第21話 水車の運搬
間野の暴動から一夜が明けた。
一晩寝た仁は冷静になり、稲木部長と間野を呼び出し、小会議室へと籠った。仁はこの世界が今だ未知数であることを二人に説明し、自身が経験したプテラノドンやサイとの決闘についても気が気ではなかった事を説明した。
ここにいる誰もが同じ気持ちを共有し、助け合わないと命に係わる危険性を身をもって経験した事を二人に共有したかったのだ。
今はまだ日も浅く、野外キャンプ程度の気持ちの従業員もいるかもしれない。だがそれは命取りになる可能性だってある。
稲木と間野は仁の話を素直に聞いている様子であった。それは無理もなかった。今まで無害の人種と思われていた須沖課長にコテンパンにされたのだ。
仁はその事に対しても謝罪をすると、二人も同調するように仁へと謝罪をし始めた。
間違いは誰にだってあるし、何が正解かもわからない。ただ、ここにいる皆が気持ちを一つに行動すべきだと仁は付け加えた。
稲木と間野は納得したようであり、仁の言葉と自身の不甲斐なさに涙を流して反省した。
一通り話を終え、3人が小会議室を出ると、二人の人影が見えた。
それは堀越本部長と真那であった。
稲木と間野は堀越本部長の姿を見ると目の前に整列し深々と頭を下げ、謝罪すると同時に須沖課長には大変世話になったと付け加えた。
後ろで見ていた仁が口元を緩ませると、真那も仁の隣に並び、無事に顛末を迎えられた事に微笑んだ。
◇◇◇
仁と真那は工場に隣接している設備課の小屋に向かっていた。真那から水車が出来た事を聞いたからだ。
その道中、真那は仁に昨日の話を始めた。
「昨日の須沖課長、怖かったですよ。あんなオラオラ系とは」
「んあ?そうか。真那の為に本気出しちゃったかな・・・てへ」
「ブーッ、仁!昔は急に距離を取ったクセに、何を言ってるんですか?」
真那も何気ない会話をしているとつい須沖課長ではなく仁と下の名前を呼んでしまう。そして仁も、周りに誰も居ないときは無意識のうちに真那と呼び捨てにしていた。
「距離?勘違いだなそれは。あれは真那のタメをおもっ・・・」
「ブッブー!言い訳は不要ですよ~。でもこうやって昔みたいに喋れるのも異世界転移様様ですね」
「おや、それは上司の私に気があると言う意味ですかな?コホン!」
「もう、信頼している部下をからかわないで下さい!」
何となく昔の心地よい雰囲気を感じさせながら談笑した二人は、設備課の小屋へ到着した。
小屋の外には大きな立派な水車が置かれていた。
「おおー!感動だな!」
仁と真那が水車の出来が思った以上に良かったことに驚いていた。
そこに土屋工場長と設備課長の加茂が現れた。
水車は直径5メートル、幅1メートルの木とステンレスの複合型で組みあがっていた。総重量は概算だが6トンあるそうだ。
しかしここで問題があった。水車は完成したが、川まで運ぶ手段がなかった。車も走れない森の中を抜けるのは至難の業だ。
そして付け加えて加茂課長は言う。水車はこの円形が重要であり、運搬中に曲がりでもしたら一から作り直さなければならないと。設置する川付近で工作する手も考えたが、道具が揃っているこの設備課の小屋でないとそもそも作成もままならなかったのだ。
仁はそれを聞き、何かを閃いたかのように左手の平に右手の拳の底をポンと打ち付けた。
「それなら運搬はジャックに任せよう!」
「「「ジャック?」」」
土屋工場と加茂課長、そして真那はハモるようにして仁の謎の言葉を口にした。
[ジャック]とは仁が決闘した隻眼のサイの名称であった。決闘が終わった直後、慈愛に隻眼のサイの名前を聞いたところ、動物の群れに個々の固有名詞は付いていないと聞かされ、仁が自分で呼びやすく隻眼のサイに名前を付けたのだ。
仁曰く、隻眼で海賊っぽいから、それらしい名前を付けたと説明した。真那もそんな事はつゆ知らず驚いていた。
「そんな事が可能なのか?」
土屋が半信半疑で運搬に関して仁に問いだした。
「まぁ、大丈夫でしょう。今から呼んできますね」
そう言うと仁と真那は品質管理課の持ち場まで歩き出した。
仁が稲木部長や間野と3人で小会議室に籠っていた最中、既に作業時間となっており、真那を除く品質管理課のメンバーは小田係長が引き連れて持ち場へと向かい作業を開始していたのだ。
森を抜け川が見え始めるといつもの作業風景が見えた。ちょうどサイたちも石の運搬を手伝ってくれていた。
品質管理課の面々は仁の姿を確認すると皆が手を止め笑顔となった。仁の表情から、どうやら昨日の件が丸く収まったのだと感じたからだ。
仁はキョロキョロと辺りを見回し、ひと際大きいサイを発見した。仁はそこに小走りで向かった。
「ジャック!頼みがあるんだ!」
《???》
ジャックは首を傾げて仁の顔を見つめる。何かをお願いされているようだが、人間の言葉はサイにもわからない。
仁はあれこれ10分程ジェスチャーで内容を伝えようとするが、ジャックは一向に首を傾げるだけであった。
「ハァハァ、難しいな・・・ん!?」
膝に手を突き、前屈みになって息を切らしている仁は、ふと視線を感じた。その方向へと顔を向けると、ジャックの数メートル横に慈愛が立っていた。
慈愛はニヤニヤと腕を組み、仁の姿を見ていた。
「ちょうど良い所に!・・・って、いつからそこに?」
「ん?「ジャック!頼みがあるんだ!」とお主が言った辺りじゃな」
慈愛は再びニヤニヤと笑う。最初から最後まで仁のジャスチャーを見ていたのだ。
実は品質管理課のメンバーは慈愛の存在に気付いていたが、慈愛が人差し指を鼻に当て、シーッと静かにするように周りへ合図をしていた。
仁は文句の一つも言ってやりたかったが、サイと意思疎通が出来るのは慈愛しかいない。
ここはグッと堪えて慈愛に通訳をお願いする。
「オーケー!面白い物を見せてもらったからサービスじゃ」
仁はしぶしぶお願いしますと頭を下げ、大人の対応を見せた・・・が、内心は少しイラっとしていたのは言うまでもない。
そして、ようやく話が付くと、ジャックは群れの中から5匹を選出し水車のある場所まで向かう事となった。




