第90話 虎峰、羽曽部食品へ行く
舞踏会の激闘から一夜明けた。仁は体がムチャクチャ筋肉痛であった。昨日の戦いで限界以上の力を知らずに出していたせいなのか。真那は魔法力を流して回復させると言うが、ただの筋肉痛だし、今日はレオノールの所だけ行ってのんびりしようと真那に提案する。真那も今日はそうした方が良いですねと快く承諾してくれた。
真那の案内でレオニールの家に着くと、召し使い風の男性が招き入れてくれた。そしてモンテーヌの寝室に案内され、そこでレオノールも待っていた。
仁はモンテーヌを見て驚いた。聞いた通り真那にソックリである。若干真那より年上だが、流行り病のせいか、写真で見た通りにやつれていた。ソックリだと言っても二人並ぶと、さすがに違いが判らない程でもなかったが、それでも姉妹と言ってもおかしくなかった。
モンテーヌは二人に深々と頭を下げてお礼を言った。仁と真那は来る途中で買ったお見舞いの花束を渡す。二人の気遣いにモンテーヌは喜んでくれた。
それにレオノールも丁寧にお礼の言葉を二人に延べ、真那との約束の件を話し始めた。
「真那さんがご希望のオブジェは私が責任を持って王都にある祖母の家で見つけて差し上げます。しかし、モンテーヌが回復してからになってしまうので、少し時間がかかってしまいます。だいぶモンテーヌも回復していますので2週間ほど頂けたらと考えています」
真那はその言葉を聞いてハッと思い出したかのように仁の耳に顔を近づけて小声で伝えた。
『言うの忘れてたよ!例のテレッドのオブジェを貰えるの!』
「え!」と仁は驚く。今度は仁が真那に耳に顔を近づける。
『そんな大切なことを忘れるなよ』
真那はてへっと笑った。そのやり取りにレオノールとモンテーヌは微笑んでいた。
仁は昨日の影牙団の賞金については、イーサンに一任してほしいとレオノールにお願いをする。自分たちは一応商人と言う肩書の旅人ではあるが、冒険者ギルドに登録していないことを告げた。レオノールはその言葉に驚いていた。てっきり仁の強さはAランク以上と思っていたらしい。
レオノールはお任せくださいと快く承諾し、また、2週間後に会う約束をしてレオノールの屋敷をあとにした。レオノールは帰り際に、ヴァルモント家で経営しているレストランで使える無料の食事券をくれた。仁と真那はこれには大変喜んでいた。
「いあ~宿代も何とかなるし、無料の食事券も貰えたし、堕落した生活を送ってしまうなぁ~」
「須沖課長、働かずべきもの食うべからず!ですよ」
自分のお気に入りのコップは高くても買うのに、変なところは真面目な真那であった。
◇◇◇
羽曽部食品の大会議室。部屋には慈愛一人がいた。この2日間、仁と真那と通信をしてなかったことに、何かあったのかとソファーに寝転んで考えていた。一応ゾルからネフィリアには、「特に問題はないが忙しいので中止ジャ」と連絡が一方的に来ていた。そんな事を考えていると、扉をノックする音が聞こえる。慈愛はその音に反応し、「開いておる、入れ」と返す。
「失礼しますね」
「!?虎峰!!」
虎峰の姿を見たとたん、慈愛の全ての動きが一時停止する。
何と普通に大会議室の扉から虎峰が入ってきた。この異様さが何とも不気味である。
慈愛がまた結界を壊したのか聞くと、「一人分の穴をあけてリムに立たせているので安心してください」と虎峰は言う。虎峰の用事は仁と真那についてだった。二人の事を詳しく教えて欲しいと。
「仁の方、知ってます?昨日の晩、たった一人で影牙団を全滅させましたよ」
「バカな!?、影牙団は冒険者ランクAのいる集団じゃぞ。本当に仁が一人で倒したのか?」
「ええ、だから聞きに来たのです。彼のスキルレベル知ってます?」
「オヌシも知っておるじゃろ・・・。3じゃ」
「違います、今、仁はスキルレベル5です。真那もですよ」
「な!・・・なんじゃと!?誠の話か?」
慈愛は驚く表情を見せるが続けて虎峰が話す。
「異様なぐらいの成長スピードです。貴女も知っている通りスキルレベルは生まれてから急激に変化はしません。まぁそんな事より二人のスキルが何なのか教えて欲しいのです。私たちと同じ・・・レアスキルなんじゃないですか?」
スキルの力量は簡単な魔法を使えばわかるが、スキルの種類はまではわからない。種類を判定するには六賢者だけが持つ鏡の様なマジックアイテムが必要だ。
虎峰の質問に慈愛は黙る。
