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第67話 100年前の異世界転移

 シルバーローズ・ホテルで簡単に朝食を済ませた仁と真那は、さっそく冒険者ギルドに向かった。昨日イーサンと歩いた道をそのまま戻って行く。

 ここウィスドムホールは巨大都市の部類に入る為、所々に設置されている周辺の詳細な地図が貼ってあるのを発見すると真那がスマートフォンで撮影していく。


 昨日に訪れた冒険者ギルドに着き、二人はまず提示版を見てみる。すると薬草の採取依頼というのが目に留まる。


*****

薬草採取依頼

【依頼名】:フェザーフォールの採取(50枚)

【依頼主】:ウィルヘルム・アルデン

【報酬】:2000ルーン

【依頼期間】:無期限

【依頼内容】:冒険者の皆様にお願いです。私は薬剤師として働いており、新しい治療薬の開発にフェザーフォールという薬草が必要です。フェザーフォールは特定の地域にのみ自生しており、採取にはある程度の知識と慎重さが必要です。

 フェザーフォールは高地の森林地帯に生息しています。具体的な採取場所は、ギルドの案内板に記載されています。

 フェザーフォールは白い花を持つ小さな草であり、葉には繊細な羽毛状の模様があります。確認する際には注意してください。

 必要なのはフェザーフォールの葉部分です。一房から数枚の葉を採取し、丁寧に包んで持ち帰ってください。

 依頼の完了は、採取したフェザーフォールの葉をギルドのカウンターに提出することで確認します。

 採取には慎重さが必要です。フェザーフォールの生息地は他の危険な生物や植物と共有されていますので、適切な装備と警戒心を持って行動してください。採取したフェザーフォールは私の手に届けば、新たな治療薬の開発に役立てられます。


 ご協力いただける冒険者の皆様に感謝申し上げます。どうか安全に採取を行い、依頼の完了をお知らせください。

 ウィルヘルム・アルデンより

*****


「なるほど、こういう感じで依頼がされているのか」


 仁は貼り出されている依頼書に目を通していた。内容を確認していると、背後から女性の声が聞こえた。


「あ、昨日イーサンと一緒にいた冒険者さんじゃないですか?」


 声の主は、昨日ギルドの受付で対応してくれた女性だった。仁は振り返り、彼女にちょうど良いと質問した。


「ギルドに登録しなくても、依頼を受けられるのですか?」


「はい、素材の採取依頼や買取に関しては、ギルドに登録しなくても大丈夫です。報酬は現金で支給されますが、成功した場合にはギルドが依頼主に報告し、成功報酬を徴収してから支払われます。その為、その場でお金を受け取ることはできず、数日かかることもあります。」


 仁と真那は一瞬考えた後、受付の女性に賛成の意を示した。女性は依頼書を掲示板から丁寧に剥がし、仁に手渡した。


「そうしましたら、この依頼書をカウンターまでお持ちいただけますか?」


 仁は依頼書を手に取り、真那とカウンターへと向かった。


「素材の採取って具体的には何をするんだろうな。ただ見つけて集めてくれば良いのかな?」


「採取方法も詳しく聞いてみましょう。それにウィスドムホールの周辺では、薬草や鉱石、珍しい植物などが多く採れるらしいですよ。そこの提示版に書いてありました」


 二人はカウンターに到着し、先程の依頼書を受付の女性に渡した。女性はにっこりと微笑んで応対した。


「ありがとうございます。依頼の詳細について説明しますね。この依頼は近くの森で特定の薬草を採取するものです。森には魔物が出没することもあるので、十分注意してください。」


「「魔物?」」


 仁と真那はハモるように驚いた。確かに素材を集めるだけならわざわざ依頼をしないだろう。魔物が出るからこそ、冒険者ギルドに依頼をしているのだ。


「魔物と言いましても、この辺じゃそんな凶悪なモンスターは出ませんので安心してください。昨日に討伐報告していた魔狼グリムウルフに比べれば大したことありませんよ」


 できる事ならあまり危険は冒したくないが、背に腹は代えられない。今後の活動資金も必要となる。仁と真那は顔を見合わせお互いの了承を得るかのように頷いた。


「了解しました。時間が掛かるかもしれませんが、依頼を受けます」


 仁はそう言ってカウンターで受付を済まし、案内板にある地図を撮影して冒険者ギルドをあとにした。



 次はいよいよ旅の最初の目的地である図書館へと足を運ぶ。


 ウィスドムホールの図書館は神託書院(しんとうしょいん)と言い、豊富な知識が集まる場所として知られていると慈愛は話していた。


 神託書院は高くそびえる塔を持ち、その存在は遠くからでも目立っていた。街道を歩く仁と真那にとって、それはまさに道しるべであり、目的地を示す灯台のような存在だった。


 神託書院の前に到着すると、その建物の壮麗さに息を呑んだ。石造りの重厚な外壁には繊細な装飾が施されており、屋根には銀色の装飾が光り輝いていた。その輝きは太陽の光を反射し、まるで魔法のような幻想的な輝きを放っていた。


