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第91話 的中率100%の占い師

 セレスティア温泉旅館はチェックアウトせずに、仁と真那は朱蓮村《しゅれんそん》に向かう。朱蓮村は歩いてもグランデリッチから2時間ほどで着く。また街道で虎峰に会わない事を祈りつつ、二人は道を進んだ。




 朱蓮村に到着すると、その風景は江戸時代の趣を感じさせた。村の中心には石畳が敷かれた小さな広場があり、周囲には江戸時代の建築様式を思わせる家屋や商店が立ち並んでいる。仁と真那は時代劇の映画のセットの中に来たような印象を受けていた。


 家々は木造で茅葺きの屋根が特徴的であり、白壁に黒い屋根、風情ある欄間や格子窓が、日本の古き良き時代を感じさせていた。街並みには風情溢れる古い井戸や石碑も見られ、時がゆっくりと流れている様であった。


「不思議だよな、異世界で日本の文化があるなんて。温泉旅館もそうだけど、ここには更に根強く日本の風景が見られるよな」


「うん、何かタイムスリップしたみたい」




 村人の殆どが、日本の着物の様な格好をしている。まれに冒険者っぽい甲冑を着込んだ人を見かけるぐらいであった。村の名前も漢字で、慈愛に聞いた占いのお婆さんの名前も千夜《ちや》であり、なぜか日本風だ。




 真那は通行人の青年に千夜の居所を訪ねる、青年は快く教えてくれたが、こうも言っていた。


「あんたら占ってもらいに来たのか?それなら無駄足だよ。占いはよく当たるって有名だが、よそ者は一切相手にされないよ」


 慈愛に聞いた通りよそ者には厳しいらしい。取り敢えず当たって砕けろの精神で乗り込もうと気合を入れた。






 千夜の家の前に着くと、ここの村人ではない明らかな冒険者風の男が暴言を吐きながら家から出てきた。どうやら千夜に追い払われたのであろう。


 嫌な光景を目にしてしまったなと二人は怪訝そうな顔をした。



 仁と真那は無言で顔を見合わせ、じゃんけんを始め、負けた真那が扉をノックすることになった。


「すみませ~ん、千夜さんおられますか?」


 真那が顔をヒョコッと入口に向けると千夜と思われる年配の女性が腕を組んで立っていた。千夜は身長は低いが厳しさと厳格さが溢れ、まさに統率力と規律を象徴している様であった。


 突然目の前に現れた千夜にビックリした真那だが、「あの~占いを~」と言いかけたが、無言の険しい表情で真那を見つめる千夜に屈服するかのように「あ、やっぱりいいです・・・」と手を左右に振って真那は首を引っ込めた。




引き腰の真那に仁は無理やり背中を押して前に出そうとする。


『ちょっ、やめてくださいよ!セクハラですよ!触らないでください!』


『何言ってんだ!じゃんけんで負けたくせに』




 二人のやり取りを制止するかのように玄関から声が聞こえる。


「占って欲しいんだろう。上がりな」




 仁と真那は顔を見合わせた。玄関先に会釈して二人は入る。日本のように土禁なのが一目でわかった。靴を脱ぎ、履物を揃える二人の姿を見て千夜はニコッとし、長い廊下を先頭に歩き仁と真那を引率する。すると千夜は立ち止まり二人の方に振り向く。


「占いでわかっておったぞ。今日<落ち人>がここに来るのが」


 突然のカミングアウトに二人はビクッとして冷や汗をかいた。誤魔化すべきなのか。しかし、今更誤魔化して退散でもしたら尚更怪しまれてしまう。


「安心せい、取って食おうなんて思っとらんよ」


 そう言うと千夜は再び歩き出し、二人を和室の部屋に案内する。


 部屋の中央には囲炉裏が置かれ、それを挟むように千夜と対面して座布団の上に正座する。千夜は座ると囲炉裏の火を用いて葉巻のタバコに火を付けた。




「あ、タバコ!」


 仁は嬉しそうに身を乗り出して千夜のタバコを見る。異世界にもタバコはあったのだ。異世界でのタバコは社交や儀式の一環として行われ、高級な娯楽とされていた。真那は仁の横顔を目を細めてジッと見る。仁は視線に気付いて軽く咳払いをして座り直す。真那は千夜に招き入れた理由を聞いてみる。


