3日目(6)
「ただいま」
声が震えない様にゆっくり言うと、僕の顔を見上げる二人に目もくれず雫の横に腰を掛ける。
「それで、どうなったの?」
僕は誰かにでは無く自分に恰好をつけながら、精一杯平常心で話を始める。
「この子が孫って言うのは聞いたし、納得した」
僕のそんな強がりが伝わってしまったのか、雫は戸惑った様な顔をしているが、父さんは全部を分かっている上で普段通りに声を返してくれる。それが僕にはすごくありがたかった。
「そっか。お疲れ様」
父さんの口から出てきた孫と言う響きに、やはり違和感を覚えて、それがまたおかしくて隣であたふたとしている雫の頭に手を置く。
「う、うん。よかった」
そう返した雫は、僕の顔色を窺う様にこちらを見ていたが、その頬が若干緩んでいるのを見つけて僕も少し落ち着いてしまう。
「それで話ってのはこれだけなのか」
「それなんだけど、雫をしばらくの間。家に住まわせてもいいかな」
僕の言葉に父さんは驚いた風にも見えたが、すぐに久しぶりに見た優しい笑顔で返してくれる。
「孫なんだから、そうするのが当然だろ」
「いいの?」
「なんだ。反対されると思っていたのか?」
「いや、そのなんていうか、年頃の女の子を家に住まわすとか」
僕が口を小さく動かしながら言うと、隣で雫がニヤニヤと顔を赤くしていて、前に居る父さんは声を出して笑う。
「お前がそんな軽はずみな事しないって、父さんは知っているから」
そう笑う父さんの声に、僕はなんだか恥ずかしさが込み上げてくるが、『知っている』そんな些細な言葉だけで、心の底の方から熱いものが漏れ出てくるのがわかる。
「そっか、うん。ありがと」
「……もう大丈夫か」
「うん。大丈夫」
僕の言葉に、父さんは寂しそうな顔をするが、少しだけ自慢げに柔らかい笑みを浮かべる。
(この表情の意味が、僕にも分かる時が来るんだろうか?)
そんなことを考えていると、目線は横で座っている雫の方へと自然に動かされる。
「それじゃ、俺は戻るよ」
「うん。今度は帰ってくるの待ってるね」
「っ……おう」
僕は勇気を振り絞って、娘に教えてもらった“わがまま”を言うと、父さんは少しの間を置いて、僕達の方に視線を送る事なく席を立ち、伝票をもってレジの方へと歩いて行ってしまう。
その後ろ姿を眺めていると、僕の横から雫がその姿に向かって声をかける。
「おじいちゃんありがと」
雫の声に父さんは手を振るだけで、そのまま真っ直ぐに僕達の視界から去って行ってしまった。
「行っちゃったね」
「大丈夫。約束したから」
雫が零した心配そうな声に、僕はそう返して勢いよく冷めたコーヒーを飲み込んだ。
3日目は一番大切にしたいシーンを出したので、短いですが次回から4日目です。
これ以上この日を続けて一番伝えたい事が薄れてしまうのが嫌なので、では、4日目もよろしくお願いします。