―――あまり虎峰を関わらせたくはない。
―――しかしもう手遅れか。こやつの視線は既に二人を捉えている・・・。
「答えたくなければ良いですよ、強引に奪いましょうか?」
虎峰は傘の形をした宝具を慈愛に向けて威嚇する。慈愛は臆さずにいたが観念した。虎峰に抵抗しても無駄であるからだ。
「確かにオヌシの言う事は当たっておる」
「それで?何のスキルですか?」
「・・・、仁は[見抜く]、真那は[叡智者]じゃ」
「なるほど、見抜く素質と賢者と同等以上である叡智者の素質ですか。素晴らしい」
虎峰は満足そうな表情で大会議室を後にする。一方、慈愛は頭を抱えた。仁と真那の旅がようやく軌道に乗り出したとしても、羽曽部食品の経営までもが、虎峰一人によって崩されてしまう。その可能性を慈愛は危惧していたのだ。
◇◇◇
その日の夜、仁と真那は慈愛との通信を2日ぶりにおこなう。スクリーンには慈愛しか映っていなかった。仁と真那は、今いる宿が日本の旅館に近い事と、2つ目のテレッドが手に入る可能性を羽曽部食品の皆に伝えたかったと慈愛に嬉しそうに話した。
「あ、慈愛!これ誰のモノマネか当てて!」
「ヤ・メ・ロ」
仁と真那は和気あいあいと話すが、慈愛は神妙な顔をずっとしている。それに二人もようやく気付き、何かあったのかと問いだす。
「仁、真那、昨日・・・影牙団を全滅させたか?」
慈愛は今日虎峰が羽曽部食品に来たことを話す。それに仁と真那は驚いた様子だった。いくら神出鬼没といっても、まさか慈愛の居る羽曽部食品にまで赴くとは思っていなかった。慈愛は特に危害は何もなかった事を二人に伝え、虎峰が二人のスキルについて聞きに来たと言う。仁と真那は別にそれぐらいは良いんじゃないかと思った。既に戦闘スタイルでわかっているだろうからだ。
「いや違う、オヌシらは"レアスキル"なのじゃ」
虎峰に伝えたように仁は[見抜く]、真那は[叡智者]と伝えた。二人はずっと剣士と魔法使いと思っていたから再度驚いた。
そういえば真那は虎峰との初戦で防御魔法を使っていた。本来、補助的な魔法は僧侶のスキル持ちがおこなう魔法であった。[叡智者]は賢者と同等以上の者を指す言葉であり、魔法に関して言えば万能となる。
すると仁の場合はどうなんだろうか。[見抜く]には色んな言葉が使われる。戦闘においても相手の動きを[見抜く]ことで、慈愛は無難に剣士としたのであろう。
それじゃなぜ慈愛は嘘を言っていたのか、それが二人には気になった。その答えは慈愛から口に出した。
「旅立ちの際に伝えた通り、<落ち人>であることをバレてはならん。ましてレアスキル持ちなど言うたら尚更なのじゃ。デルカニアの人々は二人を脅威に感じ、抹殺しようとしてくるかもしれん」
慈愛の言いたいことは理解しているつもりだった。もし元の世界の人間がデルカニアへ侵略してきたら、ここの世界の秩序も大きく乱れ、世界規模の戦争になってしまう。それぞれが異なる進化を遂げた[科学VS魔法]の大戦である。
今回の<落ち人>は規格外で羽曽部食品は敷地ごと298名がデルカニアに転移している。異世界人からは更に脅威に感じ取られてしまうだろう。
「仁、真那、虎峰以外にも気を付けなければならん。もし、<落ち人>であることがバレてしまい、レアスキル持ちとなると、この世界は二人にどういう行動を取るか想像も出来ん」
"事態は緊急を有す"か・・・。あまり派手な行動も取れない。しかし、見つけなければならない帰還に必要なアイテムは残りテレッド1個だ。早く見つかれば良いがと仁は考えた。慈愛は少しの沈黙の後、二人に話しかけた。
「グランデリッチを出て少し東に進むと[朱蓮村]と言う小さな村がある。そこに[千夜]という占い師の婆さんが住んでおる。そこで残りのテレッドの行方を占ってもらってはどうじゃ?」
仁は、今になってなぜ教えてくれたのか聞いてみた。慈愛の話では朱蓮村は平凡な村で、村の人々から千夜は大きな信頼を得ており、彼女の占いに助言を求めに多くの人間が訪れる。千夜の的確なアドバイスは村の人々にとって心強い存在であり、占いの才能は、この平凡な村に一石を投じるような特別な存在となっている。しかしそれは朱蓮村に限ってのことであり、千夜は《《よそ者からの依頼を一切受け付けない》》。
しかし今はどんなことでもチャレンジするしかない。明日、仁と真那はさっそく朱蓮村に向かうと慈愛に言い、今日の通信を終えた。




