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第7話 朝食と水路計画

 慈愛の前には社員食堂に残っていた一部の材料で作られた朝食が用意された。

 トーストしたパンに、スライスしたアボカドをのせ、塩とコショウで味付けし、トマトなどをトッピングした[アボカドトースト]と、フルーツやヨーグルト、ミルクなどをブレンダーで混ぜて作った[スムージー]が並べられた。


「(ん?この変わったメニューは開発課が絡んでいるな)」

 仁の予想通り、この朝食には横川課長率いる開発課が調理していた。この世界で頼みの綱となる慈愛に、満足いく料理を提供する事を羽曽部社長が直々に開発課へと指示を出したのだ。

 今後は慈愛の食事には開発課の手が加わり、ひと手間かけた料理が出される予定だ。


 仁は人混みの先頭で慈愛の食事の準備を進めている部下たちを見つめている横川に近づき小声で話し掛けた。

『オシャレな朝食じゃないですか?』

『だろ?若い女性部下たちの提案だよ。ちょうど食堂のガスはプロパンで使えたからな。パンはフライパンでトーストしたさ』

『なるほど、俺たちおっさんには出ない発想ですね』


 仁は慈愛の前に並べられている料理を眺めた。おっさんの仁はあまり食べたいとも思わないが、若い女性にはウケが良いのだろう。実際、この慈愛も見た感じでは20代半ば頃ではと思う容姿だ。


 慈愛はまずトーストしたパンを頬張った。ほんのりとした香ばしさが口の中を漂うとアボカドのクリーミーさが広がり、トーストしたパンのサクサクした食感が、舌を優しく包み込んでいった。


「おお、美味じゃ!まさかデルカニアでこんな美味いアボカドトーストが食えるとはの!」

 慈愛は時折、現代社会の事に詳しい発言をする。これまで出会った<落ち人>から情報を仕入れているのであろうと、聞いている者はそう納得していた。


 次に慈愛はスムージーを手に取る。彩り豊かなフルーツとヨーグルトの香りが漂い、混ざり合った色彩が美しい模様を作り出している。

 一口飲むと、慈愛の唇には感激の表情が浮かぶ。滑らかな口当たりと甘酸っぱいフルーツの味わいが口の中で舞い踊る。心地よい冷たさが体を包み込み、新鮮なエネルギーが全身にみなぎっていく。


 慈愛は周りの目など気にせずに朝の美味しい食事を楽しんでいた。彼女の表情は穏やかで、満足気な事は見ている従業員達でもわかった。


 慈愛が食べている間、298名の従業員は既に会議室に集まっていた。


「うむ、ご馳走様じゃ!美味かったぞ!」

 そう言った慈愛に、前列に陣とっていた羽曽部社長や役員面々は軽くお辞儀をした。


「のう?社長。これは主らの商品か?」

「いえ、特別に作らせた料理でございます」

「ふむ、それなら次からは"特別"は不要じゃ。お主らと同じ物を同じ量だけ用意してくれれば良いのじゃ」


 意外な慈愛の発言に皆も驚いた。

 この異世界デルカニアを統治する六賢者の一人。昨日の話からもこの異世界では余程の権力者である印象であったが、だからと言ってそんな横暴な感じではないのかもしれない。


 空になった食器が片付けられ、慈愛が前に立ち、昨日の会議の続きが開催された。会議と言っても集会に近いだろうか、メインで話すのは慈愛と、前列にいる社長やお偉いさんたちだ。


 まず、水問題について話が進められた。


 羽曽部食品の敷地内には、水をろ過する装置もある。元々は井水を汲み上げて食品製造用に使用していたが、もちろん飲料水としても使える。

 貯水タンクのポンプもなんとか稼働させることが出来たが原水がない。その内底をついてしまう。


 それならばと、慈愛は持ってきたバッグから地図を取り出した。50センチ四方の羊皮紙に書かれたような地図を使い、慈愛は羽曽部食品の敷地が存在する場所を指で示した。

 そこはデルカニア大陸のちょうど西側に位置していた。一番近い街でも南東にある[レイクサイド]と言う街であった。この森を出て道なりに50キロメートル程進むとあるらしい。

 そして森の北側には小高い山が群集しており、東側には川を隔てて草原があると話した。

 慈愛の説明に出た"川"と言う単語に皆が反応した。


 川までの距離は約1.5キロメートルから大く見積もっても3キロメートル、水の運搬も出来ない距離ではないが、現代社会のように舗装もされていない森の中で生い茂る木々の中では車も走れない。人力で運ぶにも限界がある。


「幅70センチ、深さ50センチで水路を作り、ここまで引っ張れないか考えておる」

 慈愛は川をここまで引く提案をしてきた。

 地図を用意して来たと言う事は慈愛なりに考えて来たのであろう。

 だがここまでの距離を水路が引けるのだろうかと、誰もが疑問に思う。なにせここにいる298名のほとんどは食品製造に携わる者たちだからだ。


 すると、後ろから手が上がった。それは設備課の加茂課長であった。先程の貯水タンクのポンプ稼働についても先頭に立ち行動をしていた人物だ。

 加茂は食品製造に関わる機械だけではない、その他ユーティリティー関連や、建築業にも幅広い知識を有している。


「ここには298名いる。人海戦術となるが手分けして作業を進めましょう」


 加茂は皆に了承を得るかのように話し始め、続いて説明を始めた。

 ただ、砂場遊びのように溝を掘るだけでは、すぐ崩れてしまうし水は引っ張れない。工場には外壁の補修に使用するコンクリートの在庫があった。それを流用する。

 しかし、さすがに長距離の用水路の内壁に使う程の在庫がある訳ではない。

 そこで、溝を掘った後は大小様々な石を用いて城の石垣のように内側に積み重ねていく。そしてその上にコンクリートを塗るようにして施して行けば強度も十分となる。

 もう一つ、川から水を引き込むには水車も必要であると付け加えた。


 設備課は手持ちの工具で水車を作成。他の従業員は溝堀りと石集めで作業分担する。水車の設計には、これまでの知識を生かして加茂が設計する。


「慈愛様、穴を掘るシャベルやクワなどの道具はお借り出来ますでしょうか?」

 羽曽部社長が今の話の流れで必要と思われる道具をあげた。設備課にも使わなくなった機械の材料は豊富にあるが、道具をイチから作るとなると時間が掛かりすぎる。


「うむ、出来るだけの数を用意しよう。他にはあるか?」


 そして、羽曽部社長の口からは二番目に問題となっている電力について相談を始める事となる。

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