第64話 ウィスドムホールの冒険者ギルド
街に馬車が到着したのは午後3時過ぎであった。まだ日は十分に明るい。ここでは情報収集も兼ねて長く滞在することになりそうだ。
馬車は街に入り停留所に向かっていた。街並みはレイクサイドと似たような建物が並んでいたが、中にはビルの様に高い神殿のような建物も多く見てとれた。
レイクサイドの街もそうであったが、その清潔さと美しさが一番の印象に残る場所であった。道には一片のゴミも落ちていない。その景観はファンタジー世界そのものであった。
「この辺りの地域は王都が近いから法律がとても厳しいんですよ。ゴミをその辺に捨てる者には厳しい罰金が科せられます」
バルダが二人にそう説明すると、真那は指を2本立てて口元に持っていき、タバコを吸う仕草をして仁を見た。まるで、吸殻の処理に気をつけろという無言のメッセージを送っているかのようだった。
仁は少し苦笑しながら真那を見返す。品質管理という職業柄、仁はポイ捨てなどは絶対にしない主義だ。いつもポケット灰皿を持ち歩いているのもそのためだ。真那もそれを知っているはずなのに、わざわざ牽制してきたのだ。
「はいはい、手持ちがなくなればもう吸いませんよ」
仁は少しうんざりした顔で真那に返事をした。
そう言えばもう一つ聞きたい事があると、仁がバルダに問いだした。
「お米ってあまり流通していないんですかね?この間スーパーでも見掛けなかったので」
「ああ、お米ですか。あれは地域によってですね。確かにこの辺ではあまり流通してないかもしれません。でも東に行けば行くほど手に入りやすくなりますよ」
仁は真那に喜びの顔を見せた。異世界でもお米が手に入る。今後はバルダを通じて羽曽部食品にもお米を卸してもらえるかもしれない。しかしそれは、羽曽部食品が起業して異世界のお金を手に入れてからだが。
「バルダさん。色々と貴重なお話をありがとうございます」
停留所に着き、商人家族にお別れの挨拶をする。
御者にもお礼を言い、次に兵士にお礼を言おうとしたところ少し待って欲しいと兵士は言った。
「お二人はグリムウルフを討伐しました。ギルドに行けば討伐金がもらえますよ」
話によると人を襲うモンスターに認定されている場合は、討伐した証拠を持っていけばギルドからお金がもらえるらしい。仁は証拠など持っていないと話をしたが、兵士がこれが証拠ですとグリムウルフの牙を見せた。あの襲撃が終わり仁と真那がテントに戻った後、兵士が見張りをしながらグリムウルフの牙を回収していたらしい。
二人は話にも聞いていた冒険者ギルドに興味があったので、兵士にお願いをしてギルドまで同行することにした。
ウィスドムホールの冒険者ギルドは、大きな石造りの建物で市街地の一角に佇んでいた。その外観は重厚感と冒険の雰囲気を漂わせており、まるで古代の要塞のようであった。
ギルドの入口には二つの巨大な木製の豪華な大扉があり、彫り込まれた魔法の文字や剣と盾の装飾が施されており高級感が漂っている。
仁が扉を開けると、ギルドの中庭が目の間に広がる。中庭は緑豊かで美しい花壇や木々が配置され、冒険者たちが情報を交換し、仲間を募ったりする場の様であっだ。
更に奥に進むと広々とした大ホールが広がっていた。ホールの中央には大きな受付カウンターがあり、受付係のギルドスタッフ3名が冒険者たちの登録や依頼の受付を行っている。壁には地図や依頼の掲示板があり、冒険者たちはそれらを眺めながら次の冒険の計画を練ったり、仲間を募ったりしていた。
また、ギルド内にはアイテムショップや装備品の修理所、食堂なども備えられており、必要な物資や休息を取る場所も充実している。
「イーサン、お久しぶりですね」
受付をしている女性の一人が兵士に声を掛ける。今更ながら兵士はイーサンと言うのか、「兵士さん」とずっと呼んでいたから聞きそびれてしまっていた。
イーサンは討伐報酬が欲しいとグリムウルフの牙を差し出す。3人パーティーで討伐したことを受付に伝えた。
しばらくして受付嬢が何やら資料を作成し、困った顔をしてイーサンに話しかけた。
「イーサン、申し訳ないのですが報酬を受け取れるのはイーサンだけです。後ろの二人は名前が登録されていません」
「え、まさか?仁さん、真那さん!ギルドカード出してください」
何となく仁は感づいていた。やはり登録していないと討伐報酬はもらえないのか。例外として素材の買取だけならもらえるらしいが、登録をしていないと提示版の依頼や、ギルド内の施設も利用できないらしい。ここで知らなかったなど言ったら素性が怪しまれる。仁はわかっていたかのようにイーサンに答える。
「討伐報酬は全てイーサンが貰ってください。私たちはウィスドムホールに来たのが初めてだったので、冒険者ギルドの場所とかを知りたくて付いて来ただけですから」
そんな訳にはいかないと兵士はずっと断り続けていたが、仁たちもギルドに登録する気もないし貰うことも出来ないからと押し通した。
報酬が現金で貰えるなら分けてもらえば良いだけだが、ここウィスドムホールの冒険者ギルドでは、ギルドカードに金額を記憶させてから数日後にまとめて報酬が受け取れるシステムであった。
