快そうな笑みを浮かべた。
「普通に登るのも面倒だし、少し遊んでみようか。」
彼女は指先に魔力を集中させ、足元の空間を緻密に制御する。瞬く間に周囲が歪み、転移魔法が発動した。
次の瞬間、彼女は灯台の頂上に立っていた。高く冷たい風が吹き抜け、眼下には広大な街並みと海が広がっている。灯台の頂上に据えられた「聖なる火」は美しい光を放ちながら揺らめいていた。
「これだな、聖なる火。」
彼女は両手をかざし、火の精霊に語りかけるように静かに唱えた。炎が優雅に輝きを増し、まるで彼女の呼びかけに応じるかのようにその輝きを取り戻した。そして、その火ランタンへと移し、満足そうに微笑む。
再び町に戻ると、驚きと困惑の表情を浮かべた町人たちが固まっていた。リリアンは静かに前に歩み寄り、ランタンを村長に差し出した。
「聖なる火を持ってきたぞ。」
「な、なんと……もう戻られたのですか……?」
「灯台の頂上へ行くのは長い道のりだと聞いていましたが、一瞬で……」
町人たちが口々に驚きの声をあげる中、リリアンは肩をすくめ、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ちょっと近道を使っただけだ。これで安心して過ごせるな。」
町人たちが歓声を上げ感謝の言葉を口にする中、彼女の背後で隠れて見守っていたヴィクターは、心の中で呆れつつも微かな笑みを浮かべた。
(いつか、見守るだけでは済まない日が来るかもな……。)
町人たちは感謝と驚きで満ちた声を上げ、その場は歓喜に包まれた。その中でリリアンは自分のいたずら心を満たし、笑っていた。
その様子を陰から見守るヴィクターは、彼女の実力と独特のやり方に苦笑を浮かべつつ、再び彼女の旅路を見つめ続けた。
★★★
港町に着いたリリアンは、街の人々からゴブリンの海賊が物資を略奪し、住民たちを恐怖に陥れているという話を聞いた。どうやら海賊たちは近くの小島を占拠し、そこをアジトにしているらしい。
「なるほど、小島に根城を作っているのか。それなら……少し遊んでみようか。」
リリアンは満面の笑みを浮かべ、魔力を練り上げながら小島へと向かった。遠くから小島を観察すると、海賊ゴブリンたちが小さな砦のようなものを築き上げていた。彼らは声高に笑い、盗んだ財宝を見せびらかしている。リリアンは軽くため息をつき、杖を掲げた。
「さて、みんなをちょっと驚かせてあげよう。」
彼女の魔力が放たれ、小島全体に魔法がかけられた。突然、ゴブリンたちの船が勝手に動き始め、帆が破れたかと思えば、砦の壁がゆらゆらと揺れ、ゴブリンたちは驚きと混乱に陥った。
「な、なんだこれ!?」「幽霊か!?」「逃げろー!」
リリアンはその様子を楽しそうに眺めながら、次の魔法を準備する。彼女の瞳が輝きを帯びると、空が暗雲に覆われ始めた。
「交渉の余地もなさそうだし……さっさと片付けるとするか。」
高らかに杖を振り上げると、雷鳴が轟き、巨大な雷がアジトめがけて次々と落ち始めた。砦は一瞬で炎に包まれ、ゴブリンたちは逃げ惑いながら次々と倒れていく。最後の雷撃が砦の中心に直撃すると、アジトは跡形もなく焼き払われ、小島は静寂を取り戻した。
陰でその様子を見ていたヴィクターは、思わず額に手を当てた。
「いや……やりすぎだろう。これじゃ殲滅というより完全な破壊だな……。」
彼は半ば呆れつつも、その圧倒的な力に驚きを隠せなかった。そしてリリアンはといえば、海を見つめながら満足げに微笑み、軽く肩をすくめていた。
「やっぱりあぶり出してから雷を落とすので正解のようだ。あれくらいやらないと、また戻ってくるだろうしな。」
その軽い調子に、ヴィクターは思わず溜息をつくが、内心では彼女の無茶な行動力に感嘆すら覚えていた。
★★★
オアシスの町に足を踏み入れたリリアンは、地元の人々から困り果てた様子で相談を受けた。どうやら近くのオアシスが魔物のたまり場になっており、水を汲みに行くこともままならないという。
「魔物が水場を独占しているだって?ちょっと様子を見に行くか。」
軽い調子で答えたリリアンだが、その瞳はしっかりとした意志を宿している。彼女はオアシスに向かうと、周囲に群がる魔物たちを見上げて小さく鼻で笑った。
「さて、どれだけしつこいのか見てみようか。」
