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ある日突然。娘がタイムスリップしてきた件  作者: りおの古書店
5日目
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5日目(11)


 僕と島田さんが雫を見送ると、辺りはもう暗くなっていて、明かりとしては心もとない公園の街灯だけが僕達の影を照らし出す中。僕は島田さんとベンチに座ったまま、雫の事を説明していた。


「未来から来た翔君の娘ねえ……それを信じて一緒に住んでたって事?」

「そ、それは……そうだけど」

「私の所に来てたらまあ、信用しないだろうし、雫からしたら良い判断だとは思うけどね」

 それが事実な手前僕が反論できずにいると、島田さんはからかう様に軽口を言って楽しそうに笑う。

「でも、父さんの事知ってたり僕しか知らないこと知っていたから、それに……」

「それに?」


 僕がそこで言い淀むと、島田さんは優しげな声で続きを聞こうとしてくれる。

「あそこまで僕の事を考えてくれる人は、少なくとも他人じゃないから」

「……それもそうだね」

 僕の答えを聞いて島田さんは笑ってくれるが、僕達はまだ友人が遠くに行ってしまった事実を上手く呑み込めていない様で、気を抜くと直ぐに静かな空間を作ってしまう。


「でも、相談してくれたら良かったのに」

 そんな考えを悟ってか、島田さんは拗ねた様な声を出すが、それとは裏腹に少しだけ僕の方に近づいて来る。

「い、いや。娘って言ったら島田さんは意識しちゃうでしょ?それは雫も同じ意見みたいだったし」

「まあ、確かに親が誰なのか、とかは聞き出してたと思うけど」

 聞いていたでは無く、聞き出していたと言った島田さんに少しの恐怖を覚えつつ、息苦しい程に近づいた距離を離そうと僕は少しだけ横にずれる。


「でも私にそんな隠し事してたんだから、雫の分も含めてちゃんと誠意を見せてくださいね?」

 島田さんはそう言うと、僕が離れたのを分かっていながら、もう一度距離をつめてくる。

「せ、誠意とは……」

「そうだね。雫みたいに私ともデートして、それからお家にもお邪魔させてね」

「それは……雫の時とは違うじゃん」

 島田さんの言う誠意に僕が首を横に振ると、彼女は拗ねた様に口を尖らせてまたグッと近づいて来る。


「でも、私だって嫉妬するんだよ?」

「……直ぐじゃなくてもいいですか?」

「うん!」

 僕から言質を取ると島田さんは満足した様子で、勢いよく頷いてから縮めた距離を元に戻す。

 僕は体制を戻して深く息を吐くと、自分の座っている位置がベンチの端になっていて、島田さんが僕に気を使って、雫が居た時の様に狭くしてくれていた事に気が付く。

 彼女の気遣いを感じてもう一度息を吐くと、体の力が抜けたのか、雫とのある会話を思い出して、島田さんに向かって同じように質問をする。


「島田さんってさ、将来の夢ってある?」

「将来の夢?」

 僕からの不意な質問に、島田さんは不思議そうに首を傾けて僕の言葉を繰り返す。

「そう、お花屋さんになりたいとか、お医者さんになりたいとか」

「うーん。まだ具体的には考えられていないかな」

 僕の言葉に島田さんは頭を抱えて真剣に考えてくれるが、直ぐに困った様に愛想笑いを浮かべてそう返してくる。

「僕はあるんだ。聞いてくれる?」

 自分に自信をつけたくて、小さい星が見える夜の空を見上げながら、僕はしっかりと声に出そうとする。

「うん!」

 島田さんは僕の意図を汲み取ってくれたのか、僕の背中を押す様に優しく元気な声で直ぐにそう返事をくれる。

 そんな些細な事に、泣き虫な僕は視界を少しだけ歪ませてしまう。


「何からすればいいとか、そんなの全く分からないけど……僕いつかタイムマシーンを作るよ」

「……そっか」

 島田さんは、僕の突拍子も無い夢を子供の様だと笑ったりする事もしないで、諭す様に、覚悟を決めたかの様に強くしっかりと声に出して返事をくれる。

「勉強しないとなー!」

 そんな彼女の優しさに、僕は今にも零れ落ちそうな涙をグッとこらえて、体を伸ばしながら誤魔化す。だけどちゃんと自分に言い聞かせる様に、大きくそう声に出す。


「ふう……島田さん、また勉強教えてよ」

「うん! 翔君なら出来るよ」

 島田さんから帰ってきた温かな言葉に、僕の心は激しく揺れてしまうが、彼女のまっすぐなその視線を僕はしっかりと受け止めると、公園を後にするべく力強く立ち上がった。




次回が最後です

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