あれほど戦闘の出来る仁と真那がギルドに登録していないことをイーサンは不思議に感じていたが、今回の馬車の護衛とグリムウルフの報奨金をカードに記憶させ、二人に何かお礼をすると言った。
それならばと真那が値段もリーズナブルで良い宿屋を教えて欲しいとお願いした。そんなことならばとイーサンは二人におススメの宿屋へと案内すると言ってギルドを後にした。
宿屋へ向かう道中、イーサンは自分は冒険者ランクCであり、毎日のようにギルドに顔を出しては依頼をこなしていると言っていた。仁と真那は田舎暮らしが長いせいであまり詳しくないのでもっと教えて欲しいとお願いしてみた。
冒険者ランクはFからSSまであり、最初の適性試験でEかFになるという。冒険者という職業を生業としているほとんどがランクCで、それ以上は専属に雇われていたりするそうだ。
ちなみにイーサンが知っているSSランクは六賢者と神出鬼没の虎峰だと言う。この虎峰というのに目を付けられることはないだろうが注意するようにと言っていた。
仁と真那は初めて聞く名のように黙って頷いた。
「ハックション!!」
「ニャー!誰か虎峰の悪口言ってるニャー」
「私みたいな善人は悪い噂されませんよ。それより仁と真那はウィスドムホールに到着したみたいですね。ここでは情報収集ですか・・・。あとリム、上空は少し寒いのでもう少し下降してくださいね」
「世界最強が何を言ってるニャー」
「戦わなければ私だって普通のヒトですよ」
虎峰は鼻をすすりながら謙遜したかのようにリムに答えた。
イーサンに連れられ二人は[シルバーローズ・ホテル]と言う名の宿に着いた。
シルバーローズ・ホテルはウィスドムホールの中心部にそびえ立つ優雅な建物で、その外観は銀色に輝き、芸術的な装飾が施された美しい建築様式を特徴としていた。
一階部分には大きなアーチ型の入り口がそびえ立ち、ゴシック調の彫刻が施された扉が見えた。その扉の両側にはシルバーのバラのモチーフが飾られ、優雅さと華やかさを演出していた。仁は結構お高いのではと内心心配をしていたが、そんな心配をよそに真那はその宿の見た目にとても喜んでいた。
「(まぁせっかくイーサンが連れてきてくれたし、モノは試しに泊まってみるか)」
仁は自分にそう言い聞かせて真那にここにしようと伝えた。イーサンは空きがあるか確認してくると言い、どんな部屋が良いか希望を二人に訪ねた。
「枕が二つあればそれだけで十分です」
仁が答えると真那が仁の腹を肘で強く突く。
「うっ」
「1つの部屋に個室が二つ以上あるのが良いです」
真那が即座に仁の言葉を覆い隠すように発言した。
「え、良いのですか?お二人は夫婦か恋人かと思っていました」
「違いますよ~、まだ嫁入り前なので修行中なのです。仁は保護者みたいなもんですよ」
「そうでしたか。しばらくお待ちくださいね」
イーサンは苦笑いして二人を入口に残し建物の中に入っていく。
「ちょっと仁、適当なこと言って!」
「真那、仁は溜まっとるんジャ。色々とな」
ゾルもイーサンがいなくなったとたんに喋りだした。
「おいおい、少し言葉足らずだったが変なことは言ってないぞ」
「いや、あわよくばの考えジャな」
・・・ゾル、剣は錆びているクセに妙に鋭い言葉で突っ込んでくるなと見据える仁。
「そうなの!仁!」
真那が頬を膨らませて顔を近づけた。
「溜まってるかの話?」
仁は少し真那をからかってみた。すると真那は慌てたように言葉を返した。
「そうじゃないです!"あ・わ・よ・く・ば"の話です!」
真那が耳を赤くしながらムキになっているとイーサンが帰ってきた。
「希望通りの宿が取れました。それでは私はこれで!」
仁と真那はすぐに話を止めて、イーサンに感謝の意を伝えるために近づいた。
「イーサン、本当に助かったよ。ありがとう」
イーサンは温かな笑顔で頷いた。
「いえいえ、こちらこそとても助かりました」
真那も頷きながら言葉を掛けた。
「本当に助けてくれて感謝しています」
イーサンは二人の言葉に謙虚な態度を見せ頭を下げながら答えた。
「お互いに助け合えたのは幸運でした。仁さん、真那さん、本当にありがとう。」
三人の交わした感謝の言葉が空気に満ち、心地よい雰囲気が漂った。イーサンはそれじゃまたと手を挙げてその場を後にした。
イーサンを見送り、二人は宿屋に入って受付カウンターに行く。小太りのチョビ髭を生やした男が片手で髭を触りながら二人が来るのを待っていたようだ。
「イーサンの紹介の方ですね。こちらがカギです。夕食付き1泊分の料金は頂いておりますので、それ以降に続けて宿泊するなら追加で料金を払ってください」
二人は顔を見合わせてビックリしたが聞くところによると、どうやらイーサンは既に二人の為に料金を前払いしていたそうだ。宿屋に泊まる際にはギルドカードを登録しておけば、後日支払いされる金額の一部が宿屋に支払われるらしい。
「なんて律儀な人なんだろうか。レイクサイドであった同じ冒険者ランクCの小物とは全然違うのな」
「戦い方だって槍の使い方が素人目でも上手に見えましたよ。本来はもっとランクが上だったかもしれないですね」
様々な出会いが続く冒険の旅、仁と真那は胸を躍らせながら部屋に向かったのであった。