魔物たちは侵入者に気づき、唸り声を上げながらリリアンに向かって殺到した。しかし、リリアンは動じることなく杖を掲げると、一瞬で広範囲に魔法陣を展開する。そこから放たれた閃光が魔物たちを吹き飛ばし、周囲には聖なる気配が漂い始めた。
「ここまでは準備運動だ。本番はこれから。」
リリアンはオアシスの水に杖をつけると、その表面がまばゆい光を帯び始めた。彼女の膨大な魔力が水に流れ込んでいく。次第にその水は透き通るほどに輝き、聖水へと変化していった。魔物たちはその光を見て悲鳴を上げ、次々と逃げ去っていく。
「これで魔物たちは寄り付けないな。」
彼女は満足げに笑い、杖をくるりと回した。
その様子を陰から見ていたヴィクターは、額に手を当てながら呟く。
「……まさかオアシス全体を聖水に変えるなんて。発想も規模も、普通じゃないな……。」
ヴィクターの表情は驚きに満ちていたが、同時に懸念も抱いていた。
「今度は聖水を狙う賊が現れるかもしれないな……。」
一方、リリアンはそんなヴィクターの心配など知る由もなく、杖を肩に担ぎながらオアシスを後にした。
「さーて、次はどこに行こうか!」
★★★
山の上にそびえるダークエルフの城。その重々しい門の前で、リリアンはひとり佇んでいた。ダークエルフの門番たちは厳しい表情で周囲を睨みつけ、近づこうとする者を退ける気配を見せている。
「さて、正攻法じゃ退屈だな。少し遊んでみようか。」
彼女は杖を軽く振り、門番の一人に向けて魔法を放つ。放たれた魔法は音もなくダークエルフの女性に命中。突如として自分の周囲に現れた幻影に、門番は混乱し始めた。
「な、なんだこれは!?誰がこんなことを……!?」
幻影は門番の目の前で珍妙な動きを繰り返し、彼女の注意を完全に奪っていく。その隙に、リリアンは巧みに身を隠しながら城内へと進入した。
「いい反応だ。次は城の中でお楽しみといこうか。」
城の奥深く、玉座の間。そこにはダークエルフのクイーンが静かに座していた。その目は閉じられ、手には漆黒の杖を握りしめている。彼女の周囲には禍々しい魔力の渦が漂い、どこか神秘的な儀式の最中であることが伺えた。
「……大いなる厄災よ。我らにさらなる力を……」
その時、玉座の間の扉が音もなく開いた。クイーンはその気配に気づき、目を開ける。そこには余裕たっぷりの笑みを浮かべたリリアンが立っていた。
「こんなところでお祈りとは、敬虔だ。そのお祈りのせいで魔物が暴れて困ってるんだがな。」
クイーンは一瞬で立ち上がり、警戒心を露わにする。
「どうやって門番たちを……この城の結界をくぐり抜けてきたの?」
リリアンは肩をすくめ、楽しげに笑う。
「ちょっとした悪戯で通してくれたぞ。次はあなたが遊んでくれないか?」
杖を軽く掲げるリリアン。その瞬間、彼女の足元に複雑な魔法陣が広がり、部屋全体に明るい光が満ちる。
「無礼者!貴様如きが私に挑むというのか!」
クイーンが剣を振ると漆黒の雷がリリアンへと放たれる。しかしリリアンは涼しい顔で指を鳴らし、雷をその場で霧散させた。
「ふーん、なるほど。なかなかの魔力だな。でも……まだまだだな。」
そう言うや否や、リリアンは巨大な氷の槍をクイーンの足元に突き立てた。衝撃で床が揺れ、クイーンの表情が険しくなる。
「さあ、退屈な儀式なんかやめて、本気で遊ぼうか?」
陰で見守るヴィクターは、またもやリリアンのとんでもない行動力に頭を抱えるのだった。
「……もう少し慎重にやれないものかね。この娘、どこまでやる気なんだか。」
リリアンとクイーンの戦いは、玉座の間を舞台に激しさを増していた。クイーンの漆黒の魔力が空間を裂き、リリアンの鮮やかな魔法の閃光が応酬する。
「……貴様、ここまでやるとはな。だが私を本気で怒らせたことを後悔するがいい!」
クイーンは剣を振り上げ、床を砕くような雷撃をリリアンへと放つ。しかしリリアンはその攻撃を軽々と避けると、逆に笑みを浮かべた。
「どうした?剣のほうが得意なんじゃないのか?魔法にこだわるからそんなに乱れるのではないか?」
その言葉に、クイーンの眉間が一層深く寄る。彼女の額には汗が滲み始め、呼吸も荒くなっていた。リリアンの言葉通り、慣れない魔法戦に持ち込まれたことで疲労が積み重なっているのだ。
