第8話 電気問題
羽曽部社長からは、慈愛にこの羽曽部食品という施設のほとんどが電力を必要するものと説明を始めた。それに慈愛も既に把握しているような素振りを見せて頷いていた。
果たして、電気はこの異世界にあるのか?そこが問題点であった。
現時点で一部の電気を必要とする機器は、車を使って何とか電気を確保する事が出来るが、それも限界がある。
電気が無ければガソリンでも良いが、車を使った発電は燃費も良くないし効率的ではない。今も一時しのぎの状態だ。
よほど現代社会は電気に動かされていると言っても過言でない状況を誰もが身に染みて感じていた。
慈愛は持ってきたお泊りバッグから小さなランタンを取り出した。どうやら普段、慈愛が愛用しているような雰囲気のあるランタンであるが、慈愛がそれに触れると、ランタンに火が灯った。
「これは魔法石を利用して火を灯しておる」
慈愛はランタンの底のフタを開けて、小さな緑色をした石を取り出して見せた。それが慈愛の言う魔法石であった。魔法石を取り出したランタンの火はフッと消えた。
異世界では、この魔法石に魔力を注入する事で、現代社会で言う乾電池の役割をしている。
魔法石には魔力だけでなく、魔法そのものを封じ込めて使用するマジックアイテムもある。例えば火の呪文を魔法石に封じておけば、魔法を使えない者でも、魔法石に封じ込められた魔法を使用することが出来る。但し、無限にではなく、その魔法石に封じられた分だけだ。
これこそが慈愛が話していた異世界デルカニアと現代社会の発展の違いであろう。
魔法の発展と科学の発展。それぞれが違う文化の進化を遂げていた。
デルカニアでは一般常識として使用されている魔法こそが、現代社会の人から見たら、まさに夢の様な不思議なチカラである。
「この魔法石が電気の流用となるかどうかは、わしにもわからん。午後、顔なじみのドワーフを連れて来よう」
「「「ドワーフ!!!」」」
従業員のほとんどがドワーフと言う"ファンタジー用語"に反応した。
ファンタジー世界の代名詞とも言える種族、ドワーフは手先が器用な小柄な種族で、鍛冶が得意である。と言うのが現代社会にいる仁たちが想像しているドワーフであった。
「よし!お主らもまず水路の件で準備があろう。まず目的となる川については午後に連れて行こう。その前にシャベルの手配とドワーフを連れて来る」
慈愛は席を立ち会議室の出口へ向かうが、一度足を止めて振り向いた。
「もう一つ、森の中はわしがおらん時に入ってはダメじゃ。邪悪な者を拒む結界[オーロラフォートレス]は今も持続的に張っておるが、この辺に住む動物たちは邪悪な心ではなく生存本能で行動している。[邪悪=敵意]ではないと言う事を覚えておいてくれ」
そう言うと慈愛は慌ただしく会議室を出て、プテラノドンの待つ屋上へと向かった。
以外と言うか、慈愛がとても協力的である事に仁は安心していた。先程は来たばかりに朝食を準備させた時は呆れもしたが、今の所、他の従業員も彼女に悪い印象は持ち得ていない筈だ。
慈愛が去ったその場に、今度は羽曽部社長が皆の前に立った。羽曽部社長は年齢的にも60歳ぐらいだが、その顔は疲れを感じさせず、力強い顔を皆に見せた。
水の確保が生存に欠かせない問題である事を全員に認識させ、苦境に立ち向かうための決定を迅速に下す必要があった。
「皆で協力して水路を作ろう!我々羽曽部食品なら出来る!」
羽曽部社長の言葉は、周囲の緊張感を高める中で響き渡った。彼の声が会議室に反響し、一斉に皆が行動を取る為に準備を始める。
各部署の責任者たちは今後の計画を立てる為、羽曽部社長の指示に従い会議室にそのまま残った。
仁も他の責任者と同様に品質管理課の責任者としてその場に残る事となった。
慈愛の残していった地図の周りに集まり、緻密な計画を意見交換しながら練り上げた。
水路のルートを決め、分担を決定し、従業員たちが順調に作業を進めるための計画を組み立てていった。




