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ある日突然。娘がタイムスリップしてきた件  作者: りおの古書店
4日目
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4日目(5)


「それで、一体どういう事なのかな?」

 温度の無い島田さんの透明な声に、僕の体は無意識にビクリと反応をする。

 いつもならば背が低い事もあって、可愛らしい印象のある島田さんが、ベンチに座って居るのにも関わらず、その前で立っている筈の僕の方が小さいのでは無いかと錯覚すら覚える程に、今の島田さんは大きく、そして恐ろしく僕の目に写る。

「あの……少しだけ、作戦会議とかって」

「うん。却下だよね」

「……ですよね」

 その答えは求めて無いと、僕の声を遮る様にして告げた島田さんは、全く笑顔を崩す気配もなく、取り付く島もない状況に僕は思わず目を逸らしてしまう。


『わかってると思うけど、子供ってのは内緒だからね』

『え、なんで?』

『それぐらい分かって!』

 そんな風に僕と雫が目だけで会話をしていると、それに気が付いたのか、島田さんがわざとらしく咳払いをする。

 その音に僕達の体はまたビクリと反応をして、島田さんの方に視線を戻す。


 昨日の今日で大人に成ると決めた矢先に、こんな醜態をさらしている自分に嫌気がさして、僕は音を出しながら大きく深呼吸をする。

 すると、その音に反応する様にして、雫と島田さんの視線が僕の顔に集まる。

「単刀直入に言いますと、今、僕の家には雫が居候しています」

 その視線に答える様に、僕は島田さんを見つめ返しながら、つたない言葉で真っ直ぐに伝える。


 すると数秒の沈黙の後に、島田さんは大きく息を吐き出して、さっきまでの雰囲気とは違い、ふてくされた子供の様に頬を膨らませながら声を出す。

「そうなんだ……でも、どうして?」

 僕がその問いに返そうとすると、島田さんはそれを止める様に首を横に振ってからベンチの両脇をパタパタと叩いて、無言のまま『座って』と伝えてくる。

 その指示に従う様にして、僕達がそれぞれ島田さんを挟む様に横に座ると、島田さんは僕の左手と雫の右手をギュッと両手で握りしめる。

 その島田さんの行動に、こんな状況にも関わらず僕の鼓動はドクンドクンと大きな声で悲鳴を上げる。


「それで、どういうことなの?」

 だが、そんな考えを打ち砕く様に、島田さんは真剣な面持ちで僕達の方を見ないまま、真っ直ぐ前を見つめて話を戻す。

 こんな真剣な島田さんに対して話せない事があるのを、どこか後ろめたく思ってしまっている自分の曖昧さに、僕はまた嫌気がさしてしまう。

「雫はかなり遠い所から一人で、僕に会いに来たらしいんだ」

 僕が島田さんの顔を見ながらそう声に出すと、島田さんの手を握る強さが強くなったのを感じて、僕はその手を握り返す事も出来ないで言葉を続ける。

「それも、僕に会いに来る為に」


 島田さんの気持ちに対して嘘をつく事に躊躇いながら、僕は慎重に言葉を選んで語り続ける。

「だから少しの間、僕の家に住んでもらってるんだ」

「そっか……」

「海ちゃん、違うの!」

「ううん、違わないよ。大丈夫」

 雫の停止を聞く事もせずに島田さんは首を横に振るが、彼女はその温かい手を離す事もせず、ただぎゅっと包み込む様にしっかりと包み込んでくれる。

「柊君はちゃんと誠実に向き合ってくれたんだから、それに雫もそうでしょ?」


 彼女の言葉に雫は今日まで溜め込んでいたのか、島田さんに寄りかかる様にして、言葉を話す余裕も無さそうに息を乱しながら涙を流す。

「ごめんなさい。ありがとう、お母さん」

 雫の漏らしたその言葉に、僕も島田さんも何も言わずただ無言のままで、そこに残ったのは、雫の泣き声と右手に残り続けていた温もりだけだった。


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