「黙れ!貴様のような小娘に、この私が遅れを取るものか!」
怒声と共に放たれた魔力の奔流が部屋中を埋め尽くしたが、それもリリアンの指先一つで軽々と弾かれる。
「ふふ、すごい迫力だが、空回りしてるな。」
リリアンは杖を掲げ、足元に複雑な魔法陣を展開した。その魔法陣から発せられる光は眩しく、部屋全体が神聖な輝きに包まれる。
「そろそろ終わりにしようか」
その瞬間、巨大な氷の剣が空中に出現し、クイーンの周囲を取り囲むように形成された。
「くっ……!?」
クイーンは剣を構え、迎え撃とうとするが、その動きは明らかに鈍い。慣れない魔法戦に消耗した身体が、思うように動かなくなっていたのだ。
「決まりだな。ちょっと遊びすぎたか?」
リリアンが杖を軽く振ると、氷の剣が一斉に放たれる。クイーンは防御の魔法を張るものの、その壁はたやすく砕かれ、氷の剣が彼女のすぐ近くで停止した。
「……負けた、か。」
膝をつき、敗北を悟るクイーン。その顔には悔しさがにじんでいるが、同時にどこか清々しい表情も見て取れる。
「剣で勝負したほうが良かったんじゃないか?次に戦うことがあれば、そのときは剣を見せてくれ。」
そう言ってリリアンはあっけらかんと笑うと、杖を肩に担ぐ。その姿を見送りながら、クイーンは一言呟いた。
「……本当に厄介な娘だ。」
ダークエルフのクイーンとの戦いを終え、リリアンは満足げに杖を肩に担ぎ、玉座の間の外へ出た。クイーンは魔法で封じられたまま座り込み、息を整えている。
そこへ聖女アメリアが息を切らせながらのこのこと現れた。
「さあ、ダークエルフの女王はどこ?私が討伐してあげる!」
リリアンは振り返ると、アメリアの姿を見て口元に薄笑いを浮かべた。その笑顔には、どこかいたずらっぽさがにじんでいる。
「おや、聖女様。残念だけど、もう遅かったみたいだな。クイーンならそこにいるけど、もう手出し無用だぞ。さっき私がちゃちゃっと倒したからな。」
リリアンが指差す先には、動けなくなったダークエルフのクイーンが座り込んでいる。しかしアメリアは一瞥することもなく、リリアンに詰め寄る。
「余計なことをしてくれたわね!私は王子や皆に期待されてここまで来たのよ!」
リリアンは怒りをぶつけてくるアメリアを楽しそうに見つめると、肩をすくめて答えた。
「これは失礼。私の手柄をあなたが自分の手柄にするならどうぞご自由に。でも、本当にいいのか?これでますます期待が高まってしまうぞ?」
アメリアはリリアンの煽るような口調に目を吊り上げる。
「いいのよ!私が討伐したことにすれば、皆はそれで納得するんだから!」
そう言い捨てると、アメリアは怒りに任せて踵を返し、足音を響かせながら部屋を後にする。その間、彼女はダークエルフのクイーンを見ることもなかった。
リリアンは彼女の去っていく背中を見送りながら、くすくすと笑い出す。
「あの聖女様、本当に面白いな。見もしないで全部信じて、さっさと帰ってしまうとは。やる気があるんだかないんだか。」
杖をくるりと回して、リリアンはさらに大きな声で笑った。
物陰からそのやり取りを見ていたヴィクターは、ため息をつきながら額を押さえる。
「……女って、どうしてこうも怖いんだ。聖女の無責任さもそうだが、お嬢様の煽り方も完全に楽しんでるじゃないか……。」
頭を抱えながらも、ヴィクターはリリアンの後をついていく準備をし始めるのだった。
★★★
城の大広間は華やかな装飾に彩られ、聖女アメリアの「偉業」を祝うための宴が繰り広げられていた。シャンデリアの光を受けて輝くドレスを纏ったアメリアが、壇上で堂々と語っている。
「そう、サキュバスに続いて邪悪なダークエルフの女王までも、私の聖なる力で討伐しました!これもひとえに、皆の祈りと、私の使命感の賜物です!」
聴衆たちは拍手喝采を送り、特に第一王子アルバートは感激した表情で立ち上がる。
「さすがだ、アメリア!君の勇気と献身に、王国の未来を感じるよ!」
その隣にいた騎士団長の息子ルーカスも、手を胸に当てながら敬意を表す。
「聖女様の活躍には、我々騎士団も感服するばかりです。この国を守る真の盾として、これからもお力添えをお願いしたい!」
広間は再び歓声と拍手に包まれ、アメリアは誇らしげに微笑みながらその場を見渡していた。