「あの、他所から来た人には占ってもらえないと噂を耳にしたのですが」


「ふむ、そうじゃよ。よそ者には占いをせん」


 なんだ?気持ちだけ高ぶらせておいて結局は占ってくれないのか。嫌味な婆さんだなと仁は思って正座していた足を崩して胡坐をかいた。真那はそれを見て仁の膝をペチンと叩く。しかし次に千夜から出た言葉は衝撃的だった。


「お主らはよそ者ではない。どちらかと言うと私に近い」


「え?どういう意味ですか?」


「父の故郷は日本じゃ。私は<落ち人>の血を引いておる」




 千夜の父は落ち人であった。元の世界には身寄りもなく天涯孤独であった彼は、異世界で妻となる人物に出会い、一生をここで暮らそうと決めたのだ。このことは周りには知られていない。そして千夜の父は元の世界の知識を生かして、この村の建設や温泉などを開拓していった。グランデリッチにある温泉旅館も千夜の父が携わっているそうだ。日本の文化が異世界にあるのはそういう理由であった。


「そういう訳じゃ、それで何を占う?」




 仁は千夜が落ち人の血を引いていると言うことを話してくれたことに、この人は信用が出来る人だと見抜いた。そして自分たちの経緯を説明し、真那に目で合図を送って、スマートフォンで撮影したテレッドの写真を千夜に見せる。




 千夜は、「それらの行方じゃな」と言い、袖から水晶玉を取り出す。占い方法はよく日本でも見る水晶玉を使うようだ。しかしこの水晶玉からは大きな魔法力を真那は感じていた。


 時間にして5分程度、千夜は水晶玉に手をかざして見つめていると、フーと一息ついて、水晶玉から手を離した。




 千夜は順番に説明すると口を開き始めた。

 世界中とはいかないが、周辺の大陸を含む場所は占ったと言う。一つ目のテレッドはここから南西にある大きな森、真那はスマートフォンで地図の画像を出し、場所を千夜と確認する。するとそこは羽曽部食品のある森であった。最初に手に入れたテレッドだ。

 2つ目は王都で反応したと言う。これはきっとレオノールから譲り受ける予定のテレッドだと確信した。3つ目は王都よりも更に北に位置する冥嶺(めいりょう)山脈、4つ目はなんとレイクサイドにあると言う占いの結果であった。




 仁と真那は更にお願いして、3つ目と4つ目の詳細を占って欲しいとお願いした。千夜は嫌な顔一つせずに「承知」と一言、占いを続けた。




 3つ目の冥嶺山脈は厳しい自然環境を持ち、峻険な地形や深い谷、厳しい気候ではあるが一人だけがそこに住んでおり、その一人の人物がテレッドを所有している。


「ちなみに冥嶺山脈に住んでいる人物と言えば一人しかおらん。有名人じゃ、[ヒョウ]という名じゃよ」


 ヒョウ?どこかで聞いた名だったが仁は思い出せないでいた。




 4つ目のテレッドはレイクサイドにある、何かの優勝トロフィーに装飾されている。何の大会のトロフィーかまではわからないが、近々行われる大会であると占いの結果に出た。




 二人には幸先が良かった。あと一つだけ必要だったテレッドが2つも占いに出た。ふと、占いの成功率ってどんなものなんだろうと千夜に聞いてみる。


「100%じゃ。お主らと同じレアスキルの賜物じゃ」


 なんと千夜もレアスキル持ちだった。それは占いのレアスキル、成功率100%の素質。しかしわからないものはわからない。確実に見えた物だけは的中率100%だと言う。




 千夜にお礼を言い、故郷の技術で作ったハムですとブーボハムを千夜に手渡した。帰り際に千代が父の故郷の人と会えて良かったと、これまでの厳格な表情とは裏腹に少女の様な笑顔を見せて二人を見送ったのであった。




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