第71話 内部反乱
翌日も仁と真那は薬草採取の任務に臨んでいた。
二人はウィスドムホールの街からそれほど遠くない場所にある採取地を選び、地道に依頼をこなしていった。昨日の成果を思い出しながら、今日もやる気を出して薬草を探し、丁寧に収穫していく。
その穏やかな作業の中にも、脅威が忍び寄ってくる。度々モンスターたちが襲い掛かってきたのだ。ウサギに似ているが耳がやたら長い[フワープ]や、カラスに似た[ダークロウ]などだ。
しかし、仁と真那は決してひるまず、剣や魔法の力を駆使して的確な攻撃を放ちながら、襲いかかるモンスターを次々と撃退していった。
「フワープがこんなに多いなんて・・・」
真那がスティックを握りしめながら息を切らし呟いた。
「ダークロウも厄介だな、たまに群れで来る・・・。だけど、ここで引くわけにはいかない!」
仁は気合を入れるようにゾルを構え直し、次の襲撃に備えた。二人は背中合わせに周囲を見渡し、死角を無くして立ち向かっていく
その度に衣服は汗で湿りを帯びた。心臓は高鳴り、疲労は身体を襲い始めた。しかし、仁と真那は互いに力を与え合い、困難に立ち向かっていく姿勢を崩さなかった。
薬草の採取クエとモンスターの迎撃を交互にこなしつつ、それもようやく終わりが見えた。
「これで最後の一枚だな」
「今日は本当に長い一日でしたよ~」
仁が薬草を摘みながら言うと、真那も最後の薬草を収穫し、満足げに微笑んだ。
昨日よりも長い時間が経過し、ついに薬草の採取は完了した。二人は持ち帰るべき豊富な収穫を手にし、充実感と達成感に満ちた表情を浮かべた。
ギルドへ向かい成果を報告した後、シルバーローズ・ホテルに戻り再び慈愛との通信を試みようとする。
しかし、今日も通信が繋がることはなかった。
「どうして繋がらないんだろう・・・」
「え?またか。どういうことだよゾル?明日にはセイジたちがそっちに着くから色々と話したかったのに」
「ワシに聞いても知らんゾ、ネフィリアから一方的に中止と言ってくるだけジャ」
真那が心配そうな顔をしている。仁自身も無論心配ではあるが、その前に真那のケアも必要だと考えた。慣れない異世界での冒険に加えての心配事はストレスになりかねない。
「大丈夫だよ、真那。羽曽部食品には優秀な人材が揃っているし、慈愛もいる。ネフィリアから連絡が来るってことは、仮にトラブルがあったとしても少なからず無事だってことだからさ」
「でも・・・」
真那は少し黙り込んだ後、ポツリと漏らすが、仁は真那の背中に優しく手を置いて不安を払拭するように力強く言った。
「俺たちは俺たちのやれることをしっかりこなしていこう。明日はテレッドの情報収集と街の探索をしようか」
真那はうつ向いて少し考えていたが、顔を上げて仁を見た。
「ありがとうございます。なかなか自分の性格って気持ちが切り替えられなくって、不安なことばかり考えてしまう癖があるんです。でも今は仁やゾルが一緒だから、頑張れそうです!」
その言葉に、仁はホッとし、胸を撫で下ろす。気分が戻った事で、いつもの調子に戻すかと仁は冗談を飛ばす。
「そかそか、頭ナデナデしてやろうか?」
「いいですよ~もう、寝る部屋に行きますね!」
真那はまんざらでもない顔をしながら、共有スペースから部屋に戻った。
ゾルが仁を無言でジッと見ていた。
もともとゾルの顔はエジプトのミイラのように包帯グルグルで口の位置はわかるが目は見たことない。しかし、ゾルの視線を仁は感じていた。何か言いたそうな雰囲気が気に掛かり仁はゾルに話し掛けた。
するとゾルは、仁と真那、二人は長所短所が面白いように異なっているが、それをお互いが補う役目を担っているからこそ、歯車が上手くかみ合って冒険に役立っていると言う。
確かに以前から二人は仲が良かったし、他の部下や後輩に比べて気が合うのは仁もわかっていた。改めて言われると何か照れくさく感じていた仁だが、それで冒険に大いに役立つなら、それはそれで心強く感じていた。
◇◇◇
そして同時刻、羽曽部食品の物流センターでは依然として混乱が続いていた。本社棟や工場にいる従業員たちは、怒りや不満を募らせ、心の奥底で大きな不安を抱えていた。
水も電気も確保され、農業も始まり起業する準備も進んでいた中での反乱は、皆の気持ちを落胆させるには十分であった。
羽曽部食品の上層部は事態の深刻さを理解し、交渉を試みるも、反乱者たちは一層警戒心を強め、外部との接触を頑なに拒絶していた。
その結果、物流センターは依然として反乱者たちの支配下にあり、解決策が見えないまま時間だけが無情に過ぎていった。
本社棟の慈愛が寝泊まりしている大会議室。そこで慈愛は首謀者である営業本部長の神谷を除く役員たちを集め、ソファに横たわりながらため息をついた。
「まったく、内輪揉めなど起こしている場合ではなかろうに」
「誠に申し訳ありません。まさかこんなことになるとは・・・」
社長を含む役員たちは困惑の表情を浮かべていた。その中には、占拠された物流センターの責任者であるセンター長の[高橋誠司]の姿もあった。
高橋は今回の反乱の首謀者である神谷と同じ役員ではあるが、直属の部下にもあたる。神谷とは昔からの顔馴染みではあるが今回の反乱には加わらなかったのだ。
誘いが来なかったわけではない。水面下で動いていた反乱計画も耳にはした。しかし、本当にこんな馬鹿げた事を上司である神谷が実行するとは思っても見なかったのだ。
しかし、慈愛は内心で予測していた。この異世界という未知の環境で、精神がまともでいられる人間は少ない。一種のパニック状態が長引けば、それがまるでウイルスのように広がり、取り返しのつかない事態になってしまう。
「じ・・・慈愛様から反乱をやめるよう言ってもらえませんでしょうか?」
高橋が苦しそうな声を上げた。その眼差しは後悔と未然に防げなかった自身の弱さを露呈していた。
慈愛は静かに目を開け、重々しい声で答えた。
「うむ、このままでは旅に出ている二人にも申し訳ないしの。それなら、適任者が明日には到着するはずだから、それまで持ちこたえるのじゃ。余計な手出しはせんでよい」
役員たちは一様に頷き、なんとか冷静を保とうと努めていた。明日到着する適任者に全てを託すしかないのだ。
この適任者とは一昨日の通信で話していたセイジと言う異世界人のことだと役員たちは気付いたが、彼の詳細はまだ知らされていない。しかし、いくら頭が良いと言っても暴徒と化した従業員にどう立ち振る舞えるのか。
しかし、今は・・・慈愛の言葉を信じるしかなかった。




