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第28話 更生への道

 慈愛が寝床にしている大会議室は12階、慈愛は大会議室を出ると階段を降り、6階にある商談ルームへと向かった。後ろには仁と真那、そして小田も付いて行った。


 その商談ルームこそが小田が襲われた場所でもあり、そのまま男性従業員3人を拘束している場所であった。

 商談ルームの前に到着すると一息つき、慈愛は振り返り「開けるぞ」と言いドアノブに手を掛けた。


 扉を開けると中央に光りのロープで拘束され、座らせられている3人がいた。慈愛の魔法[バインド・エンスネア]で具現化した光のロープで、部屋の照度は申し分なく明るく照らされていた。


 拘束されている男性従業員は口までも猿ぐつわのようにロープで固定され、喋るのも出来ない状態であった。

 慈愛が再び姿を現した事で悲痛な表情を浮かべ怯えだした。それと同時に慈愛の後ろにいた仁たちの姿にも驚き、気まずそうな表情も垣間見せた。


 仁は男性従業員に無言で近づくと目の前で屈み、睨みつけるように顔を確認した。

 この3名は営業部の[篠田竜也][村井一樹][西田真吾]と言う名の従業員であった。3人とも25歳前後の若手社員である。仁もあまり面識はないが顔と名前ぐらいは知っていた。


「小田係長、こいつらどうする?二度と悪さできないようにハサミでア(・)レ(・)をちょん切るか?」

 仁が片手をハサミのように切るマネをして、あえて相手をビビらすような発言をして見せた。小田は目をパチクリさせ両手を左右に振って拒否する素振りを見せた。


 仁は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出しながら立ち上がると、上から威圧的に三人を見下ろした。このまま三人を反省させて野放しにしても良いのだろうか?それでは何の解決にもならないのでは?現実世界であれば、今回の行為は間違いなく犯罪に該当する。


 重苦しい沈黙が流れた後、慈愛が静かに口を開いた。

「こやつらの処分に困っておるのじゃろ?わしに考えがある」


 慈愛の考えでは、更生は必要だと考えている。しかし、大っぴらにそれを遂行するには周りの目がある。今回の犯罪とも言うべき行為が社内で行われたことが広まれば、協力すべき周りの同僚に疑念を抱かせる可能性もある。それにより、信頼関係が崩れ、組織としての機能が失われてしまう恐れがある。


 慈愛は三人の記憶を消すことに決めていた。

 無かったことにするわけではない。記憶は消すが、罪の意識は三人に残す。そして、その罪の意識を感じさせながら、自分には更生する必要があると認識させ、今後は特別な業務に就かせることにすると話した。


「特別な業務・・・とは?」

「プテラノドンの世話係じゃ。どうじゃ、お主らには恐怖じゃろ?」


 慈愛は拘束されている3人を見下ろしながら説明を続けた。少し会社から距離を置いた場所、他の従業員の目が届きにくい場所でプテラノドンの世話係を行わせるという。世話といってもエサやりや糞尿の処理といった、肉体的に厳しい作業が多いらしいが、結構な仕事量であると慈愛は話した。


 仁は慈愛の説明の後に小田を見た。小田は「それで良い」と頷いて合図をした。仁は小田の了承を得たことで、再び慈愛を見た。


「わかった。よろしく頼む」

 仁の声には決意と安堵が入り混じっていた。慈愛の厳格な表情には一抹の柔らかさが見え、ゆっくりと頷いた。



 これで一つの問題が解決に向かった。



 その後、仁は堀越本部長を通じて営業本部長である[神谷大介]に、本件の顛末を詳細に報告し、三人の処遇について正式に許可を得た。


 神谷は営業本部長として全国に点在する営業所を統率する責任者であり、堀越と同じく羽曽部食品の役員でもある。神谷は直属の上司というわけではないが、その影響力と権限は絶大だ。堀越が神谷に状況を説明した際、「馬鹿どもが」と呟いたという。神谷は昔ながらの厳格なタイプであり、パワハラ気質の持ち主で、言葉遣いも少々粗い。



 こうして、今回の事件の真相を知る者は一部の役員と慈愛、そして仁たちだけとなり、事態は収束した。



 事件後、と言ってもその日の昼間ではあるが、作業は無く休みとなっていた。品質管理課の部屋で皆が談笑したりと休息を取る中、小田は表向きは普段通りに振る舞っていたが、その瞳には以前には見られなかった影が宿っていた。彼女は必死に平静を装い、同僚たちと接していたが、その内面では深い傷が癒えることなく残っていた。


 仁は小田の姿を見つめながら、彼女の心の中で何が起きているのかを感じ取っていた。事件の記憶を消すことを拒んだ彼女の強さを尊敬しながらも、仁は彼女や部下たちをこれから守るために何ができるのかを模索し続けていた。



 一方、慈愛はプテラノドンの世話係に任命された三人の様子を監視し続けていた。無論、彼らに休みなど与えていなかった。処置の決まったその日から彼らを新しい仕事場へと慈愛は連れて行った。

 彼らが真に悔悟し、更生の道を歩むことを期待しての処置であった。日々の厳しい作業の中で、彼らの心に変化が訪れることを祈りつつ、慈愛は彼らの成長を見守っていた。


 こうして、羽曽部食品の一部で起きた闇は静かに封印され、8日目も終わり新たな漂流生活が再び始まろうとしていた。

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