2日目(8)
買い物を済ませると僕達も落ち着いてきて、少しは意識してしまっているが普段通りの会話が出来るようになっていた。
「ありがとうね、島田さん。僕達だけじゃ買えなかったから、助かったよ」
「うん、ありがとうね。海ちゃん」
僕達の言葉に島田さんは笑顔で返してくれるが、そこには少し影が有る様にも見えた。
「ううん。私こそ楽しかったよ、ありがとう」
島田さんは自分の考えを拭い去る様に首を大きく横に振ると、今度は影を感じさせない笑顔で答えてくれる。
「それで、二人はこの後どうするの?」
島田さんの質問に、ノープランで来た僕と雫は顔を見合わせて話し始める。
「もう帰ってもいいけど、どうせだしご飯でも食べてから帰るか」
「そうだね。そうしよっか」
僕の提案に雫は同意を示してくれて、僕達は島田さんの方へと目線を戻す。すると、島田さんは寂しそうな顔で話し始める。
「そっか。それじゃあ、また明後日に学校で、だね」
僕はアニメの主人公の様に鈍感ではいられない様で、島田さんのその言葉に返す為に、勇気を出して声を放つ。
「その、えっと……島田さんが良ければなんだけど、お礼も兼ねて一緒にご飯でもって思ってるんだけど、どうかな?」
僕は照れくさくなり、彼女の方に顔を向ける事も出来ないまま、ましてやスムーズに誘える技量も持ち合わせては居ないけれど、精一杯の言葉を島田さんに届ける。
だが、島田さんが何も言わないので、僕は顔をそむけたまま、目線だけを彼女の方へと戻す。
するとそこには、少しだけ頬をあからめた島田さんが、見るからに嬉しそうにしている顔が目に入ってきて、僕はドキッとしてしまい、また咄嗟に目線を逸らす。
だが、逸らした目線の先に居た雫も、ニコニコと満足気に僕を見上げていて、僕はまた慌てて目を逸らす。
「なら、お言葉に甘えて、一緒に行ってもいいかな?」
そんな僕の逃げ道を塞ぐ様に島田さんが視界に入ってきて、上目使いで笑顔を向けたまま言葉を返してくる。
「う、うん」
僕の返事を聞いた島田さんは、満足そうに「うん!」と告げきて、その声に僕はまた恥ずかしくなって逃げだしたくなる。
そんな僕の心を読み取ったのか『逃がさないぞ』とでも言いたいのか、僕の腕にしがみつく様にして、雫が嬉しそうに腕を組んでくる。
「さすがは翔君、女たらしだね」
「そんなのじゃないし。歩きにくいから離れろ」
その言われ慣れない言葉とは裏腹に、僕の言葉を聞いても、雫は依然楽しそうに僕の腕を離さないでいる。
そんなやり取りをしていると、もう片方の腕に何かが触れてきて、僕は咄嗟にそちらに振り向く。
「なっ!?」
振り向いた先で目に入ってきた光景に、僕は驚きのあまり、言葉にもならない声を零してしまう。
そこには、僕の腕にしがみついた島田さんが、拗ねた子供の様に頬を膨らませて、恥ずかしさもあるのか、少し赤くなった顔で僕の事を睨みつけている姿があった。
「今は私のターンだったのに、余所見するのは良くないんじゃないかな?」
「あっ。はい」
島田さんのその行動に、僕は言葉を喉に詰まらせた様に、ぎこちない声を出してカチコチに固まってしまう。
「それじゃあ、レッツゴー!」
僕が固まっている中。島田さんは雫に離れる様にと目線で訴えていた様だが、雫はその視線にますます嬉しそうにして、僕の腕を引っ張って歩き始めてしまう。
そんな風にして歩き出した二人は何も気に留めていない様だが、周りからくる冷たい視線と慣れない腕の感覚のせいで、僕の頭の中は逃げたいという言葉に埋め尽くされてしまっていた。