しかし、その端のテーブルに座るリリアンの姿は、誰の目にも留まらない。リリアンはドレス姿で椅子にもたれ、グラスを手にしながら静かに微笑んでいた。だがその唇はかすかに震え、瞳はいたずらっぽく輝いている。
彼女は笑いを堪えるのに必死だった。
(聖女様ったら……よくもまあ、あんな堂々と作り話ができるものだな。どこからあの自信が湧いてくるのだろうか。ほんと、面の皮が厚いな。)
ふっと息を吐き出しそうになるのをなんとか抑え、リリアンは手元のグラスに視線を落とした。肩が小刻みに震えているのを見て、隣の席にいた貴族の女性が首をかしげる。
「リリアン様、どうかなさいましたか?」
「いや、なんでもない。愉快だなと思ってな。」
その言葉の裏にある意味など誰も気づかず、周囲の人々はまたアメリアの話に耳を傾ける。一方で、広間の片隅に立ってリリアンを密かに見守っているヴィクターは、ため息をついていた。
(何も言わずにいるのが逆に怖い……。この状況を楽しんでるとしか思えないな。聖女も王子も全然気づいてないし、まあ、気づいたところで何もできないんだろうけど……。)
リリアンの肩が小刻みに震えるのを見て、ヴィクターは思わず眉をひそめ、顔を覆うようにして頭を抱えた。
(この悪役令嬢、ほんとに何を考えてるのかわからない……。)
宴会の喧騒の中、リリアンは何事もなかったようにグラスを口に運びながら、次の悪戯の種を心の中で密かに育てていた。
★★★★★
日差しが暖かい昼下がり、学園の訓練場には剣を振るルーカスの姿があった。汗で濡れたシャツがその鍛えられた体を際立たせ、真剣な表情が周囲の目を引きつけていた。
その様子を、こっそりと物陰から見つめる少女がいた。聖女アメリアだ。
アメリアは心を決めると、手に持ったタオルとスポーツドリンクをしっかりと握り、意を決して歩み寄った。ふわりと香るのは、彼女がさっきつけたばかりの魅了の香水。その甘く繊細な香りが、そよ風に乗ってルーカスの周りに漂う。
「お疲れさま、ルーカス。」
アメリアはタオルを差し出しながら言った。ふわりと甘い香りが彼女から漂い、ルーカスは一瞬その香りに目を細めた。
「アメリア……どうしたんだ?こんなところに。」
タオルを受け取りながら、ルーカスは少し驚いたように尋ねた。
「どうしたもこうしたも、こんなに頑張ってるルーカスを労わらないでどうするの。」
アメリアは屈託なく笑いながら、スポーツドリンクを彼に渡した。
「ほら、ちゃんと水分取らないと倒れるよ?」
ルーカスは照れたように笑いながらドリンクを受け取ると、一口飲んでから礼を言った。
「ありがとな。助かるよ。」
アメリアは彼をじっと見つめながら、口元に柔らかい笑みを浮かべる。
「やっぱりルーカスってカッコいいね。こんなに一生懸命で、きっと『大いなる厄災』だって倒せるんじゃない?」
「いやいや、それは言い過ぎだ。」
ルーカスは慌てて首を振った。
「俺なんかじゃとても無理だよ。リリアンならともかく……」
「でもさ、リリアン様も確かに強いかもしれないけど、ルーカスだって負けてないよ。私はルーカスのほうが強いと思ってるよ。」
アメリアは少し意地悪そうに笑いながら近づくと、彼の顔を覗き込むようにして言った。
一瞬、ルーカスの頬が赤く染まった。
「そ、そんなこと言うなよ。」
彼は目をそらしながら苦笑いを浮かべたが、心のどこかでその言葉が妙に胸に残る。
「アメリア、君は……。でも、修行はいいのか?大いなる厄災を倒すための準備が必要じゃないのか?」
ルーカスは少し心配そうに彼女を見る。
しかし、アメリアは首を横に振りながら穏やかに笑った。
「修行も大事だけど、今はルーカスと一緒にいるほうが私にとってはもっと大事だよ。」
彼女の言葉はあまりに真っ直ぐで、ルーカスの胸を深く揺さぶった。
「そ、そうか……。」
ルーカスは目をそらし、照れ隠しにスポーツドリンクのボトルを開けた。その心の奥底では、自分が彼女に魅了されつつあることを薄々感じていた。
アメリアはそんな彼の反応に満足そうに微笑むと、そっと彼の隣に腰を下ろした。
「ルーカスがいるから、私も頑張れるんだよ。」
彼女の言葉とその瞳に込められた思いに、ルーカスの胸はさらに高鳴った。