 仁と真那は[神託書院]と銘打たれた入口の扉に手をかけ、そっと開けた。

 その瞬間、突然の衝撃が仁の腹に走った。「ドスン!」という音と共に、まるでボディーブローを受けたかのような痛みに、仁は思わず息を詰めた。


 何事かと状況を確認すると、目の前には尻餅をついている子供が見えた。この子供が扉を開けた途端にどうやら突っ込んできたのだ。


「イテテ・・・あれ?ブーボハムのおじさんじゃん?」


 ぶつかってきた子供は、レイクサイドで出会ったセイジだった。セイジは図書館の貸し出し可能な本を配達していると言い、立ち上がると急ぎ足で図書館を出て行った。


 仁はその姿を見送りながら、真那に向かって軽く肩をすくめた


「まだ10歳ぐらいなのに新聞配達的な事をやってるのか。現代日本のご時世じゃ考えられないな」


 仁は腹をさすりながらもセイジに感心してようやく神託書院に足を踏み入れる。



 館内には広々とした空間が広がり、書物のどこか懐かしい香りが漂ってきた。図書館内部は美しい大理石で装飾され、天井には複雑な彫刻が施されていた。書物を置く棚は壁一面に配置され、無数の本がずらっと並んでいた。


「さて、<落ち人>を建物ごと元の世界に帰す方法なんて言う本があれば楽なんだが・・・」


「考え方としては似たような事例が載っている本とかですかね。例えば見方を変えて<突然現れた建物>とか<消えた建物の謎>とか」


「なるほど、それらしい事実の載った本か。探してみよう!」



 小一時間、仁と真那は手分けをして探すが一向に目的の本は見つからない。そもそもそんな本があるかもわからない。

 途方に暮れる二人だが、「仕方がない」と探すのを諦め、図書館の職員に聞くことにした。なるべく怪しまれずに遠回しに。

 そもそも<落ち人>と言うキーワードが一般のデルカニア人には認知されていないのだ。ある意味、現代社会の「宇宙人が本当にいるかどうか」ぐらいの認識だと慈愛は言っていた。


 近くの本棚を整理していた職員に話しかける。神託書院の職員には各専門分野に詳しい人が割り与えられているとの事であった。しかし、仁と真那の質問では、その担当職員が誰になるかわからないとのことで、館長に聞いてみた方が良いらしいと教えてもらった。



 神託書院の館長は中央のひと際大きい椅子に座って何やら書類整理を広い机でしていた。いかにも館長らしい風貌で年齢100歳近いか、その老齢の証として、彼の顔はしわに覆われ、知恵と経験を刻んだ皺が深く刻まれている。彼の一番の特徴は、長く垂れ下がった純白の髭である。白髪は豊かに生えており、彼の顔半分を覆っている。仁と真那は近くまで行って声を掛ける。


「お仕事中申し訳ないです。探している本がありまして、職員の方に館長に聞いてみてはと言われましたので」


「ふむ、どういった本をお探しかな?」


「上手く言えないのですが、こう別世界から来た建物が突然現れたりとか消えたりとか、そういう類の本なんですが」


「別世界・・・。<落ち人>の建物版かの?主らは<落ち人>なのか?」


 仁と真那の表情に緊張が走る。まさか神託書院で突然に<落ち人>と見透かされてしまうとは思っても見なかった。

 まずい、何か言葉を発さないと怪しまれる。そう仁と真那が考えている隙を付いて館長は言葉を続けた。


「ふぉふぉふぉ、まぁそんな事はどちらでも良い。主らは悪い人間でもなさそうじゃしな」


 その言葉に二人は安堵する。そして「すみません」と一言お礼を言う。今はあまり話せない事情があるので遠回しの質問になってしまう事を改めて詫びた。


「さて、私の知っている内容を今から話すが、これは事実であったかどうかも定かではない。私は<落ち人>という他の世界から来た人間を見たことないからの。ある意味伝説的な話だが・・・」



 館長の話では、100年程前、デルカニア大陸の南東に位置する小さな島に突然町が現れた。街と言うより村に近い小規模な集落であった。言葉は通じるが異なる文明を持っており、魔法は使えないが妙な形状の武器を持っていた。

 その武器からは鉛の玉が発射され、誰にでも使えるという点においては魔法に匹敵する殺傷能力を持ち合わせていた。


 それを聞いた仁と真那は目を見開いた。


「(拳銃だ!間違いない、過去にも大規模な異世界転移があったんだ・・・)」


 二人はそう心の中で思い、顔を見合わせて頷く。館長の話に大きな手掛かりの予感がしていた。



 館長の話は続く。

 彼らは元の世界に帰る方法を探し[大賢者]と呼ばれていた者に知恵を借りて戻る方法を探しだした。

 しかし、最後は失敗して海の底に島ごと沈没してしまったという結末であった。


「失敗して海の底に沈んだ?その辺の詳細が書かれている本がありますか?」


「本なんてものはない。これは祖父から受け継がれてきた話じゃ。話に出た大賢者とは私の祖父にあたる人物じゃ。だから、ただの作り話に近いんじゃよ」


 いや、館長の話には信ぴょう性がある。拳銃がそうだ。実際起こった事が受け継がれているんだ。

 仁と真那は今の話を聞き、無言で考えていた・・・。

 このまま今の話だけ聞いて帰るわけには行かない。館長から、その受け継がれてきた話の詳細を聞くには協力者になってもらう必要がある。仁は全てを隠さずに話して理解を得ようと決心した。


「先ほど、全てを話せないと言いましたが事実を言います。私たち二人は館長の言われた通り<落ち人>です。六賢者の一人、慈愛の居る森に建物ごと298名がこちらの世界に転移してしまったのです」


 それを聞いた館長は顔を上げ無言で驚いた顔をしたが、黙って頷き立ち上がると、こちらで話を聞こうと手招きし別室に案内してくれた。それは他の人に話を聞かれないように配慮してくれたのだろうと二人にはわかった。


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