第60話 ドワーフの食事処
荷物の送付を終えた二人は[グラニットキッチン]に向かった。一つ隣の街道へと移動し歩いているとグラニットキッチン]の看板を発見し足を踏み入れた。
店を切り盛りしているのはドワーフと呼ばれる種族であった。仁の知識だとドワーフは武器職人のイメージであったが料理もこなすのかと少し驚いた。店内は重厚な石造りで、温かみのある照明が優しく輝いていた。全てドワーフ達の手作りだろう。ドワーフ達は活気づいていて小さな身体に鍛え上げられた筋肉を宿し、店内は調理の音や笑い声が響き渡っていた。
仁と真那は店内を見回していたところ、接客の女性ドワーフに空いてる席へと案内される。女性ドワーフも小柄でありながら筋肉質で力強さを感じる風貌だ。
二人がメニューを取ると、異世界ならではの料理が詳細な絵で描かれて沢山載っており、初めて見る食材や料理名が目に飛び込んできた。興味津々の二人は、何を注文するか悩みながらもワクワク感を抱えていた。
「仁、どれにしようか迷うね。こんなに美味しそうな料理がいっぱいある!」
真那はメニューを見ながら上半身を乗り出して楽しそうに仁に話しかけた。それを見た仁も微笑ましくなり真那に話しかける。
「そうだな、本当に魅力的な料理ばかりだ。じゃあ、いくつかの料理をまたシェアしながら頼んでみよう」
真那はうなずきながら賛成し、二人は注文を決めた。グラニットキッチンの看板メニューである[ドワーフのグリルプレート]や[モルテンスープ]、そして[ドワーフ族の特製サラダ]など、異世界ならではの食材や調理法が織り成す魅力的な料理を選んだ。
しばらくして、料理が運ばれてきた。仁と真那は各々が取りやすい位置に料理をテーブルに配置した。グリルプレートからは焼きたての肉と野菜の香りが漂い、モルテンスープの表面は熱々のまま波打っていた。サラダは鮮やかな彩りと爽やかなドレッシングが食欲をそそっている。
二人はお皿に各々の料理をシェアしながら、異世界料理の新たな味わいを堪能した。初めて口にする風味や食材の違いに驚きながらも、それぞれの美味しさを共有した。一口ごとに感動が広がり、会話も弾んでいた。
「この肉、とてもジューシーで旨味が凝縮されているね。こんな美味しい料理が異世界にあるなんて、ビックリだ。この肉はブーボじゃないね。牛肉に近い味わいだ」
仁が舌鼓を打ちながら言うと、真那も満足そうにうんうんと頷いた。
「そうそう!これまで食べたことのない味わいが沢山あって、新たな発見ができるって今更ながらすごい体験してるんだなって思いますよ」
「料理の情報も羽曽部食品の皆に伝えないとな。こちらの食文化に羽曽部食品の技術を合わせて売れる商品を開発しないと!」
二人は笑顔で会話しながら、料理を口にするたびに異世界グルメの魅力に酔いしれていた。
食事を楽しんでいる中、一人のドワーフが話し掛けて来た。そのドワーフは小声で仁と真那に声を掛ける。
『もしかしてお二方は羽曽部食品の方では?』
その質問に一瞬ギョッと驚いた仁と真那だが、それはすぐに解消された。何と話し掛けて来たドワーフは、羽曽部食品の電気問題を解決に導いた[バルク・ローガン]であった。
ローガンは慈愛に<落ち人>の事はもちろん口止めされている。だから小声で話し掛けて来てくれたのだ。羽曽部食品と言うキーワードを耳にし、居ても立っても居られず思い切って話し掛けてくれたようだ。
仁と真那は直接の関係こそなかったが、ローガンの姿はよく覚えている。何せ異世界に漂流後は、慈愛に続き2人目に出会った異世界人であったからだ。ローガンはよくこの店に顔を出しているらしかった。
仁と真那はその節のお礼を言い、現在の羽曽部食品の状況を伝えた。水路や電気が開通後は生活も豊かになり、現在は農業にも取り組んでいると話すと、ローガンは役に立てた事に大いに喜んでくれた。
食事も終わり、満腹感に包まれながらローガンに別れを告げ、店を出る頃には、二人の間には特別な思い出も生まれていた。異世界の出来事全てがこの旅の中で忘れられないひとときとなっていく。
しかし、それも元の世界に帰れば忘れてしまう事は本当に残念だと仁は不意に思っていた。帰還する際は記憶は全て消去されてしまうと言う慈愛の言葉が頭の中をよぎっていた。
だが、真那と一緒に異世界を冒険し、新たな発見や感動を共有することができるなんて、今までの平凡なサラリーマン生活からは考えられないことだなとも感じていた。
◇◇◇
二人はウォーターフロント・ロッジに帰り、慈愛との定例報告をする。こちらから通信を行うことが出来るかゾルに聞くと「大丈夫ジャ」と自信満々に言うので、こちらから通信を入れみた。
しばらくすると慈愛が応答した。その後、慈愛の後ろに通信が始まった事を聞きつけて羽曽部食品の従業員が集まっていく。
仁と真那は香辛料を送付したことや、ローガンと出会った事。そして食べた料理の詳細を羽曽部食品の皆に伝えた。
慈愛の後ろにいる皆からは「羨ましい」「二人ばかりズルい」などと声が飛び交っていた。
「仕事ですからね。こちらも命がけですよ」
観光気分と勘違いされては腑に落ちないので、仁は子供を攫ったゴブリンの事や、森で出会ったボルクの話も忘れずにした。すると慈愛はボルクを知っているかのようで、「昔は暴れん坊だったが今は丸くなっておるよ」と話していた。
最後に、慈愛から次の街までの移動手段について話が出た。
「次の目的地、[ウィスドムホール]はレイクサイドと比べるとかなりの大きな都市じゃ。しかし、そこまで辿り着くには山を一つ越えなければならないので野営は必須となる。物資を定期運送している馬車もあるが、乗れるならそれに乗るのも良い。じゃがどちらにせよ野営は必要となる筈じゃ」
馬車に乗ってみたいと仁は即座に反応した。馬車なんて現代社会では乗る事なんてほとんどない。
しかし気楽な二人旅も良いし、どうしたものか。有事に備えて徒歩で体力をあまり消耗もしたくない。運賃も気になる。馬車自体が安全なのかも気になるところだ。
「須沖課長、次の街までは遠いし馬車なら道もわかってるから迷うこともないだろうし、乗ってみましょう」
いきなり真那に須沖課長とか言われて仁はビックリしたが、それは皆の前だからであった。俺も皆の前では呼び捨てにしないように気を付けないとなと仁は意識した。
「よし、真那さん。明日は馬車で行こうか。後で宿屋のカウンターで聞いてみよう」
こうして、次の街まで馬車で行く事に決定したところで定例の報告会は終わった。
1階に降りてカウンターで馬車の事を聞き部屋に戻る。
昨日と同じように体の汚れと疲れを洗い取り、心と身体をリセットする。静かな夜の中で、仁と真那は自然の虫の音からでるリズムに身を委ねながら、新たなる冒険に備えるためのエネルギーを蓄えるため、深い眠りに落ちていった。




