第63話 高級食材メロキシス
翌朝、馬車は順調に山を越えていく。仁と真那は馬車に揺られながら眠っていた。
昨日のグリムウルフの襲撃から、朝まで神経を研ぎ澄ませて寝ないでいた為か、仁と真那は馬車に乗ったとたん爆睡してしまった。
「昨日は彼等がいて助かりました。昼食まで寝かせてあげましょう」
兵士が商人家族にそっと声を掛ける。商人家族もうんうんと頷き、エルミナにも静かに景色を見て楽しもうと話していた。
移動する馬車の上空からリムに乗った虎峰が様子を伺っていた。
「リム、アナタ何かしました?」
「バレたかニャ。グリムウルフを使って二人を襲ってみたのニャ。虎峰と一緒で暇つぶしニャー!」
「仮にも[十二神獣]であるアナタが暇つぶしですか。グリムウルフには何て言ったのです?」
「野営している馬車を襲撃しろ!さもないと一族を皆殺しにするニャー!とお願いしたのニャー」
「ふぅ・・・、ほどほどにしてくださいねリム。私が先に彼らに目を付けたのですから」
「はいニャー」
「あと、それはお願いじゃなくて脅しですよ。一応[神]と言う名が付いているんですから間違えないようにしてくださいね」
虎峰は付かず離れずの距離で仁と真那の動向を追いかけていた。唯一自分に傷を付けた<落ち人>に一目置いたのか、それとも虎峰に別の思惑があったのかは、彼のみぞ知ることであった。
◇◇◇
昼過ぎ、いい匂いが漂ってきて仁と真那が目を覚ました。商人家族は昨晩のお礼にと、昼食を皆に振る舞っていた。
広い草原の上に座敷シートが敷かれ、仮設のテーブルが設置されていた。そこには、鮮やかな彩りと誘われる香りを放つ料理たちが並べられていた。
彩り豊かなサラダが、新鮮な野菜とともに彩りを添え、その横には香ばしく焼き上げられた肉料理が並んでいる。ジューシーなステーキの香りが漂い、口の中で広がる肉の旨みに舌鼓を打っていく。
バルダ一家は、仁と真那、御者や兵士たちに料理を振る舞いながら、妻のリリアナが感謝の言葉を述べた。
「昨晩のグリムウルフの襲撃には本当に助けられました。この料理は私たちの感謝の気持ちを込めて用意しました。どうか召し上がってください」
リリアナは温かな笑顔で皆にそう伝えた。
最後にデザートとして[メロキシス]という名の果物が出された。これは珍しい食材だとバルダは言い皆に切り分けた。
その見た目からはまさしく元の世界にあったメロンであった。仁と真那は顔を見合わせて「もしや」と思いながらメロキシスを口に運んだ。
『まさか、こんなに美味しいメロンが異世界にあるなんて』
仁は目を輝かせながら小声で真那に話しかける。口の中に広がる甘さは、まさに元の世界で味わった高級なメロンと同じだった。その芳醇な香りと濃厚な果汁が、舌の上で踊り至福の表情を浮かべさせた。
真那も仁と同じく驚きの表情を浮かべながらメロキシスを頬張った。
『信じられない、本当に元の世界のメロンと同じ味がするね』
真那も小声で仁に感嘆の声を漏らした。メロキシスの果肉は柔らかく、口の中でとろけるような食感で、甘さの奥にほんのりとした爽やかさが広がっていた。
二人はメロキシスを食べながら、口の中に広がる贅沢な味わいに心を奪われていった。まるで元の世界の高級なメロンを食べているかのような感覚に、驚きと感激が入り混じった幸福感が満ちていた。二人はこの異世界でメロンに出会えたことに感謝しながら、ゆっくりとメロキシスを堪能し続けた。
メロキシスだけではなかった。仁と真那、御者や兵士たちは、心から感謝の気持ちを受け止めながら、次々と料理に手を伸ばしていく。
口に運ぶ一口ごとに、新たな味わいと異世界の文化を垣間見ることができた。最初は赤の他人同士であったが食事の時間を通じて、互いの絆を深め、限られた時間ではあるが共に過ごす旅路の大切さを再確認した。
これは後でバルダから聞いた話だが、メロキシスは異世界で高級食材の部類に入り滅多に口にすることはないらしい。バルダはこのメロキシスなどの様々な食材を専門に取り扱っている商人のようであった。
他にも果物らしき名前をあげていたが、<落ち人>である仁と真那にはどんな果物なのか想像が出来なかったので、話に合わせて相槌をしていた。
食事も終え、再び馬車は進んでいく。仁は昼食のお礼にとブーボハムをバルダに差し出した。バルダはちょっと失礼と言いナイフで端を切って口に入れる。
「ヤーヤー!これは旨いハムですな!何の肉を使ったハムです?」
ブーボと答えるとレイクサイドの宿屋と同じ驚きの反応をしていた。また、仁は今後、これを大量に生産して販売したいとも話した。
「素晴らしいですね。このハムが市場に出回るのが楽しみです。販売に関して言うならばギルドを通すのが一番簡単ですが取り分が減ってしまいます。そこは話し合いにもよりますが、もし困ったことがあれば私に相談してください。普段、私はレイクサイドに住んでおりますので」
バルダはサッサッと紙に住所を書き仁に手渡した。バルダはレイクサイドやウィスドムホールに食材を卸している商社的な役割の仕事をしているらしい。
これは二人にはありがたい申し出であった。よくわからないギルドを経由するよりかは、短い間でも一緒に旅をして意思疎通のできたバルダを頼った方が良い。仁はこの家族が悪い人ではないことを自身も知らぬ間にスキルで[見抜いて]いたのだ。
「あー!見えてきたよー」
エルミナが小さい手で指をさしている。仁と真那も窓から身を乗り出すようにして先を見る。
そこには遠目からでも大都市と思える街並みが見え、高い建物も数多くあった。
ウィスドムホールは大陸でも有数の知識と学問の中心地である大都市である。
広大な都市は壮麗な建物と繁栄した文化が融合し、知識と知識を求める人々が集まる場所として知られており、人口は約30万人。レイクサイドはのどかな暮らしと観光客を迎える温かい雰囲気が特徴である街だが約5000人の規模である。それを考えるとかなりの大都市と言える。
多様な文化や民族が共存しているウィスドムホールには、学術研究所や図書館が数多く存在し、古代の書物や珍しい知識が保管されている。
また、大学や学校も多くあり、デルカニアの教育の中心地としても知られている。街の中心部には繁華街や商業地区が広がり、多くの人々が活気ある生活を送っているのだ。
元の世界に帰る方法をこの大都市で見つけることが出来るか、期待を胸に仁と真那は徐々に近づくウィスドムホールの街並みを眺めていた。




