第22話 小悪魔的な女子社員
水路は完成間近であった。
各部署は工場付近にある[ろ過装置]から川までの距離を作業分担し、ようやく1本に繋がろうとしていた。
そしてその水路の脇をサイが5頭と、その上に仁と真那、そして小田の3人が跨り工場を目指していた。慈愛はしばらく作業を見てから他を見て回ると言い同行しなかった。
各々の部署は仁たちがサイを引き連れて移動している姿に一瞬驚き、そして中には羨ましそうな視線を送る者もいた。
「いやー、優越感あって堪らないですね。須沖課長~」
無理やり付いて来た小田がはしゃいでいた。たまに見せる少女的な仕草が小田を可愛らしく見せる場面もある。
「あんまりはしゃいで落ちるなよ~。労災は降りんぞ~」
仁は冗談っぽく小田に注意した。そう言った仁も、実は少し優越感が無くもなかった。
「そういえば真那ちゃんは乗り慣れていると言うか、何か姿勢も良いわ。この間は馬にも乗ってたし、何か経験でも?」
「ええ、大学時代に少し趣味で乗馬をしてました」
女性二人の会話に仁はなるほどと黙って頷いた。
確か真那が入社したての頃、体を動かす事が好きだと言っていたのを思い出した。見た目は細くて華奢だが、運動神経は確かに良さそうだ。
工場の設備小屋に到着すると、先程と同様に土屋工場長と加茂課長、そしてQCの豊川も追加で現れていて3人が待っていた。
「うわー、すごい真那ちゃん!こんな大きなサイに乗って登場なんて!」
豊川はサイに跨っている真那の姿を見つけると大きくはしゃいだ。土屋と加茂も、仁がサイを引き連れて来た事に大いに驚いていた。
「須沖。まさか本当に連れて来るとは・・・」
サイから降りる仁にそう言いながら土屋が近づいた。仁は任せろと言わんばかりに親指を立てドヤ顔をした。
さて、肝心の水車の運搬だが、なるべくなら振動を避けながら運搬をしたい。
そこで4匹のサイにロープを括り付け、その中心に挟み込むように水車を立てて固定する。4匹のサイが近寄り過ぎないように防止の為、サイ同士にも木の棒で支えをする。
そしてそれをジャックが先頭でけん引するように誘導していく。簡単に言えば祭りのお神輿形式で水車の運搬を開始する。
その他の水車を設置する土台や工具は、設備課が総勢で手持ち運搬をする。水車を運ぶよりはまだ人力で運べる数量であった。
「よし!行こうか」
仁だけは誘導係の先頭にいるジャックに跨った。一緒に来た真那や小田は、他の設備課メンバーと共に運搬経路の確保や小さな部品の運搬を手伝う。
「あー!須沖課長!私も乗せてくださいー!」
豊川が両手を上げながらピョンピョンとジャンプして仁の元に近づいて来た。
「んあ?大丈夫かな。二人も乗せて?」
そう仁が言う間もなく豊川は仁の後ろに飛び乗った。ジャックは微動だにせずに平然としていた。
「いらぬ心配か。豊川さんは軽いしな」
「そうなんです。私、細身の巨乳なんで~」
豊川はそう言って仁の腰に手を回し抱きついてきた。
「(ぅおおっ確かに!)」
仁は背中の感触に意識が集中した。
水車の運搬が開始され、ジャックが一歩ずつ歩くたびにぷにっとした軟らかい感触が、仁の背中に小刻みに圧力を掛けた。
「(これは役得!)」
仁は自然に少し顔が緩んで来た。すると何やら冷たい視線が向けられている事にハッと気付く。
真那と小田が目を細め、軽蔑するような眼差しで歩きながら仁を凝視していた。
仁はそれに気付き、急に顔をキリッとして前方を見た。
「足元に気を付けながら進んで行こう!道のりはまだ長い!」
そう言い終わると仁は再び真那と小田の方をチラッと見た。冷たい視線は解けることは無かった。
「あ~ん、揺れるぅ」
豊川はそんな仁の心境を悟っているかのように、わざと仁の背中に顔をうずめて来た。豊川は仁の背中越しに一瞬真那の方角を見た。
「(うふふ、真那ちゃん。心配そうな顔してるわ。面白い!)」
豊川は小動物がちょっとしたイタズラをした時の様な笑顔を見せた。
「豊川さん、揺れるの怖いなら降りた方が良いんじゃないか?」
仁が後ろを少し振り向いて話すと、豊川は仁の耳元にグイッと顔を近づけて来た。
『揺れるって、胸ですよ・・・(ボソッ)』
豊川の発言にさすがの仁も少し焦った顔をしながらも耳を赤らめ、すぐに前方に視線を移した。
「(ふふ、おっさんをからかうのも面白いわ~)」
そんな小悪魔的な豊川にからかわれながらも、水車の運搬は順調に進み、目的地に到着した。目的地ではいつものように品質管理課のメンバーが水路作りをしていた。慈愛は既にいなく、他を巡回しているようであった。
仁と豊川はサイから降り、水車の取り外しを手伝いに行く。小道具を運んでいた真那と小田も荷物を下ろし、仁の元へと向かった。
真那と小田は仁の両サイドに挟み込むように移動し、荷解きを手伝いながら目線を手元に向けたままでボソッと話した。
『お疲れ様。ロリコン課長』
『お疲れ様。セクハラ仁』
仁はギョッとした顔で両サイドに居る二人の顔を交互に見た。真那と小田は目を合わせることなく黙々と手を動かして作業を進めていた。
「いや、あはは。ひどい言われようだな~。な、何か勘違いしてない?」
真那と小田は一瞬だけ仁に視線を向けると、再びプイッと顔を背けた。
そんな様子を、その場で作業を続けていた品質管理課のメンバーは何があったかなどつゆ知らず、不思議そうな顔で3人を眺めていた。




