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第92話 人間ってのはめんどくさい

 グランデリッチに帰ってきた二人は、少し買い物をしようと繁華街へと向かった。仁は真那の武器であるスティックの代わりを買おうと決めていた。

 以前、慈愛が自分に合うものを見つけて買っていく方が良いと言っていたのを思い出したからだ。これまでの戦いで真那のスティックは少しばかり老朽化してきいる。仁はそう思い真那に話してみると、その気遣いにとても喜び、真那の足取りは軽くなった。




「俺も新しい剣を買おうかな」ゾルをチラッと見て仁はからかってみる。


「ム!浮気じゃ!ワシがおるのニィー!」


「イビキの静かな剣がいいな~(そもそも剣はイビキをしないが・・・)」


「真那、気を付けるのジャ、この男は浮気癖があるゾい」




 ゾルの言葉にふと、仁に昔の記憶が一瞬蘇った。

 

 当時、仁の妻は仁の母親と上手くいっておらず、些細な事でも口論になっていた。昼間は仕事、夜は家に帰ってからも母と妻の愚痴を聞く生活に、仁本人も嫌気が差していたのも事実であった。




 そんな中、部下の真那とは気が合い、仁は逃げるようにして真那と外で食事をしていたかもしれない。もちろん、1ヵ月に1回有るか無いかの程度だが。


 ある日、妻は思い詰めたように仁に話しを切り出した。一言「家を出る」と。


 妻のフォローは存分にしていたと思っていた仁。しかし、それは大きな勘違いであった。妻を蔑《ないがし》ろにしていた事に今更ながら痛感させられた。

 仁は「それなら俺も一緒に出よう」と言い出すが、それに妻は首を縦には振らなかった。


「あなたは自分の母親の世話もしなくてはならない。そして、あなたはいずれ、その会社の子を好きになってしまうでしょ?今なら子供もいないしお互いがやり直せる」




 妻の冗談とも取れない真剣な表情に、仁は何も言えなかった。




 確かに妻には包み隠さずに真那とご飯に行き、色々相談に乗るのも上司の役目と伝えていた。


―――しかし妻にはそう見えていなかったようだ―――



 その後、仁は妻とも話し合うも、最終的に十分な慰謝料を支払い、仁は離婚したのであった。




 離婚したと言う話は、あまり会社では公にしなかったが、いずれ別れたことは皆の耳に入る。

 それを聞いた真那も少し負い目を感じてしまったのだ。仁は真那には直接会わずに、電話で「一連の騒動はこちらの家の事情だから真那は関係ない」と伝えた。



 ただ・・・、二人で食事をしたりするのも、何もなくても何かあったように変な噂が立つかもしれないからやめようと切り出した。


 それから二人はプライベートな相談事や付き合いはなくなり、敬遠した仲となっていた。



 そして数年が立ち、普通の上司と部下の間柄にとなっていたところで、今回の異世界転移に巻き込まれたのであった。




「なんジャ、二人とも!急にしおらしくなって・・・訳アリの二人か。人間ってのはめんどくさいノー」


 ゾルの鋭い返しに、仁は完敗であった。事情を知る真那もフォローは難しかったが、ゾルに一言。



「須沖課長は今も昔も浮気なんてしませんよ」




 真那の言葉に勇気づけられた仁は後を追うように慌てて続けてみる。


「も・・・もちろん、でもゾルはいくらで売れるかだけでも聞いてみようかな!」


 真那はクスッと笑い、ゾルもまた騒ぐ。




 なんだかんだでゾルがいて助かった。

 この旅は仁と真那だけではなく、ゾルがいてくれたからこそ、助けられた場面が多くある。




 もし、家でも・・・、妻と母とで同じように言い合える仲であったら離婚はしていなかったかもしれない・・・。




 元の世界に帰る時が来たらゾルともお別れか・・・と、少し寂しいような感じも受けた仁であった。




 冒険者ギルドに寄って採取依頼で稼いだ小銭を受け取り、次に武器屋に来た。仁は目を輝かせて並んだ武器を手に取って見る。思っていたより武器の重さにビックリした。ゾルと同じようなサイズでも重く感じる。よっぽどゾルが扱いやすい優れた剣であると認識した。しかしゾルの刃は錆びたままであるが。




 真那は慎重に選んでいた。スティックタイプもあるが、杖タイプもある。また属性に特化した武器もあるようだった。品定めしている真那に店主は「お客さんの特異な属性は何ですか?」と聞いてきた。真那は「火と水です」と答えた。するとちょうど良いのがあるよと、奥から棍を取り出してきた。



「これは炎水棍《えんすいこん》と言って、それぞれの先端に赤色と青色の宝石が付いているでしょ?赤は火、青は水の属性魔法のコントロールを手助けしてくれるよ」


 値段を聞くと5万ルーンだと言う。さすがに高い。でも真那は炎水棍をお気に入りのようだ。ヨシッと仁は値段交渉を店主と始める。




(炎水棍、なかなか立派な武器だし値段相応だと思う、しかし、奥から出してきたのは決して特別扱いされている武器だからではない。それは、若干だが炎水棍の細かな装飾部分に拭き取り切れていない埃が付着していたからだ。以前、慈愛が複数の属性を扱えるのはレアだと言っていた。そもそも真那は[叡智者《えいちしゃ》]のレアスキル持ちだから属性関係なく扱えるわけだが、一般の魔法使いスキルの人はどうだろう、ほとんどが得意な属性を一つしか持っていない筈だ。と言う事は、店の奥に眠って埃を被っていたのは買い手がほとんどいなく出番がなかったからだ)




 仁の考察は見事に当たっていた。これも仁のスキル[見抜く]の賜物なのか。仁は店主に「ここで売っとかないとまた買い手が見つからないよ」と軽くプレッシャーを掛け、何とか3万5000ルーンまで値引き交渉を成立させ、購入した。


 真那は店主に値引きしてもらったお礼を言い、大事に使いますと言って商品を受け取った。




 帰り道、真那は購入した炎水棍を両手で大切そうに抱えてウキウキで歩いていた。そんな真那を仁がからかい始めた。


「そんな両手で持ってたら俺が手を握って歩けないじゃないか?」


「はぁ?握ったこともないクセに・・・。よく言いますね!」


「ブッブー!ワシのセクハラアラームが反応したゾ!」


 二人とゾルは、相変わらずたわいもない話をしながら繁華街を歩いた。


 その後、二人は小腹が空いたので、レオノールに貰った食事券で夕飯を済ませてからセレスティア温泉旅館に帰ろうと決めた。

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